ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第四章

4-18

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 それから数分後――

 大人げないハクサンの「収まり知らずのワガママ」に折れる形で、休憩に入ったラディッシュ達。
 強行軍を続けようとするドロプウォートに対し、キーメとスプライツが「やすんであげよぅ」と提案して実現した、早めの休憩、昼食でもあった。
 ワガママを言うハクサンと、そんな彼を気遣う幼子二人。
 いったいどちらが大人なのか首を傾げたくなる状況に仲間たちが呆れ笑う中、食材の入った木箱から、スライスした肉束を取り出すラディッシュ。

 それを木鉢に入れると、上から醤油の様な香りのする液体、甘味料、幾つかの香辛料と若干の水を入れ、
「あとはコレを揉んで、味を染み込ませるだけなんだけど……」
 興味津々覗き込んでいたキーメとスプライツに、

「揉んでみる?」

 二人は笑顔で、

『『もむぅ♪』』

 手を伸ばしたが、
「!」
 二人の手は藪を掻き分け進んで来た為に、草の汁や泥だらけ。

「ちょ、ちょっと待って二人とも。先に手を洗わないとだね」

 注意したが、自分の手も見て、
「あっ、僕もだ……」
 迂闊な自身に苦笑し、
「どうしよう……?」
 すると二人はニッと笑い合い、

「「パパ、テテだしてなぉ♪」」
「こう?」

 促されるまま二人の前に両手を差し出すと、幼子二人は小さな両手をかざし、
≪≪てんぜのおんけいをもってわれら、ねがう≫≫
「「「「「「「!?」」」」」」」
 驚くラディッシュ達を尻目に、その身を白銀の輝きに包み、

≪≪ちょっとのぉ、ミズぅう≫≫

 何もない空間からラディッシュの手に、水圧の弱い蛇口から出た様な水がチョロチョロと流れ落ち、彼の手の汚れを洗い流し始めた。
 この水は、魔法のように降って湧いた物ではない。

 言わずもがな、キーメとスプライツの天技により、ラディッシュ達の周囲の空気中から、周囲の草木から、地面から、少しずつ分けてもらい、集まって出来た物である。
 しかし、それを実行したのは幼子。

 中世の子供は、生まれながらに天法が使える素質を持っているとは言え、二人はあまりに幼く、見た目年齢にそぐわぬ高度な天技に、天法開発を天世から一任されている国フルールで重責を担って来たニプルは、

(普通この歳で……これほど繊細に天法を扱えるモノなのか……?)

 微かな、疑惑染みた感覚を抱いた。
 その一方で、

『天才ですわぁあぁっぁあぁぁ♪』

 歓喜の歓声を上げたのはドロプウォート。
 何の疑いも無く、満面の笑顔で二人を後ろから抱き締め、二人同時に頬ずりしながら、

「流石は「ワタクシ達の子」なのですわぁあぁ♪」

 有頂天な笑顔に毒気を抜かれたニプルは疑念も忘れ、
(やれぇやれぇ……)
 パストリス達と呆れ笑いを向け合った。
 和気あいあいとした昼食準備のさ中、巨木の幹の陰に隠れ、
((((((…………))))))
 様子を窺う幾つもの目。

 その目たちは、互いに何かを確認し合うように無言で頷き合うと、一人が森の奥へ向かって駆け出した。
 しかもネコ科動物さながら、足音を全くさせず。

 森の中を疾走する何者か。

 木漏れ日に一瞬照らし出された「その者の姿」は全身黒尽くめの、影の様な黒装束で、忍者とでも言えば想像易いであろうか。
 やがて森を抜け、少し開けた場所に出ると、そこに居たのは鎧を纏った騎士兵士の一団で、ざっと見て三十人。
 黒装束の何者かは、一団の中央で切り株に座し、他の騎士兵士たちと異なる存在感を放つ騎士の前に跪き、
「発見しました隊長」
「うむ」
 仏頂面した青年騎士が頷くと、

『俺たちの言った通りだったしょぉ!?』

 調子よく、彼らの前に躍り出たのはキーメとスプライツを連れ去ろうとした、あの冒険者たち。
 愛想笑いでへつらうと、隊長と呼ばれた青年騎士は仏頂面したまま一瞥くれる事も無く、

「褒美を受け取り、早々に下がれ」
(((((…………)))))

 見下した物言いに思う所はあったが、

(((((金さえ貰えれば……)))))

 割り切った半笑いで、代表格の一人が両手を差し出すと、

「「「「「え?」」」」」

 彼の手に乗せられたは、とても小さな、それはとても小さな小袋が一つ。
 まさかと思い中を覗いた冒険者たちは、

「何だこりゃぁ!?」
「何だよ、この額はぁ!?」
「子供の駄賃か、手間賃か?!」
「五人の一食分にもなりゃしねぇ!」
「今日び、下働きの連中でももっと貰ってるぞ!」

 あまりの額の少なさに不平を口にしたが、隊長は背けたままの目を合わせる事も無く、
「貴様らが請け負った依頼は「捕縛」であろう。それを達成出来なかったと言う事は「任務失敗」の意。本来は無賃であろうが」

「「「「「うっ……」」」」」

 痛い所を突かれる男たち。
 しかし、ここで引き下がっては冒険者の名折れ。

「で、でもよぉ! 俺たちのお陰で、隊長さん達も点数稼ぎが出来るんじゃねぇかぁ」

 食い下がると、
「点数稼ぎ、だと?」
 不穏な空気を纏い、立ち上がる隊長に、

(((((やべぇ……)))))

 怒りの導火線に火を点けたと、瞬時に察する冒険者たち。
 世渡り上手も長生きの秘訣。
 即座に、

「「「「「失礼しましたぁあっぁあぁぁ!」」」」」

 飛ぶように逃げ去った。
 足早に遠ざかる背に、

「点数稼ぎなど生ぬるい」

 隊長は不敵な笑みを浮かべ、
「私はこれを機に、中央へ行ってみせるのだよ」
 跪いたままの黒装束を見下ろし、
「標的の動きは如何に?」
「はっ! 奴らは、我ら「影」が使う「天法を偽装する天技」と似た術を使い、存在を気取らせないよう森を進んではおりますが、標的の子供二人には不可能の様子。加えて未熟者も混じって居り、我らに捕捉された時点で、もはや逃げ切る事はもはや叶わぬでしょう」
「そうか」
 再びの仏頂面で頷いたが、

「しかし」

 眉間に深いシワを寄せ、
「逃げ込んだ先が「勇者一行」とは厄介な……」
 黙考すると、
 
『子供だけを連れ去る事は可能か?』
「是非も無し」

 黒装束は即答し、
「名高き勇者一行と言えど、我らに気付けぬ程度。そこから子供二人を連れ去るなど造作もありませぬ。なれば、」
 跪いたまま面を上げ、

「隊長が中央の任に就いた暁には、我ら「影」を正式な配下として取り立てて頂きたく、」
 申し入れの言葉が終わるのを待たず、
「良いだろ。ならばこそ、果たして見せよ」
 鋭く見下ろす眼光に、

「はっ! 必ずや!」

 黒装束は隠し切れない喜びをひた隠し、来た道を駆け戻って行くと、副官と思しき騎士が歩み寄り、
「良いのですか、隊長? あの様な下賤の輩を、我が騎士団に加えるなどと」
 苦言を呈すと、
「中央に返り咲く為には、使える物は何でも使う。それに……」
「それに?」
「団員として受け入れるとは、一言も言っておらぬしな」
 陰りを持った笑みを浮かべた。
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