ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第四章

4-39

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 アルブル城内を駆けるラディッシュとドロプウォート――

 一点を見据えたブレの無い走りからは「初めて足を踏み入れた場所」としての迷いが感じられず、まるで自宅であるが如くに、向かう先の確信が見て取れたが、それには理由があった。
 二人は脇目も振らずに走りながら、

「ラディ、これはいったい、どう言う事でしょう……?」
「…………」
「まるで「追い掛けて来い」と言わんばかりの様ですわぁ」
「そうだね。気配を「これ見よがし」に残しながら向かうなんて……」

 二人の眼にはハクサンが使用した「天法の残滓(ざんし)」が、線を引いたように、逃げた先に導くように、手に取るように見えていたのである。
 罠の可能性も否めなかったが、残して間もない「ハクサンの天法の残滓」であるのは疑いようもなく、痕跡をタダ辿って行けば良いだけ。
 しかし、

「「!」」

 城の中と外から聞こえて来る、人々の悲鳴と怒声、そして獣の咆哮。
先ほどハクサンが口にした「世界を不要と断じた言葉」は、やはり嘘偽り、ハッタリの類いではなかったのである。
合成獣の出現は城内城外に留まらず、城下町にまで及んでいるであろう事は、戦(いくさ)の素人であるラディッシュにも容易に想像でき、
(クッ……)
今すぐにでも駆け付けたい気持ちはあったが、

『ラディ!』

 ドロプウォートの走りながらの「たしなめ声」に、
「分かってる……」
 彼も足は止めなかったが悔し気に、
「先にハクさんを止めないと、もっと沢山の人が悲しい思いをするのは……」
 理解を示すと、地下階に降りるとは思えない「豪奢な赤絨毯」が敷かれた、幅の広い階段を駆け下りた。
 ハクサンの痕跡を追い、何階層か下りた先の「広間の薄暗がり」に駆け込むラディッシュとドロプウォート。

『『ッ!』』

 咄嗟に大きく飛び退いた。
 それと同時、ブオッと鋭く風を切る音と共に二人が立っていた場所から、

 ガァガキィイイィィィイ!

 床に何かが激しく打ち付けられた音が響き渡り、ドロプウォートは着地しながら、

「ラディ! 御無事ですわねぇ!」

 少し離れて着地したラディッシュも、
「僕は大丈夫! ドロプさんも大丈夫!?」
「大丈夫ですわ!」
 返事を返すと異変の起きた場所に向かって、

『何者ですのォ!』

 凄みを利かせた。
 すると薄暗がりに佇む二つの気配は、

「今の初手をかわすのか」
「流石は「異世界勇者」と「先祖返り」だな」

 感嘆の声と共に、蹄鉄の音を響かせ姿を現したのは、
『『合成獣ッ!』』
 馬のような「四本脚の体」と「人の上半身」を併せ持った、

≪ケンタウロス≫

 フルフェイスの兜に、全身を特注の甲冑で固め、人の姿の上半身は鎧に収まり切れない程の筋骨隆々、手には成人男性の身の丈ほどある大斧を携えていた。
 二人は振り下ろした大斧を、かなりの重量であるにもかかわらず軽々持ち上げ肩に担ぎ直し、威嚇する様に前足を高々と上げ、

『『ハクサン様の邪魔はさせぬゥウ!!!』』

 いなないた。
 これまで対峙して来た汚染獣や合成獣とは違い、自我のある相手。
 ラディッシュは無益な戦いを望まず、

(話が通じるかも知れない!)

 そう思うと、損得勘定も皮算用も無く反射的に、
「お願いだから、そこをどいてぇ! 早くハクさんを止めないと大勢の人の血が、」
 休戦を訴えようとしたが、

 ガァガァアァァン!

 二人は斧先を床に激しく突き立て彼の二の句を遮り、

『『知った事ではなァい!』』

 容赦なく突っ撥ね、兜のスリットから僅かに覗く両眼をギラつかせ、

「我らを「汚染人」と侮蔑しィ!」
「優越に入(い)る天世や中世など全て滅べば良いィ!」

((!))

 ラディッシュとドロプウォートは慄いた。
 自我を持った合成獣の二人が、元はパストリスと同じ「妖人」であった事実に。

 そして、
((合成獣と妖人の境目って……))
 中世の民が、ほんの僅かなボタンの掛け違い程度で、妖人にも、合成獣にもなりうる存在であるのにも気付いてしまい、
((それなのに天世は……))
 差別を助長する姿勢に不信が深まるのと同時、

(中世の人って……)
(いったい何なのですの……?)

 カドウィードの件といい、チィックウィードの件といい、疑問も深まったが、ドロプウォートは雑念を振り払うが如くに首を振り

『個人の悩みに囚われている場合ではありませんのですわ、ラディ!』

 自身にも言い聞かせ、思い改めた。
 先にハクサンの言った事の全てが真実ならば、危機は中世のみならず天世に住まう「何も知らない一般民」にも迫っていたから。

 そして、どれ程の実力を秘めているのか分からぬ二人のケンタウロスを見据え、
(その為にも!)
 数々の差別を受けて来たが故に湧きあがる「同情の想い」を心の底に押さえつけながら剣を鞘か抜き出し構え、

『推して参りますわよォ、ラディ!』

 心を奮い立たせ、

『うん! 行こう、ドロプさぁん!』

 共に剣を構えて、気概を見せるラディッシュであったが、優しすぎる心の内では見せた気勢と裏腹に、パストリスが苦悩していた姿を思い返し、
(この人達も被害者なんじゃ……)
 彼女以上に、戦う事に惑いを覚えていた。

 とは言え、戦って勝たなければハクサンの下に辿り着けないのも、また事実。

 葛藤しながらも、
(や、やるしかないんだぁ!)
 心に言い聞かせながら、剣を握る手にチカラを込めた途端、
≪世は理不尽……理不尽の全てを斬り払え……≫
(!)
 仄暗い、あの存在が。
 惑う心を更にかき乱され、
(うっ、うるさい黙っててぇ!)
 ラディッシュは心に纏わる「陰り」を強引に、無理矢理振り払うように、

『行くよ、ドロプさぁん!』

 無策に等しく単身で駆け出した。
 アルブル城内を駆けるラディッシュとドロプウォート――

 一点を見据えたブレの無い走りからは「初めて足を踏み入れた場所」としての迷いが感じられず、まるで自宅であるが如くに、向かう先の確信が見て取れたが、それには理由があった。
 二人は脇目も振らずに走りながら、

「ラディ、これはいったい、どう言う事でしょう……?」
「…………」
「まるで「追い掛けて来い」と言わんばかりの様ですわぁ」
「そうだね。気配を「これ見よがし」に残しながら向かうなんて……」

 二人の眼にはハクサンが使用した「天法の残滓(ざんし)」が、線を引いたように、逃げた先に導くように、手に取るように見えていたのである。
 罠の可能性も否めなかったが、残して間もない「ハクサンの天法の残滓」であるのは疑いようもなく、痕跡をタダ辿って行けば良いだけ。
 しかし、

「「!」」

 城の中と外から聞こえて来る、人々の悲鳴と怒声、そして獣の咆哮。
先ほどハクサンが口にした「世界を不要と断じた言葉」は、やはり嘘偽り、ハッタリの類いではなかったのである。
合成獣の出現は城内城外に留まらず、城下町にまで及んでいるであろう事は、戦(いくさ)の素人であるラディッシュにも容易に想像でき、
(クッ……)
今すぐにでも駆け付けたい気持ちはあったが、

『ラディ!』

 ドロプウォートの走りながらの「たしなめ声」に、
「分かってる……」
 彼も足は止めなかったが悔し気に、
「先にハクさんを止めないと、もっと沢山の人が悲しい思いをするのは……」
 理解を示すと、地下階に降りるとは思えない「豪奢な赤絨毯」が敷かれた、幅の広い階段を駆け下りた。
 ハクサンの痕跡を追い、何階層か下りた先の「広間の薄暗がり」に駆け込むラディッシュとドロプウォート。

『『ッ!』』

 咄嗟に大きく飛び退いた。
 それと同時、ブオッと鋭く風を切る音と共に二人が立っていた場所から、

 ガァガキィイイィィィイ!

 床に何かが激しく打ち付けられた音が響き渡り、ドロプウォートは着地しながら、

「ラディ! 御無事ですわねぇ!」

 少し離れて着地したラディッシュも、
「僕は大丈夫! ドロプさんも大丈夫!?」
「大丈夫ですわ!」
 返事を返すと異変の起きた場所に向かって、

『何者ですのォ!』

 凄みを利かせた。
 すると薄暗がりに佇む二つの気配は、

「今の初手をかわすのか」
「流石は「異世界勇者」と「先祖返り」だな」

 感嘆の声と共に、蹄鉄の音を響かせ姿を現したのは、
『『合成獣ッ!』』
 馬のような「四本脚の体」と「人の上半身」を併せ持った、

≪ケンタウロス≫

 フルフェイスの兜に、全身を特注の甲冑で固め、人の姿の上半身は鎧に収まり切れない程の筋骨隆々、手には成人男性の身の丈ほどある大斧を携えていた。
 二人は振り下ろした大斧を、かなりの重量であるにもかかわらず軽々持ち上げ肩に担ぎ直し、威嚇する様に前足を高々と上げ、

『『ハクサン様の邪魔はさせぬゥウ!!!』』

 いなないた。
 これまで対峙して来た汚染獣や合成獣とは違い、自我のある相手。
 ラディッシュは無益な戦いを望まず、

(話が通じるかも知れない!)

 そう思うと、損得勘定も皮算用も無く反射的に、
「お願いだから、そこをどいてぇ! 早くハクさんを止めないと大勢の人の血が、」
 休戦を訴えようとしたが、

 ガァガァアァァン!

 二人は斧先を床に激しく突き立て彼の二の句を遮り、

『『知った事ではなァい!』』

 容赦なく突っ撥ね、兜のスリットから僅かに覗く両眼をギラつかせ、

「我らを「汚染人」と侮蔑しィ!」
「優越に入(い)る天世や中世など全て滅べば良いィ!」

((!))

 ラディッシュとドロプウォートは慄いた。
 自我を持った合成獣の二人が、元はパストリスと同じ「妖人」であった事実に。

 そして、
((合成獣と妖人の境目って……))
 中世の民が、ほんの僅かなボタンの掛け違い程度で、妖人にも、合成獣にもなりうる存在であるのにも気付いてしまい、
((それなのに天世は……))
 差別を助長する姿勢に不信が深まるのと同時、

(中世の人って……)
(いったい何なのですの……?)

 カドウィードの件といい、チィックウィードの件といい、疑問も深まったが、ドロプウォートは雑念を振り払うが如くに首を振り

『個人の悩みに囚われている場合ではありませんのですわ、ラディ!』

 自身にも言い聞かせ、思い改めた。
 先にハクサンの言った事の全てが真実ならば、危機は中世のみならず天世に住まう「何も知らない一般民」にも迫っていたから。

 そして、どれ程の実力を秘めているのか分からぬ二人のケンタウロスを見据え、
(その為にも!)
 数々の差別を受けて来たが故に湧きあがる「同情の想い」を心の底に押さえつけながら剣を鞘か抜き出し構え、

『推して参りますわよォ、ラディ!』

 心を奮い立たせ、

『うん! 行こう、ドロプさぁん!』

 共に剣を構えて、気概を見せるラディッシュであったが、優しすぎる心の内では見せた気勢と裏腹に、パストリスが苦悩していた姿を思い返し、
(この人達も被害者なんじゃ……)
 彼女以上に、戦う事に惑いを覚えていた。

 とは言え、戦って勝たなければハクサンの下に辿り着けないのも、また事実。

 葛藤しながらも、
(や、やるしかないんだぁ!)
 心に言い聞かせながら、剣を握る手にチカラを込めた途端、
≪世は理不尽……理不尽の全てを斬り払え……≫
(!)
 仄暗い、あの存在が。
 惑う心を更にかき乱され、
(うっ、うるさい黙っててぇ!)
 ラディッシュは心に纏わる「陰り」を強引に、無理矢理振り払うように、

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