ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-7

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 計画が動き出して数日――
 
 夜闇に乗じてアルブル国国境警備隊の監視を逃れ、国境を越える二つの小さな影。
 少々着膨れた全身黒づくめの黒装束を纏った二人は、最北に位置する村の手前まで来ると、装束を脱いで土に埋めた。

 月明りに照らし出される二人。

 その身をアルブル国北方の地域に見られる、赤と黒を基調とした男児と女児の民族衣装で固め、はた目には現地の子供たちと区別がつかなかったが、幼い面立ちに収まる「ギラつく眼」が、獲物を求めるかのような異質を放っていた。

 静かに頷き合う二人は再び走り出す。

 地図は予め記憶している。
 勝手知ったる村であるかのように、ひと気の無い所を選んで村内に侵入しつつ、それでも人目を警戒する慎重さを保ちながら、とある水車小屋の前に立った。

 一人が周囲を警戒し、もう一人が不規則なリズムで木戸をノック。

 それが合図であったのか、木戸は小さく開き、暗がりの中に浮かんだのは、血走った大人の目。
 舐(ねぶ)るように二人を見ると、小さく、

(入れ)

 室内へと促した。
 灯りもともさぬ漆黒の室内の中、荒く張られた水車小屋の横板の隙間から月明りが僅かに差し込む事により、大人サイズの影が数人分、確認は出来るが、個人の識別など到底不可能な暗さ。

 しかし大人サイズの人影たちは、その様な暗さの中にあっても暗さを不自由と感じている風もなく、幼子二人に対して淡々と、
(作戦内容は把握しているな?)
 二人は暗がりの中で普通に頷き、頷きが本当に見えたのか疑いたくなる暗さの中で、もう一人の大人サイズの人影は平然と、

(我々は合流地点で待つ)

 水車小屋の扉を少しだけ開け、周囲を窺い、ひと気が無いと知るや、次々出て行った。
 幼子二人を、その場に残して。
「「…………」」
 部屋の隅に、身を寄せ座る二人。
「「…………」」
 水車の回転は無用な使用による劣化を防ぐ為に止められ、小川のせせらぎしか聞こえない。

 大人不在の密室に、子供が二人。

 一般論で語るなら秘密基地の様な空間も手伝い、年齢相応の話に花でも咲きそうな物であるが、
「「…………」」
 終始無言。

 目を合わす事も無く、ただひたすらに気配を消し、作戦開始の刻限を待っていた。
 真夜中の水車小屋に見ず知らずの幼子二人が潜んでいるなどと気付かれたら、怪しまれない筈が無かったから。
 しかしそれ以前に、
「「…………」」
 二人は「会話を交わす必要性」を感じていなかった。
 双子であるにもかかわらず。

 頭の中にあるのは任務完遂の道筋だけ。

 身を寄せ合っているのも二人にとっては「単に暖を取っているダケ」の意味合いで、寒さで体が強張っていては作戦に支障が出るからであり、その様な思考に至るよう、研究所の「教練」と言う名の「実験」が、骨の髄まで染み付いていた。

 やがて数時間が経過し、粗めに鎧張りされた水車小屋の横板の隙間から、微かな光りが差し込み始めると、
「「…………」」
 二人は示し合わせた様に立ち上がり、村の人々が活動を始める前に小屋を後にした。

 表面上は子供らしい笑顔を作り、その下では何食わぬ平然とした仏頂面して村内を歩く。
 早朝の畑仕事に向かうと思われる村人数名とすれ違いはしたが、訓練された作り笑顔で挨拶を交わし、早起きして散歩を楽しむ子供を装い、難を、難なくやり過ごすし、とある脇道の手前まで来ると、
「「…………」」
 周囲の視線の間隙を縫って、一瞬にして脇道に駆け込んだ。
 
 建物と建物に挟まれた間の、薄暗い行き止まりの道。

 しかし先行部隊の下調べは完璧で、そこには幼子二人が身を隠すに十分な木箱や樽などがおあつらえ向き、乱雑に置かれ、二人はそのうちの一つに屈んで身を隠すと、
「「…………」」
 足下に花束が二つ。
 
 それこそが今回の作戦の「成功の鍵」を握るアイテムで、愛らしい笑顔を作っていた二人は、子供らしからぬ獣のような目に戻って、それを何の疑いも無く手に取った。
 陽は昇り、明るくなった通りに人々が行き交い始め、村が活動の時間を迎える中、
「「…………」」
 仄暗く、ジメジメとした脇道の物陰から、じっと何かを待つ二人。

「闇の世界」から眺める「光の世界」はとても煌びやかで、物陰に潜んで身動き一つしない二人は、まるで時間から取り残されたかの様。
 本人達がどう思っているのか、変わらぬ表情から読み取るのは不可能であるが。
 やがて悠久に止まっているかのように見えた幼子二人の時間が、にわかに騒ぎだした村人たちに触発され、動き始める。

 騒ぎの声に耳を傾けると、
≪カデュフィーユ様御一行がいらっしゃるぞぉ!≫
 歓喜が、光り輝く通りのそこかしこから。

 次第に増える民衆の背で、徐々に塞がれていく光への道。
「「…………」」
 すると幼子二人は花束を手に立ち上がり、愛らしい子供の笑顔を再び作ると、気配と足音を忍ばせ民衆に混ざり入った。
 その集団の中に、さも初めから居たかのように。

 やがて人々の前に、カデュフィーユ一行の姿が見え始めると、国の英雄を前にした民衆の興奮は最高潮を迎え、鳴り止まぬ歓声がそこかしこから轟く中、

『『カデュフィーユさまぁ♪』』

 無垢なる満面の笑顔で駆け出したのは、花束を手にした刺客の幼子二人。
 任務は、正に順調に推移しているかに思えたその頃、

『そんな馬鹿なァ!』

 声を荒げたのはミトラ。
 不敵にニヤつくキャシート・フィリィフォームを前に、

「中止とはどう言う意味ですか、所長! 作戦は今も現在進行形で行われてるんですよォ!」

 血相を変えたが、彼は平然と、むしろ困った風の半笑いで、
「情報が漏れていたのだよぉ、チュウイ」
「なっ?!」
「国同士の戦いは情報戦でもある。故に潜入させていた部隊も既に引き上げた。企て自体は悪く無かった思うのだが、いやぁ~誠に残念、残念」
「幼子二人を見殺しに、その物言いかァ!」

 怒り任せに胸倉を掴み上げたが、悪びれる様子も無く、
「ん? 吾が輩に怒(いか)って何の意味がある? 決定したのは上層部だ♪」
 その小馬鹿を交えた言い草は、彼の怒りの堰を瓦解させるに十分で、

『国の宝を物扱いする国などぉあってたまるかァアァアッァア!』
 バァキィイィィィ!

 横っ面をチカラ任せに殴り飛ばした。
 しかし殴られ尻餅ついた彼は愉快げに、

『グぅーシッシッシッシ!』

 下卑た高笑いをすると、鬼の首でも取ったかのような喜びようで、
「言質を取ったぞ、チュウイ! オマエの発言は明らかな国家反逆罪だぁ!」
 殴られた頬を嬉しそうに撫でながら、

『確保しろぉおぉ!』
「!」

 何処に潜んでいたのか、兵士たちがワラワラとやって来て、

『ミトラ中尉! 貴様を現行犯で逮捕する!』

 手錠をかけ、彼は有無を言わさず連行され、他の囚人との接触も許されぬ監獄に「政治犯」として隔離投獄された。
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