ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-9

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 数時間後――

 愕然とした表情で立ち尽くすミトラ。
「そんな……」
 身綺麗に整えられた彼の目の前にあった物、それは「共和国の一つ」と言う名の「従属国」の国々から連れ去れた子供たちが強制的に軍事訓練を施されていた、あの忌まわしき研究所があった、廃墟。

 強力な爆薬でも使ったのか、最先端の技術を濃縮して詰め込んだ施設は元より廃墟であったかのように倒壊し、国の主要機関の一つがあったとは思えない姿を晒していた。

この場所へ辿り着くまでの道すがら、カデュフィーユから「故国の非道」がアルブル国の逆鱗触れて攻め落とされた事、軍事侵攻の理由となった研究所に、真っ先に攻め入った事までは聞かされていたが、
(まさか……)
 表情が見えない程にうつむくミトラに、カデュフィーユは言葉少な、
「すまん……」
(ッ!)
 瞬時に意味を悟った。

 敗戦の色が濃くなった故国が周辺諸国からの責めを恐れ、真っ先に施設を破壊して証拠隠滅を図った事を。

 この国は、その様な非道を平気で行う国であるのを、身を以て知っていたから。
(自分が……自分が「あんな奴」の安い挑発に乗らなければ、子供たちを守れたかもしれないぃ……)
 取り返しようの無い後悔ばかりが止め処なく湧いて来たが、
(!)
 不意に、暗殺に向かわせた幼い双子が思い出された。

 しかし、
(要人暗殺未遂など、ただ済んでいる筈が……)
 それでも、元当事者の一人として子供たちの身に起きた全てを受け入れようと腹をくくり、
「あ、あの……」
 声は発したが、更なる「過酷な現実」を突き付けられる可能性を前に決意は鈍り、恐る恐る、
「あ、貴方の暗殺命令を受けた幼い二人は、」
 どうなったのかと問うより先、カデュフィーユは急にテンション高めに、「軍の要人」と言うより「親バカ」と言った表現が適切と思われる緩んだ表情を見せながら、

『キーメとスプライツの事かぁ!?』
(えぇ?! きっ、きぃめ? すぷらいつぅ???)

 初めて聞く名前に、戸惑いを覚えるミトラ。
 幼い双子は研究所では識別番号で呼ばれていた為、戸惑いを覚えたのだが、カデュフィーユは気にする風もなく自慢の我が子を紹介するが如く、

「二人とも納得のうえで、養子に迎えたぞ! 親が居ないんだから、絶対絶対絶ぇ~対に返さないんだからなぁ♪」
「!」

 その満面の笑顔が、全てを物語っていた。
 背負う必要ない不幸の数々を背負わされて来た幼子二人が、ついに幸せを掴んだ事を。
 これまでの辛酸と、未来を閉ざされてしまった他の子供たちの分まで。

 ミトラは思わず、
「良かった……」
 笑顔で泣き崩れた。


 ミトラが釈放されて数日後――

 敗戦により元共和国となったパラジット国の王都パラジクスにおいて、従属国扱いされていた近隣諸国の要人立ち合いの下、軍事裁判が開廷された。

 被告人はアルブル国との開戦を指示した「パラジット国王家」一族や、国防を名目に非人道的行為を行った者たち。
 その中には当然、逃亡先で捕らえられたキャシート・フィリィフォームの姿も。

 しかし彼は近隣諸国の堪え切れぬ怒りの中、粛々と進む裁判において、証拠が無いのを笠に「豊富な知識」を悪辣にフル活用、証言を二転三転、判士の指摘をのらりくらりとかわし遺族たちの更なる怒りを買った。
 その行いには反省も謝罪も無く、あるのは、ただひたすらに我が身可愛いさ故の保身のみ。

 証言台に立った者達も迂闊な発言からの飛び火を恐れ、明確な証言を避ける中、彼に引導を渡したのは、ミトラ。

 証人として証言台に立った彼は、自身にとって都合の悪い話も包み隠さず語り、その中でも決定打となったのは、証拠品として提出した、子供たちに行った非道の数々が記された資料束。

『ばっ、馬鹿なぁ! そんな物がある筈が無ァい!』

 取り乱すキャシート・フィリィフォーム。
 それもその筈、その資料束は通常「持ち出し禁止」であった上に、敗戦の色が濃くなるや、彼が最優先での処分を命じ、焼却された筈の資料であったから。
 
 では何故、その資料が残っていたのか。
 それはミトラが書いた物であったから。

 ミトラは資料が持ち出し禁止であったが故に、毎日少しずつ内容を記憶しては自室で書き写し、内容が更新されるたびに可能な限りの修正を加えて書き溜め、キャシート・フィリィフォームは提出された証拠が「焼却された資料ではない」と知るや、慄きを隠せない様子にありながら、

『吾が輩に敵意を持って書いた奴の資料など信用に足るものかぁあぁぁ!』

 悪あがきを見せた。
 しかしミトラの書き写した資料は正確で、彼の勇気ある行動から罪悪感に目覚めた他の研究者(被告人)たちの証言とも内容は一致し、キャシート・フィリィフォームは止まぬ罵声と怒声の中、王族共々極刑が言い渡され、研究に携わった職員たちも次々と重刑を言い渡され、やがてミトラの番となり、
「主文、被告人は、」
 厳罰を覚悟する中、下された判決は、

『無罪ッ!』

 司法取引や、減刑を願い出た訳ではないにも関わらず。
「え?!」
 最も驚いたのはミトラ本人であったが、裁判官から語られた判決理由に彼は思わず涙した。

 罪に問われなかったのは、遺族たちからの嘆願があったからであった。
 新人と言う「弱い立場」にありながら、子供たちを守る為にその身を削り、投獄までされた彼に対する感謝の表れ。

 退廷する折、涙する遺族たちを前にした彼に込み上げてきた感情は、感謝や喜び等ではなく、
「何も出来なくて済みませんでした……」
 悔しさであった。

 深々と頭を下げ、
(あの時……安い挑発にさえ乗らなければ、子供たちを守れたかも知れない……)
 後悔が消える事はなかった。
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