ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-10

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 判決からしばし後――
 
 軍から自宅待機を命じられていた彼の下を、一人の兵士が訪れた。
 彼はミトラが扉を開けるなり、見た目年齢が少々上にも関わらず、背筋を伸ばして勇ましく敬礼し、

『本部への出頭要請により、お迎えに上がりました!』

 襟章から見て、その人物の階級は軍曹。
 唐突な申し出に多少面喰いつつ、

「本部? 出頭要請?? 軍曹、それは誰からですか???」

 年齢差を気遣い、砕けた物言いで尋ねたが、性分なのか彼は生真面目に敬礼したまま直立不動で、
「本官の与り知らぬ所であります!」
「…………」
 名乗りも無い呼び出しに、不穏は禁じ得なかった。

 しかしミトラは軍属である。

 本部から「要請」と言う名の「命令」が下れば逆らう訳にはいかず、また故国がアルブル国の統治下におかれた事で、
(かつての様な無法は流石に無い、か……)
 思い改めると凛然と敬礼し、

「本部からの要請に従い出頭いたします!」

 復唱し、少々歳上の軍曹の導きで乗せられた馬車で、彼はとある施設の前に辿り着いた。
 そこは戦後復興の真っ最中である王都パラジクスの中心街にある、軍本部の建物。
 先の戦いで激しい戦火に晒されたらしく破損が著しく、櫓が組まれて町中と同様に修復中であった。

(足を踏み入れるのは初めて、だな……)

 期待の新人ともてはやされながら、皮肉にも敗戦してから初めて軍本部に入るミトラ。
 建物の内部も、実弾による物か、天法の攻撃による物かは不明であるが、至る所が穴だらけ。
「…………」
 ガレキを撤去して歩けるスペースを作るのに精一杯であった様子を窺わせるロビーで、吹き抜けの天井を思わず見上げると、
「中尉殿。こちらです」
 軍曹に二階へ上がる様に促され、

「く、崩れたりしない、よね……」

 冗談を交えた本気の心配に、彼は初めて表情を崩し、
「一階よりは生存率が高いでしょう」
「崩れる前提なんだね」
 二人は笑い合い、二階の中ほどまで進み、

「中尉殿、こちらです」

 飾り気のない扉の前で足を止め、
「…………」
 小さく頷くミトラ。
 誰が、何の理由で、この先に待っているのかも分からず、少々緊張した面持ちで扉をノック、
「ミトラです! 要請により出頭致しました!」
 すると中から、

『入りたまえ』
「!」

 聞き覚えのある、野太い声が。
(ま、まさか……)
 扉をゆっくり開けながら、
「失礼します!」
 入室すると、陽の差す窓辺に佇む軍服姿の一人の男性が。
 見覚えのある背に、

『クスキュート中佐ぁ!』

 喜びとも、驚きともつかぬ咄嗟の感情で思わず声を上げたが、裁判で降格させられた可能性を失念していたのに気付き、
(しっ、しまったぁ!)
 背筋を伸ばして敬礼しながらも、階級を示す胸元の徽章(きしょう)をチラ見。
 するとクスキュートは察した様に、武骨な顔に微かな笑みを浮かべながら、
「人事に近い任に就いていた私は、幸いにも裁判を免れてな」
「そうでありましたか」
 毅然と答えながらも心の内では、

(失礼にならなくて、ホント良かったぁ~)

 胸を撫で下ろした。
 とは言え、軍人であるミトラが旧交を温め合う為ダケに、上官に呼び出される筈も無く、
「それで大佐、本日はどう言った御用で自分は呼ばれたのでありますか?」
 すると、

『その件については私から話そう』

 唐突に男性の声が。
(?!)
 声に振り向くと、いつからそこに居たのか、小太りな体型に、神経質そうな面立ちを備えた中年男性がソファーに踏ん反り返る訳でもなく腰掛け、彼を品定めする様にジッと見据えていた。
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