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第五章
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判決からしばし後――
軍から自宅待機を命じられていた彼の下を、一人の兵士が訪れた。
彼はミトラが扉を開けるなり、見た目年齢が少々上にも関わらず、背筋を伸ばして勇ましく敬礼し、
『本部への出頭要請により、お迎えに上がりました!』
襟章から見て、その人物の階級は軍曹。
唐突な申し出に多少面喰いつつ、
「本部? 出頭要請?? 軍曹、それは誰からですか???」
年齢差を気遣い、砕けた物言いで尋ねたが、性分なのか彼は生真面目に敬礼したまま直立不動で、
「本官の与り知らぬ所であります!」
「…………」
名乗りも無い呼び出しに、不穏は禁じ得なかった。
しかしミトラは軍属である。
本部から「要請」と言う名の「命令」が下れば逆らう訳にはいかず、また故国がアルブル国の統治下におかれた事で、
(かつての様な無法は流石に無い、か……)
思い改めると凛然と敬礼し、
「本部からの要請に従い出頭いたします!」
復唱し、少々歳上の軍曹の導きで乗せられた馬車で、彼はとある施設の前に辿り着いた。
そこは戦後復興の真っ最中である王都パラジクスの中心街にある、軍本部の建物。
先の戦いで激しい戦火に晒されたらしく破損が著しく、櫓が組まれて町中と同様に修復中であった。
(足を踏み入れるのは初めて、だな……)
期待の新人ともてはやされながら、皮肉にも敗戦してから初めて軍本部に入るミトラ。
建物の内部も、実弾による物か、天法の攻撃による物かは不明であるが、至る所が穴だらけ。
「…………」
ガレキを撤去して歩けるスペースを作るのに精一杯であった様子を窺わせるロビーで、吹き抜けの天井を思わず見上げると、
「中尉殿。こちらです」
軍曹に二階へ上がる様に促され、
「く、崩れたりしない、よね……」
冗談を交えた本気の心配に、彼は初めて表情を崩し、
「一階よりは生存率が高いでしょう」
「崩れる前提なんだね」
二人は笑い合い、二階の中ほどまで進み、
「中尉殿、こちらです」
飾り気のない扉の前で足を止め、
「…………」
小さく頷くミトラ。
誰が、何の理由で、この先に待っているのかも分からず、少々緊張した面持ちで扉をノック、
「ミトラです! 要請により出頭致しました!」
すると中から、
『入りたまえ』
「!」
聞き覚えのある、野太い声が。
(ま、まさか……)
扉をゆっくり開けながら、
「失礼します!」
入室すると、陽の差す窓辺に佇む軍服姿の一人の男性が。
見覚えのある背に、
『クスキュート中佐ぁ!』
喜びとも、驚きともつかぬ咄嗟の感情で思わず声を上げたが、裁判で降格させられた可能性を失念していたのに気付き、
(しっ、しまったぁ!)
背筋を伸ばして敬礼しながらも、階級を示す胸元の徽章(きしょう)をチラ見。
するとクスキュートは察した様に、武骨な顔に微かな笑みを浮かべながら、
「人事に近い任に就いていた私は、幸いにも裁判を免れてな」
「そうでありましたか」
毅然と答えながらも心の内では、
(失礼にならなくて、ホント良かったぁ~)
胸を撫で下ろした。
とは言え、軍人であるミトラが旧交を温め合う為ダケに、上官に呼び出される筈も無く、
「それで大佐、本日はどう言った御用で自分は呼ばれたのでありますか?」
すると、
『その件については私から話そう』
唐突に男性の声が。
(?!)
声に振り向くと、いつからそこに居たのか、小太りな体型に、神経質そうな面立ちを備えた中年男性がソファーに踏ん反り返る訳でもなく腰掛け、彼を品定めする様にジッと見据えていた。
軍から自宅待機を命じられていた彼の下を、一人の兵士が訪れた。
彼はミトラが扉を開けるなり、見た目年齢が少々上にも関わらず、背筋を伸ばして勇ましく敬礼し、
『本部への出頭要請により、お迎えに上がりました!』
襟章から見て、その人物の階級は軍曹。
唐突な申し出に多少面喰いつつ、
「本部? 出頭要請?? 軍曹、それは誰からですか???」
年齢差を気遣い、砕けた物言いで尋ねたが、性分なのか彼は生真面目に敬礼したまま直立不動で、
「本官の与り知らぬ所であります!」
「…………」
名乗りも無い呼び出しに、不穏は禁じ得なかった。
しかしミトラは軍属である。
本部から「要請」と言う名の「命令」が下れば逆らう訳にはいかず、また故国がアルブル国の統治下におかれた事で、
(かつての様な無法は流石に無い、か……)
思い改めると凛然と敬礼し、
「本部からの要請に従い出頭いたします!」
復唱し、少々歳上の軍曹の導きで乗せられた馬車で、彼はとある施設の前に辿り着いた。
そこは戦後復興の真っ最中である王都パラジクスの中心街にある、軍本部の建物。
先の戦いで激しい戦火に晒されたらしく破損が著しく、櫓が組まれて町中と同様に修復中であった。
(足を踏み入れるのは初めて、だな……)
期待の新人ともてはやされながら、皮肉にも敗戦してから初めて軍本部に入るミトラ。
建物の内部も、実弾による物か、天法の攻撃による物かは不明であるが、至る所が穴だらけ。
「…………」
ガレキを撤去して歩けるスペースを作るのに精一杯であった様子を窺わせるロビーで、吹き抜けの天井を思わず見上げると、
「中尉殿。こちらです」
軍曹に二階へ上がる様に促され、
「く、崩れたりしない、よね……」
冗談を交えた本気の心配に、彼は初めて表情を崩し、
「一階よりは生存率が高いでしょう」
「崩れる前提なんだね」
二人は笑い合い、二階の中ほどまで進み、
「中尉殿、こちらです」
飾り気のない扉の前で足を止め、
「…………」
小さく頷くミトラ。
誰が、何の理由で、この先に待っているのかも分からず、少々緊張した面持ちで扉をノック、
「ミトラです! 要請により出頭致しました!」
すると中から、
『入りたまえ』
「!」
聞き覚えのある、野太い声が。
(ま、まさか……)
扉をゆっくり開けながら、
「失礼します!」
入室すると、陽の差す窓辺に佇む軍服姿の一人の男性が。
見覚えのある背に、
『クスキュート中佐ぁ!』
喜びとも、驚きともつかぬ咄嗟の感情で思わず声を上げたが、裁判で降格させられた可能性を失念していたのに気付き、
(しっ、しまったぁ!)
背筋を伸ばして敬礼しながらも、階級を示す胸元の徽章(きしょう)をチラ見。
するとクスキュートは察した様に、武骨な顔に微かな笑みを浮かべながら、
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「そうでありましたか」
毅然と答えながらも心の内では、
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とは言え、軍人であるミトラが旧交を温め合う為ダケに、上官に呼び出される筈も無く、
「それで大佐、本日はどう言った御用で自分は呼ばれたのでありますか?」
すると、
『その件については私から話そう』
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(?!)
声に振り向くと、いつからそこに居たのか、小太りな体型に、神経質そうな面立ちを備えた中年男性がソファーに踏ん反り返る訳でもなく腰掛け、彼を品定めする様にジッと見据えていた。
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