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第五章
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本能とは正直な物で、頭で「吐き出してやる」と思っていても、想像を超える美味しさを前に体は吸収を求め、反射的に咀嚼して飲み込むと、固唾を呑んで見守る野次馬元老院たちを前に、しばしの沈黙の後、
『『『『美味(びみ)なりぃいぃぃぃいぃぃぃぃいっぃいぃぃぃっ!!!』』』』
咆哮を上げた。
一枚布で隠した口元に、笑みを浮かべるスパイダマグ。
羽交い締めにしていた隊員たちにハンドシグナルで解放を促し、隊員たちが一斉に姿を消した途端、解放されたコマクサ、チョウカイ、ハイマツ、ミネズの四人は器にかぶりつく様な勢いで親子丼と味噌汁を、あっという間に平らげた。
その姿に、スパイダマグは揚げ足を取るでも無く、
「如何でしょうか、コマクサ様」
「!」
努めて平静に、
「裁定に、御変りは無いでしょうか?」
「ぐっ……」
言葉に詰まるコマクサ。
他の元老院の面々が見ている前で、ミネズの料理は残しているにもかかわらず、ラディッシュの料理は汁物も残さず完食してしまっているが故に、
(今再び「ミネズの勝利」を宣言するは「偽りである」のは、誰の眼にも明らか……だからと言って判定を覆すは「間違いを認める」こと……)
本音と建前が激しくせめぎ合い、判定を出しあぐねていると、チョウカイが小さな困惑を交えた笑顔で、
「コマクサ殿ぉ」
穏やかに見つめ、
「私達は現実を受け止め、認めるより他、ありませんわ」
判定の覆しを促し、
「ですなぁ」
ハイマツも頷くと、コマクサは野次馬の面々の顔色をチラリと見やり、
(今、ここで、意地を通して実(じつ)を取らねばワシは信用を失い……権威は地に堕つ……)
人知れず悔し気に奥歯を噛むと、断腸の思いを胸に、
「失礼致した……勇者殿……」
ラディッシュに向かって恭しく一礼して後、
『勝者は「勇者殿」ぉ!』
コマクサの宣言に野次馬元老院たちから歓声が上がり、ラディッシュはパストリス、チィックウィードと笑顔でハイタッチ。
ドロプウォート達もしてやったりの笑顔を見せ合う中、失意のミネズは人知れず部屋を後にした。
誰も居ない調理場に一人立ち、
「…………」
隣室から聞こえる、割れんばかりの歓声に、
(何故ですか……)
口の中に、舌の上に、喉の奥に、残るラディッシュの料理の記憶に、
(アタクシは長年、舌の肥えた元老院の方々を満足させて来た……実績もあり、自負もあると言うのに……あんな者の足元にさえ及ばなかった……)
料理人としての舌は、完全なる敗北を認めていた。
とは言え、この結果は「彼に責がある」と言うより、むしろ後に明らかになる「天世の文化」に重きがあった。
料理人でもない勇者に負けた彼ではあったが、彼は天世の世界において紛れもなく、確かな腕前を持った「一流の宮廷料理人(※性格に少々難アリ)」であり、天世の料理人であったればこその「不幸」と言えた。
しかし理由はどうであれ、長年「宮廷料理人」として積み上げて来た彼のプライドはズタズタ。
うつむき加減で打ちひしがれる中、
ぶぉ~ん! ぶぉ~ん! ぶぉ~ん!
神経を逆撫でするが如き「異音」が調理場に響き、
「クッ!」
ミネズは苛立ち露わに両眼を血走らせ、
「アータもアタクシを馬鹿にしますのォオッ!」
音の発生源である、直径十センチほどの丸穴の開いた小箱をムンズと掴み、
『ごみ箱風情がァアァァッァアッァアァァ!』
狂気に憑かれた形相で床に叩き付け、
『ナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァアァァァッアァ!』
それを何度も何度も執拗に踏みつけ、肩で荒く息を切らせると、歯ぎしりしながら、
『恥をかかされたこの恨みィ! 決して忘らいでかァアッ!』
ミネズが怨念染みた叫びを上げると、背後から何者かの気配が。
「!」
ハッとした振り向きざま、
「あっ、貴方様は!?」
不穏な空気が漂い始める、天宮。
『『『『美味(びみ)なりぃいぃぃぃいぃぃぃぃいっぃいぃぃぃっ!!!』』』』
咆哮を上げた。
一枚布で隠した口元に、笑みを浮かべるスパイダマグ。
羽交い締めにしていた隊員たちにハンドシグナルで解放を促し、隊員たちが一斉に姿を消した途端、解放されたコマクサ、チョウカイ、ハイマツ、ミネズの四人は器にかぶりつく様な勢いで親子丼と味噌汁を、あっという間に平らげた。
その姿に、スパイダマグは揚げ足を取るでも無く、
「如何でしょうか、コマクサ様」
「!」
努めて平静に、
「裁定に、御変りは無いでしょうか?」
「ぐっ……」
言葉に詰まるコマクサ。
他の元老院の面々が見ている前で、ミネズの料理は残しているにもかかわらず、ラディッシュの料理は汁物も残さず完食してしまっているが故に、
(今再び「ミネズの勝利」を宣言するは「偽りである」のは、誰の眼にも明らか……だからと言って判定を覆すは「間違いを認める」こと……)
本音と建前が激しくせめぎ合い、判定を出しあぐねていると、チョウカイが小さな困惑を交えた笑顔で、
「コマクサ殿ぉ」
穏やかに見つめ、
「私達は現実を受け止め、認めるより他、ありませんわ」
判定の覆しを促し、
「ですなぁ」
ハイマツも頷くと、コマクサは野次馬の面々の顔色をチラリと見やり、
(今、ここで、意地を通して実(じつ)を取らねばワシは信用を失い……権威は地に堕つ……)
人知れず悔し気に奥歯を噛むと、断腸の思いを胸に、
「失礼致した……勇者殿……」
ラディッシュに向かって恭しく一礼して後、
『勝者は「勇者殿」ぉ!』
コマクサの宣言に野次馬元老院たちから歓声が上がり、ラディッシュはパストリス、チィックウィードと笑顔でハイタッチ。
ドロプウォート達もしてやったりの笑顔を見せ合う中、失意のミネズは人知れず部屋を後にした。
誰も居ない調理場に一人立ち、
「…………」
隣室から聞こえる、割れんばかりの歓声に、
(何故ですか……)
口の中に、舌の上に、喉の奥に、残るラディッシュの料理の記憶に、
(アタクシは長年、舌の肥えた元老院の方々を満足させて来た……実績もあり、自負もあると言うのに……あんな者の足元にさえ及ばなかった……)
料理人としての舌は、完全なる敗北を認めていた。
とは言え、この結果は「彼に責がある」と言うより、むしろ後に明らかになる「天世の文化」に重きがあった。
料理人でもない勇者に負けた彼ではあったが、彼は天世の世界において紛れもなく、確かな腕前を持った「一流の宮廷料理人(※性格に少々難アリ)」であり、天世の料理人であったればこその「不幸」と言えた。
しかし理由はどうであれ、長年「宮廷料理人」として積み上げて来た彼のプライドはズタズタ。
うつむき加減で打ちひしがれる中、
ぶぉ~ん! ぶぉ~ん! ぶぉ~ん!
神経を逆撫でするが如き「異音」が調理場に響き、
「クッ!」
ミネズは苛立ち露わに両眼を血走らせ、
「アータもアタクシを馬鹿にしますのォオッ!」
音の発生源である、直径十センチほどの丸穴の開いた小箱をムンズと掴み、
『ごみ箱風情がァアァァッァアッァアァァ!』
狂気に憑かれた形相で床に叩き付け、
『ナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァナメルナァアァァァッアァ!』
それを何度も何度も執拗に踏みつけ、肩で荒く息を切らせると、歯ぎしりしながら、
『恥をかかされたこの恨みィ! 決して忘らいでかァアッ!』
ミネズが怨念染みた叫びを上げると、背後から何者かの気配が。
「!」
ハッとした振り向きざま、
「あっ、貴方様は!?」
不穏な空気が漂い始める、天宮。
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本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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