ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-32

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 木々に囲まれた街道をニ十分ほど歩いて後――

 波打つ畑の畝(うね)の連なりが見え始めると、その奥に小さながらも、町と同様に白い外壁を持った家屋が点々と見え始め、
((((((天世人の村……))))))
 ラディッシュ達は初対面となる「天世の村」を前に、天世に初めて足を踏み入れた時の様な興奮を覚えていた。
 ターナップの背で疲れて眠る、チィックウィードは別として。

 しかし着いた村には、
((((((誰も居ない……))))))
 ひと気が無く、
「「「「「「…………」」」」」」
 言葉でうまく表現できない違和感も。

 人の気配が感じられないにも関わらず、家も、庭も、畑も、あぜ道や用水路にいたるまで綺麗に整い、ゴミどころか雑草の一本もなく、畑の畝に崩れなども皆無で、徹底して管理されている様子が窺え、言うならば「異様に綺麗」すぎ。

 生活感が感じられず、模型かモデルハウスの様であり、揚げ足取り的に言うならば、模範のサンプル画像をコピーペーストで貼り付けて作ったように見える村で、人の手による温もりが感じられぬ、非現実的な光景に見えたのであった。

 とは言え、それは一方的な「偏見」とも取れる見方。

 手入れが行き届いているのは事実であり、ラディッシュは失礼に当たらないよう言葉を慎重に選びながら、
「む、村の人達は、凄く、丁寧に手入れしてるんでぇすね♪」
 慎重になり過ぎて多少引きつり気味の笑顔で褒めると、スパイダマグは一枚布で隠した素顔に、意外そうな空気を漂わせ、

「手入れ?」
「え? あ、だ、だって畑に雑草の一つも生えてないし、用水路に落ち葉とかの汚れも無くて……」

 すると彼は何ごとか察した様に「なるほど」と頷きを一つ見せてから、
「天世の農家の者は、何の作業もしておりませんぞ」
「「「「「「えぇ!?」」」」」」
 ラディッシュ達の「信じ難い」と言った驚きを前に、

「作業は全て「プリズニア」が定期的に行っております」
((((((ぷ、プリズニア?))))))

 初耳の名称。
 疑問形の顔を見せる六人に、スパイダマグは言葉足らずに気付き、

「プリズニアとは天世における、「終身刑を受けた者」たちのことです」
「「「「「「終身刑ぇえ?!」」」」」」

 それほどの「重刑を受けた者」たちに作業を任せきりにしている行為に、他人事ながら不安がよぎったが、察した彼は慌てる事も無く、
「大丈夫なのです。理由は……まぁ、おいおい……」
 お茶を濁し、
((((((?))))))
「勇者様方は、何故に天世が「春のように気候が穏やか」であるか分かりますか?」
 体よく話を逸らされた。

((((((…………))))))

 そこに何があるのか気にはなったが、
(言いたくない事を無理に言わせるのは、なんかイヤだなぁ)
 ラディッシュは思い改め、同意の仲間たちも「問いただし」はせず、問われに対して、
(((((「なんで」って?)))))
 首を傾げると、スパイダマグは気遣いに密やかな感謝を抱きつつ、
(少々難し過ぎましたね……)
 自省し、

「中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって「天技を発動」し、天候や気候を安定させているからなのです」
「「「「「「え?」」」」」」
「加えて、野菜の生育の妨げとなる病気や害虫なども、中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって、自動的に排除されているのです」
「「「「「えぇ?!」」」」」

 驚きを隠せない中世の人々、ドロプウォート達。
 自分たちが幼い頃より捧げて来た「祈り」の、意外な使われ方の真実に。
 それと同時、

(((((全てがぁ他力本願?!)))))

 呆気にとられる中、異世界人ラディッシュは、
(天候は穏やかで、手入れもされている? それなら野菜が美味しくならないのは……?)
 引き算的に、原因となりうる「とある可能性」に至り、
「肥料も、天技であげるか、プリズニアの人が与えてるんですか?」
 するとスパイダマグは、

「ヒリョウ?」
「え? あ、はい……いやぁですから野菜を育てるのに必要な栄養を、」
「普通に育つのでしたら、あえて「何か」を追加で与える必要など無いのでは?」

「「「「「「へ?」」」」」」

「ん?」

 互いの認識のズレに、

「「「「「「…………」」」」」」
「…………」

 一瞬黙り合い、そしてラディッシュ達は理解する。
 天世の野菜や果物たちは見た目が綺麗であるのに、味が極度に薄い理由を。

 農作は肥料を大地に与えるなど土壌を改良し、土づくりから始め、収穫した後も「連作障害」を防ぐ為に「同じ作物を同じ場所で何度も作らない」など、土地を休ませ地力(ちりょく)を回復させ、土地を痩せさせず、病気を防いだりするのだが、天世ではその作業が一切行われていなかったのである。

 通常であれば土地が地力を失いやせ細り、作物が育たなかったり、病気になったりと、収穫量が激減する。

 しかし天法により天候は十分で、病気は浄化され、障害さえも祓われ、成長の妨げとなる全てが天技により補完されていたのであった。
 言うなれば「土を使って栽培」はしてはいるが、大地から何の恵みも得られておらず、何の栄養も無い「水分だけで栽培」しているのと変わらない状況で、形ばかりの収量を得られているとは言え、味が薄いのも当然。

 栽培されている農作物は、水しか摂取していないのだから。

 その様な物を口にしている、海や陸の動物達も言わずもがな。
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