ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第五章

5-33

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 天世人スパイダマグは、困惑した笑みを浮かべるラディッシュ達におずおずと、顔色を窺うように、

「あのぉ勇者殿……味の違いとは、その……「ひと手間を惜しんだ差」なのですか?」
((((((ひと手間、と言うか……))))))

 それ以前の問題であるとツッコミたかったが、文化の違いもあるので言い辛く、ツッコミあぐねていると、彼は染み染みと、
「それが「中世と天世の文化の違い」なのでしょうね……」
 落胆を滲ませながら、

「天世人とは「百人の天世人」に対する祈りさえ決められた時刻にすれば、後は何もしなくとも良いのです……」
「「「「「「…………」」」」」」

 ラディッシュ達は考えさせられた。
≪気候は年中春のように穏やかで、人々は長寿。例え死んでも若くなって生き返るが、成長を忘れた天世≫
 その一方で、
≪日々刻々と変わる天候に悩まされ、人間同士の諍いも絶えない半面、料理一つとって見ても、創意工夫を繰り返し、発展が見られる中世≫
 人として、どちらの世界が幸せなのか。

(良し悪しの線引きって……)

 ラディッシュは不意に、以前ラミウムから聞かされた「天世と地世の違い」を思い出しながら、
(もし「中世の人達の信仰」が消えたら、どうやって暮らしていくつもりなんだろ……)
 天世の問題ながら、一抹の不安を抱いていると、
(ん?)
 家の中からコチラの様子をこっそり窺う、村人たちの気配が。
(どうして出て来ないんだろ?)
 ラディッシュ達が不思議に思っていると、

『天宮からのお達しだそうです』

「「「「「「天宮からの?」」」」」」
「はい。有り体に言えば「元老院から」なのですが、失礼が無いよう、勇者様方が訪れた時には「家から出ないように」と周辺の村々に」
((((((失礼って……))))))

 露骨な「腫れ物扱い」に、ツッコミを入れようかと思う六人であったが、スパイダマグが言った訳でもない言葉で彼を責めるのは筋違いであり、気の毒。
 故に、

「何で、村の人達は「僕達の到着」を知ってたんですか?」

 するとスパイダマグは、
「勇者殿方は既にお気付きと思いますが、」
 周辺をそれとなく伺いながら、

「辺りから感じる怪しい気配を」
((((((…………))))))

 確かにラディッシュ達は天宮を出てから、ずっと感じてはいた。(※チィックウィードは不明)
 しかし殺気が無く、何か突発的な動きがあっても「七人が揃って居れば対応できる」との思いから放置していたのであった。
「あの者らは「衛生局の者」でして元老院の指示の下、私達の動向と会話を監視し、この村に先回りをして「御触れ」を強要して回ったのでしょう」
 スパイダマグの淡々とした答えに、カドウィードは妖艶な笑みを浮かべ、
「アタシを舐(ねぶ)る様な視線は、ソレでしたのねぇ~♪」
 艶っぽい表情で身をくねらせ、ラディッシュ達は苦笑い。
 そんな中、ドロプウォートがふと、

「元老院直下は親衛隊ですわ。しかも隊長の貴方が同行していますのに、何故に「衛生局の監視」を必要としますの?」

 素朴な疑問に、
「それは……」
 彼は一枚布で隠した素顔にバツの悪さを滲ませながら、

「親衛隊と言えば聞こえは良いですが、その実、自分たちは名ばかり体裁を整えた「何でも屋」でありまして、元老院の方々を、この身を以て御守りする「人間の盾」の集まりなのです」
「「「「「「…………」」」」」」
「故に今回の件で、我らに対する風当たりが強くもなりまして」

 半ば強引に勧めた「天世への勇者召喚」と、料理対決の折の「勇者への加担」を引き合いに小さく笑って見せ、
「え、えと……僕が言うのも何なんですけど、その……大丈夫、なんですか?」
 不安げに窺うラディッシュ達。

 するとスパイダマグは気遣いに対し、一枚布で隠した素顔に感謝を滲ませながら、
「元より自分たちは「その様な立場」ですし、道理を曲げてまで強権に首(こうべ)を垂れるは「天世の為にならない」と存じます」「「「「「…………」」」」」
 自身の立場の悪化も厭(いと)わぬ姿勢に、感動すら覚えていると、

『こうべ、なぉ♪ こうべ、なぉ♪』

 ターナップの背で目覚めたチィックウィードが楽し気に連呼。
 言葉のリズムが琴線に触れ、無垢な笑顔でパチパチパチと手を叩き、場の空気は和んだが、

『全く以て、ご立派な思考さぁ♪』
「「「「「「「?!」」」」」」」

 からかいを交えた声を上げたのはニプルウォート。
 皮肉るような笑みを浮かべて斜に構え、

「それが「二心の無い本心」から出た言葉だったらねぇ?」
「…………」

 挑発する物言いを、黙して見つめるスパイダマグ。
 場の空気は否応なしヒリついたが、

『あっ! でっ、でもそれならぁ♪』

 ラディッシュがお茶を濁すように割って入り、緊張感から多少引きつり気味な笑顔で、
「ま、町(プロンズアルピニス)の人達は、どうして普通だったんだろぉ?! 村の人達は、今もめちゃくちゃ隠れちゃってるけどぉ?」
 道化を演じ、気勢を削がれたニプルウォートは「チッ」と小さい舌打ちをしてソッポを向き、スパイダマグも気色(けしき)ばんだ気配を収めた様子で、しかし平静に語られた言葉は、

「あの町は元老院の御膝元と言っても過言ではなく、あの町に住まうは元老院から許可を得た、言わば元老院に染まりきった者たちの集まりでなのす。故に、何事か不都合が生じても「即座に対応できる」と踏んでの放置だったのでしょう」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 端々から滲み出る、不信感。
 そこから、
(元老院の人達を快く思ってないのは、本当なんだなぁ)
 ニプルウォートの仕掛けた揺さぶりに対する彼の反応の、確証を得るラディッシュ達。

 そして、一見すると穏やかな散策の中で腹の探り合いをする一団を、家からこっそり窺うのは、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 老若男女の村人たち。
 ヒソヒソと口にしたのは、謝意や憧憬と言った好感ではなく、

「何? あのヘンな髪の色はぁ?」
「みすぼらしい♪」
「品のカケラも無い♪」

 見下した嘲笑であった。
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