ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-13

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 どれ位の時間が経過したであろうか――
 
 暗闇の中の、モヒカン頭。
 眼を閉じたまま、
(ここは何処だ……誰かの声がしやがる……)
 聞こえ始めた声は次第にハッキリと、

「タープさんにいきなり殴りかかるなんて、無謀な人も居たもんだねぇ~」
「まったくですわぁ~」
「でぇすでぇすねぇ~」
「そうかぁい? ウチはドロプに殴り掛からなかっただけ、まともな神経をしてると思うさぁ♪」
「ほんにぃ、そぅでぇありんすなぁ♪」
「どう言う意味ですのぉニプル、カディ!」

 ターナップが司祭を務める教会内の、礼拝に参加する者が集う身廊(しんろう)と呼ばれる会衆席(かいしゅうせき)でラディッシュ達が笑い合い、意識を失った状態で席に横たえるモヒカン頭の頬を、チィックウィードが突いてイタズラしていると前触れなく、

『オレっちはぁ「女ごとき」に手出しはしねぇっ!!!』

 モヒカン頭が絶叫しながら跳ね起き、
((((ごときぃ!))))
 瞬間的にムッとするドロプウォート、ニプルウォート、カドウィード、パストリスであったが、彼は不穏な空気を気にする風もなく、困り顔するターナップを視界に入れるや姿勢を正し、イカツイながらも毅然とした物言いで、

「オレっちぉ名は「インディカ」ぁっスぅ! パラジットの北のアクア国から来た「インディカ・ニンフォイデス」っスゥ! ダチは「インディカ」って呼ぶっスぅ!」

 豪快に頭を下げ、

『オレっちの負けっスゥ、タープの兄ぃ!』
((((((勝ちぃ負けぇ?))))))

 事情が見えないターナップとラディッシュ達。
 戸惑いを隠せず、困惑顔を見合わせていると、インディカが気合の入った眼差しで、

「オレっちぁ一般人でありながら素手ゴロ一本で「勇者一行の一員」にまで上り詰めたタープの兄ぃの武勇伝を国で聞きつけぇ、居ても立っても居られズぅ、漢を上げる為に来たんス! なのにオジキと来たらオレっちに「坊主の下働き」ばかりさせてぇ! どしたら稽古をつけてくれるか聞いたらぁ、タープの兄ぃから一本取ったら「稽古を付けてやる」って言われやしてぇ!」

 原因の全てが「祖父にあった」と知る孫。
 苦々し気に、眉間にシワを寄せ、

(あんのぉクゾジジィ!!!)

 怒れる一方で仲間たちが苦笑を浮かべ合っていると、ラディッシュがおもむろに、
「ねぇ、タープさん」
「な、なんスかぁラディの兄貴、あらたまって?」
「村にはまだ数日居る予定だから、その間だけでも彼に稽古を付けて上げたら?」
「えぇ?! マジっスかぁ?」

 露骨にイヤそうな顔をするターナップではあったが、慕う兄貴分にそこまで言われては断る訳にはいかず、
「まぁ、ラディの兄貴が言うならぁ」
 渋々承諾しようとすると、インディカがヤンキー張りのイキ顔で、

『あぁんだぁテメェは、タープの兄貴に向かってエラっそうにぃ!』

 不快感を露わ、
「あぁ~テメェかぁ~オレっちの国にも噂は届いてるぜぇ~」
 小馬鹿場にした笑みさえ浮かべてラディッシュを見下ろし、

『異世界勇者の立場を乱用してぇ女と見れば見境なし、戦いとなりゃぁ女に戦わせて高みの見物を決め込む「ゲス勇者」だってぇなぁ!』

 男尊女卑の発言の発言に加え、ラディッシュに対する「歪んだ私見」を披露した途端、ターナップやニプルウォート達がキレるより早くインディカは、

「なっ!?」

 胸倉を右腕一本で掴まれ、教会の窓を突き破る勢いで軽々外に投げ出され、
(男のオレっちを細腕一本で、だとぉ?!!!)
 空中で器用に体勢を立て直して着地し、

「クッ!」

 悔し気に奥歯を噛み締め顔を上げ、投げた相手を睨み付けた。
 すると、

『何処に「ゲス勇者」などが居りましてですの』

 軋みを上げ開く教会の扉の奥から、ゆらりと出て来たのはドロプウォート。
 その冷徹なまでに「凍てついた眼差し」は処刑人の様であり、射貫くように睨まれたインディカは、余談を許さぬ絶対的圧倒的存在感を前に、
(なっ、何なんだぁこの女ぁ?!)
 思わず息を呑んだ。
 そして今更のように気付く。

(きっ、金髪碧眼ってぁ、まさかぁ不幸を運ぶ英雄ぅ! せ、先祖返りかぁ!!!?)

 彼女が徐々に近づくにつれ、足はすくみ、呼吸もままならず、
(こ、殺されるゥ……)
 それは腕っぷし一本でのし上がって来た彼が初めて知る「不可避的恐怖」。
 己の手の届く距離まで近づかれたにも関わらず、

(お、オレっちの体が動きやがらなぇ!?)

 立ち上がる事さえ出来ずにいると不意に、
『『『インディカ兄ちゃんをイジメルなぁ!』』』
 村の子供と思しき幼子たちが駆け付けて来て、怒れるドロプウォートからインディカを守る為、身を挺するが如くに立ちはだかった。
「お、オメェら……」
 幼子たちが見せた気概に、驚くインディカ。

 しかし、怒りの炎が消える様子を見せないドロプウォート。
 いつもであれば「幼子たちの気骨」にスグさま目を細め、怒りを鎮めそうなものであるが、今日の彼女の怒りようは尋常ではなく、身を挺する幼子たちが震えているのもお構いなしに、幼子たちの背で守られるインディカを明王の如き「憤怒の眼差し」でしばし見下ろし、平静な口調ながらもそこに確かな怒りを滲ませながら、

『次はありませんのですわ』

 背を向け、ゆっくりと遠ざかり始めた。
「…………」
 極度の緊張状態から一気に解放されるインディカ。
 子供たちからの励ましも耳に入らない様子で地面に両手を付き、

(お、オレっちが……何も出来ずに女に負けた……だと……?!)

 戦わずしての敗北を知り、自身が「井の中の蛙」であったのに気付くまで、極度に偏った思考を持つ彼でもさほど時間を要しなかった。
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