ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-73

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 王城内に用意された客人用の一室――
 
 部屋は一室と呼ぶには広く、煌びやかな装飾が施された家具や絵画が設えられたリビングを中央に、寝室も放射状に幾つかあり、ちょっとしたキッチンにバルコニーまでも。
 その中央リビングで一息つくラディッシュ達。
 一つのテーブルを囲み、手元にはハーブの香り豊かな湯気を上げるティーカップを置き、心安らげる「仲間たちとのひと時」であった筈が、

「「「「「「…………」」」」」」

 空気は未だ重く、誰も、何も言わない。
 因みに、チィックウィードとパストリスの姿は無い。
 ウトリクラリアと空中庭園で、未だ遊んでいるのである。
 元気な幼女たちの一方で沈黙の中、ラディッシュがおもむろに、

「ね、ねぇイリィ……さっきの話なんだけど……」
「ぁん?」
「それって……そんなに急がないと、いけない事なの?」
「…………」

「ウトリクラリアさんが「記憶を取り戻してから」とかじゃ駄目なの?!」

 少し早口に問う。
 答えない彼女に気持ちが急いたのであるが、

「分かっちゃいなさぁねぇ~」

 イリスはヤレヤレ顔で首を横に振り、
「事は「子作り」だけの話に留まらない、あの娘の命にも関わってくる話なのさねぇ」
「え? どう言う事?!」
「そもそも、あの娘が「居なければ安泰」と考える輩は少なくないだろぅさねぇ」

『まさか暗殺ぅ!?』

 思い至った自身の発想に、ギョッとするラディッシュ。
 イリスの睨む様な眼差しに慌てて口を両手で塞ぐと、壁に耳ありと言わんばかり、声のトーンを落とし、

「そっ、それなら彼女の命を狙う反逆者を捕まえれば、」
「それは無理なのですわ、ラディ」
「ドロプ? どう言うこと?」
「敵が「悪党」とは限らないからさ」
「ニプルまでぇ?! どう言う意味なの? 僕には話が全然、」
「旦様ぁ。その輩の中にはぁ「真に国を想う者」や「民を想う者」などぉ、有能なる才ある忠臣も含まれて居るにぃありんす」
「!」
「旦様はぁ、それを見分けられるでぇありんすかぁぇ?」

「そ、それは……」

「線引きを如何にしてぇ捕らえるでぇありんしょ……」
「…………」
 ラディッシュは答える事が出来なかった。
(カディやみんなの言う通りだ……もし僕が、この国の人だったらどう思っただろ……カルニヴァ王とウトリクラリアさんが結ばれて子供が出来る、それが最善だけど……それが叶わないとしたら……)
 視線を落とすと、

『それに、あまり悠長にも構えて居られないようなのさ』

 緊張感を纏った声を上げるニプルウォートであったが、これにはドロプウォートも疑問を抱き、
「そこまで急ぐ根拠がおありですの?」
 すると彼女は、不敵な笑みをニヤリと浮かべ、

「でかいチチ……もといチカラはあっても探索能力は「ウチの方が上」らしいねぇ」
(今、わざと言い間違えましたわねぇ……)

 物言いたげなドロプウォートのジト目を尻目に彼女は、

「「謁見の間」と「空中庭園」が盗聴されてたのさ。何者かの天技によってねぇ」
『『『『『!?』』』』』

 驚く仲間たち。

『どうしてさっきカルニヴァ王に言わなかったの! 大事な話が筒抜けなのかも知れないのに!』

 ラディッシュは身を乗り出し、目くじらを立てたが、
「甘ちゃんさぁねぇ~」
 イリスが呆れた顔して、

「誰が敵か味方か分からない中で、コッチの手の内を曝してどうするさぁねぇ~場合によっちゃぁ話はハナから筒抜けなのさねぇ。手の内を隠して対策を練るのが定石だろうさねぇ。下手を打って「チラ見せのシッポ」まで隠されちゃぁ、捕まえる事も出来なくなっちまう。元も子もない話になっちまうさぁねぇ」
「そ、そっか……あっ! でっ、でもこの部屋は大丈夫なの!?」

 焦って、周囲を無意味に見回すと、

「誰に物を言ってるのさ、ラディ♪」

 ドヤ顔のニプルウォート。
「え?」
 きょとん顔で見つめる彼に、ドロプウォートが彼女の言葉足らずを補足する様に、

「天法の扱いはフルール国の彼女にとってお手の物。手抜かりなど。あろう筈がありませんのですわ」
「まぁねぇ♪」
「彼女は「ただの脳筋女」ではありませんのですわ♪」

『のっ、脳筋?!』

 こけるニプルウォート。
 散々持ち上げてから、先程の意趣返しに、
「脳筋女は余計さぁ!」
 苦笑のツッコミ。
 仲間たちから久々の笑顔がこぼれ、ラディッシュも笑いながらではあったが、

「ねぇニプル」
「?」
「盗聴してる相手を特定は出来ないの?」
「ソイツは流石に難しいさ~」

 彼女は困惑笑いを浮かべながら、
「何せ、会話の内容は天技により、微弱な天法の波に変化されて四方八方へ拡散されてるのさ。波と同調出来る者だけが受信できる仕掛けになってるようなのさ。誰が受信してるか分からない。相手も、馬鹿じゃないようだねぇ」
 分かり易い解説に、

((((たまには「まともな事」も、言うんだぁ))))

 仲間たちが、ある意味で感嘆する中、
(そうか……いわゆる「ラジオみたいな物」なのかなぁ……)
 ラディッシュも感心しつつ、至った自身の発想に、

(って「らじお」って何だよぉ!)

 知らない筈の記憶に一人ツッコミ。
 すると、
「ただねぇ……」
 ニプルウォートが急に、怪訝に顔を曇らせ、

「何と言うか、今まで感じた事の無い「術式」なのさ」
「ジュツシキって?」
「天技ってのは門外不出なのさ、ラディ。そのせいか国それぞれに特色みたいな物があるのさ。しかし今回みたいのをウチは知らない。強いて言うなら……そうだな……パラジット国に近いさ?」
「有り得なくも無い話ですわ……」

 ドロプウォートは黙考し、

「国の中枢が滅び統制を失った今のパラジット国なら……ですが勇者四国同盟の援助で辛うじて崩壊を免れているあの国が「カルニヴァ国での策謀」に今さら加担して、いったい何の得があると?」
「ドロプの言う通りにぃありんすなぁ~加えカディにはぁ今のあの国にぃ、他国にぃ手出し出来るほどの指揮系統が残っているとはぁ思えぬにぃありんす」
「「「「「…………」」」」」

 姿がハッキリ見えぬ敵に、誰もがモヤモヤとした思いを抱く中、

「もう一つ気付いた事があるのさ」
「「「「「?」」」」」

 ニプルウォートは集まる視線を前に、満を持し、
 
 『ウトリクラリア様の術の反動による弊害は、とっくに消えてるさ』
「「「「「えっ!?」」」」」
「推測でしかないけどさ」

 驚きを隠せない様子の仲間たちに前置きした上で、

「事件を引き起こしてしまった自責の念から来る精神的外傷が、記憶の蘇りを妨げていると、ウチは思うさ」
「そ、それなら……どうしたら良いと思う?!」

 ラディッシュの、自身の身に起きた事のような悲しげな表情に、
(相変わらず人の為に、そんな顔を……)
 優しさに心を打たれつつ、
「そうだなぁ……」
 彼女は思考を巡らせしばし後、

「ウチは治療の専門家じゃないから断定は出来ないが、下手を打てば傷口を広げて状態を悪化させかねないのは確かさ。今は刺激を与えず、静観して、傷が癒えるのを待つしかないんじゃないか?」

 消極的と思えなくも無い、彼女が導き出した答えに、
(クラリア……)
 人知れず表情を曇らせたのは、カドウィード。
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