ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-77

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 程なく駆け付ける憲兵たち――

 国家転覆を企てた大罪人二人を連行して行くと、
「…………」
 一仕事を終えたカルニヴァ王は玉座に座したまま一息を吐き、

「勇者殿方には、また助けられてしまったなぁ」

 温和に崩した表情で、若干遠回しにであるが、跪くラディッシュ、ドロプウォート、ニプルウォート、カドウィードに謝意を伝えた。
ラディッシュ達が「他国の騎士」であり、一国の王が「家臣の前で」と言う立場を考慮しての感謝であったが、その様を、
((((((((…………))))))))
 とある思いを以て見つめる、クルシュをはじめとする家臣たち。

 そんな中、ドロプウォートが唐突に、
「カルニヴァ陛下、僭越(せんえつ)ながら宜しいでしょうか?」
「ん? 如何(いか)なしたオエナンサよ?」
 今更ながらのかしこまった物言いに、若干の戸惑いを覚えながらも発言の許可を与えると、彼女は跪いたまま、静かに面(おもて)を上げ、真っ直ぐカルニヴァ王を見据え、

『陛下は「このままで良い」とお考えで?』

 家臣たちは小さくどよめいた。
 それは自分たちが口にしたくても、出来ない言葉であったから。
 そんな彼らの心の声を代弁するが如く、

「今回は偶然にも事なきを得ましてですわ、カルニヴァ陛下。ですが今後も、」
「皆まで言うなオエナンサの次期当主よぉ」
「…………」

 彼女の毅然を苦笑で制し、

「貴殿の僭越は、城内に燻(くすぶ)る世継ぎ問題と、ウトリクラリアの身を案じての話であろう?」
「…………」

 静かに頷く彼女に、

「今のままで良く無いのは重々承知だ……しかしだな」
「しかし?」
「俺は今でも信じているのだよ。心を病む程の自責の念に駆られたウトリクラリアが、皇女としての責を放棄して、いつまでも自分の殻に閉じ籠っているような女ではない事を」

 ともすれば「身贔屓(みびいき)」と取られ兼ねない自嘲気味の笑みに、ドロプウォートはすかさず平静に、

「それは「陛下御自身の考え」なのでは?」
「…………」

 返す言葉無く、一瞬黙する他国の王に容赦なく、
「国の長(ちょう)たる陛下が公的ではない、私的な「自身の考え」を家臣に一方的に押し付け負担を強いるは、」
 苦言を呈そうとすると、

『ソイツはちょいと違うぜぇ!』

 声を上げたの団長クルシュ。
 少し癇に障った様子で、

「確かに姫殿下が「今のまま」ってのぁ良くねぇさ。だがな、俺達も陛下と同じように信じてるのさ。いつか記憶を取り戻し、共に国政を担ってくれるのをよ」
「…………」
「オイオイ考えても見ろよぉ~ドロプウォート嬢ぉ。国を滅ぼしかけたほどの「強い信念」を持った御人だぜぇ? 戻って来られねぇ筈がねぇじゃねぇかぁよ♪」

 からかいを交えた笑みに、他の団長たちや幹部貴族たちも同意の笑みを見せると、家臣たちの想いが自身と同じであったのを知ったカルニヴァ王はフッと小さく笑った。
 するとドロプウォートは静かに目を伏せ、

「よそ者の私如きが、失礼致しましてですわ」

 粛々と謝罪を口にし、その姿に、
(わざと悪役を?!)
 気付くカルニヴァ王と、家臣たち。
 彼女の立ち場を越えた苦言が「主従の想いが同じである」のを気付かせる為の行いであった事に。

 それを証明する様に、同席しながらも彼女の越権を止めもせず、あまつさえ微かな微笑みさえ浮かべて跪くラディッシュ達の様子からも明らかで、
(してやられたなぁ♪)
 カルニヴァ王は小さく笑うと、

「のぉ、オエナンサ嬢よ」
「何でありましょう?」

 淡々と問い返す彼女に、カルニヴァ王はかつてない真顔で、

「エルブ国との友好を深める為にも、やはり俺の下へ嫁ぎに来ないかぁ?」
『『『『えぇ?!』』』』

 ギョッとした顔を上げる、ドロプウォートとラディッシュ達であったが、

「第二王妃の席ではあるがな?」
「「「「!」」」」

 半分本気で、からかわれたと知る。
 彼なりの、ちょっとした仕返しであった。
 思わず笑い出すカルニヴァ国の人々と、カルニヴァ王の見事な反撃にはまり、照れ笑うラディッシュ達。
 未だ明確な解決策は何一つ見い出せていない中ではあったが、和やかな空気に一変する謁見の間。

 その様子を隣室の扉の隙間から、
「…………」
 じっと窺うのは、ウトリクラリア。
 今、何を思っているのか、黙って様子を窺う彼女の背に、

「どうさぁねぇ、分かったかぁい?」

 イリスがそっと歩み寄り、
「誰もアンタを責めちゃいない。むしろアンタの苦悩に気付けなかった自分たちを申し訳なく思い、アンタの復活を待ち望んでいるのさぁねぇ」
 温かみを持った言葉で苦言を呈し、同席していたパストリス、ターナップ、チィックウィードも同意の笑みを浮かべる中、
「…………」
 彼女は何も言わず、謁見の間を見つめていた。
 ただひたすらに。


 数日後――

 事後処理の手伝いが終わったラディッシュ達は、荷馬車で王城を後にした。
 次第に遠ざかる一行。
 その姿を城の上層バルコニーから、幼子のように小さくしゃがんで柵にしがみ付き、

「…………」

 黙って見送るウトリクラリアと、そんな彼女の「小さな背」を、
「…………」
 黙して見つめていたカルニヴァ王であったが、

「行ってしまわれたな」

 おもむろに口を開き、どこまでも優しい口調で、
「別れの挨拶をしなくて本当に良かったのか、クラリアよ。パスト嬢やチィック嬢と、あれほど打ち解けたと言うに」
「…………」
 しかしその背は微動だにせず、振り向きもしない。

 背後からでは、彼女がどの様な表情で居るのか不明であったが、カルニヴァ王は現状から推察し、
(泣いているのか? 泣き顔を見せたく無いと? 幼くとも「女心」と言うモノか?)
 自身が「女心に疎い」と理解しながらも、彼女の心中を考え、

(今は、そっとして置くが良(りょう)と言うことか……)

 気遣いから、黙って部屋から出て行こうと背を向けた。
 すると背後から、

『お持ち下さい、陛下』

 投げ掛けられた凛然とした女性の声に、
『ッ!』
 彼は慄きと共に振り返った。

 カルニヴァ国に変化の兆しが見え始めていた一方で、それと知らぬラディッシュ達。
 王都カルブレスの本通りを馬車で進み、手綱を握る御者台のラディッシュは晴れやかな表情で、
「次はどうする? やっぱり、アルブル国に入る前に近くの村で情報収集する?」
 雲一つない青空を見上げた。

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