ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-76

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 話は今より一時間ほど前に遡り――

 チィックウィードが伸した兵士が隠し持っていたナイフの「毒が塗られた刃先」を、怪訝な顔して眺めるニプルウォート。
するとイリスが血相を変え、

『ニプルッ! スグに息を止めて鞘に戻すさねぇ!!!』

 しかし元の職業柄、この手の毒に対し「豊富な知識」と「多少の耐性」を持つ彼女は、
「はぁ? 何をそんなに慌ててぇ」
 液が体に付かなければ大丈夫と言わんばかり、おっとりがてら刃先を鞘に収めようとしたが、イリスは横からサッと手を出し急速収納、勢いそのまま、

『ニプルぅ! アンタ体に異変は無いさぁねぇ!!!』
「ん?」
「イイからぁ! 調子は悪くなって無いさねぇ! 目まいはァ?! 頭痛はッ?!!!」
「あ、あぁ、至って快調さぁ?」

 矢継ぎ早の問診に困惑を隠し切れない様子の頷きを見せると、
「そっ、そぅかぁいぃ……」
 イリスは大きく安堵した様子で息を吐き、戸惑う仲間たちに鞘に戻したナイフを見せながら、
「コイツの刃先に塗られていたのはねぇ、ある植物から生成した揮発性と即効性が高い、致死率もやたらと高い猛毒なのさねぇ。気化した気体を多量に吸い込んだだけでも、かなりヤバイってぇ代物なのさぁねぇ」

『うげぇ?!』

 驚きのあまり、慌てて鼻と口とを手で覆うニプルウォート。
 今更の話ではあるが。
(あっ、アブネぇ~!)
 知識に足元をすくわれそうになった自身を猛省していると、軍事面には博学なドロプウォートが訝し気に、

「植物から採取した汁で、その様な効果を発揮する毒など、私は聞いた事がありませんのですわぁ?」

 すると一歩違えば命を落としていたかも知れないニプルウォートも、日光の三猿のように鼻口を隠したまま、
「う、ウチも聞いた事が無いさぁ」
 頷くと、イリスは刃先を収めたナイフを見つめながら、

「そりゃそうさぁねぇ。この毒はアクア国の、ぉ……」
「「「「「「?」」」」」」

 何事か口籠ってから改めて、
「い、一部の特殊部隊しか使用を許されてない代物なのさぁねぇ……」
 悲し気に呟いた。
 その悲しげな表情が何を意味するのか、ラディッシュ達には分からなかったが、当然の如く湧く疑問が。

≪それほど高度な情報を何故に彼女が知っているのか?≫

 仲間たちが物言いたげな表情を隠すことが出来ずに居ると、彼女はフッと小さく笑い、
「じ、自国の話さねぇ。蛇(じゃ)の道は蛇(へび)って言葉があるさぁねぇ~」
 平然と誤魔化した上で、

「それより」

 意識を失ったままの兵士を見下ろし、
「こんな物まで用意してるってぇ事ぁ「脅すダケのつもりじゃ無かった」ってのは、確実なようさぁねぇ」
「「「「「!」」」」」
 国の根幹を揺るがしかねない殺意の深さに、ラディッシュ達が悪寒を感じると、

『ならばぁ悠長に構えている場合で無きにありんしょ?』

 妖艶な、不敵な笑みを浮かべるカドウィード。
「「「?」」」
 意味が理解出来ないラディッシュ、ターナップ、パストリスが不思議顔を見合わせる一方、気付きを見せたドロプウォートはすぐさま、

「ニプル、よろしくて?!」

 察したニプルウォートも、
「あぁ。まったくカディに、先に指摘されるとはさぁ~」
 自嘲気味の笑いを浮かべると兵士の傍らに屈み、
「「「???」」」
 キョトン顔の三人を、肩越しチラリと見返し、

「急がないと証拠を隠滅されちまうって話さ」
「証拠を隠滅?」
「犯人は捕まえたのにかぁ?」
「でぇすでぇす?」

 三人の疑問は深まったが、急く様子の彼女は、
≪天世より授かりし恩恵を以て我は問う≫
 その身を白銀の輝きに包むと、意識を失ったままの兵士に手をかざし始めてしまい、
「「「…………」」」
 疑問の晴れないラディッシュ、パストリス、ターナップ。

 答を求め、ドロプウォートに視線を集めると、彼女は向けられた三つの熱視線に苦笑しながら、
「異国の秘匿とされている技術まで用いて事に当たっていると言う事は、裏に居るのは「それなりの権力を持った者」の可能性が高いと言う事ですわ。ともなれば、その様な輩が騒ぎを知れば、」

『『『スグに証拠を隠す!』』』

 三人は気付きを見せた。
 裏に潜むは伏魔殿であり、自分たちが庶民感覚であった事に。
 そんな三人に、
「そう言う事ですわ♪」
 ドロプウォートが笑って答えていると、天技を発動中のニプルウォートが緊迫を以て振り返り、

「どうやら笑って居られるほど、簡単な話じゃ済まないようさぁ」
「「「「「「?!」」」」」」
「この兵士は妻子を人質に取られ脅され、止む無く実行の機会を窺っていたようさ! 黒幕は高級貴族のグラッセってヤローと、アクア国の商人ワイルドライスってヤローさ!」

『『『『『『幹部が家族を人質にっ!』』』』』』

 怒りの導火線に火が点くラディッシュ達。
「二班に分かれてスグ事に当たろう!」
「ですわね! 「人質を救出する組」と「二人を捕える組」ですわねぇ!」
 ドロプウォートの案に仲間たちは即座に頷いたが、

『ソイツは危険さ!』

 制止の声を上げたのはニプルウォート。
 この手の荒事に慣れた彼女はスクッと立ち上がり、
「用意周到な悪党二人を同時に捕まえるのは難しいさ! それに事前の口裏合わせでシラを切られる可能性もある! 組は「人質を救出する組」と、密かにワイルドライスを捕まえ「証拠を集める組」にした方がイイ!」
 得心が行く、仲間たち。
 同意の頷きを見せ合う中、カドウィードが女帝フルールから貰った黒のレースの扇をバッと開いて口元を隠し、
「なればぁカディはぁ別行動をすると致しんしょぅ♪」
 妖艶に微笑んだ。

「「「「「「なっ?!」」」」」」

 唐突な、手前勝手な宣言に戸惑いを覚えるラディッシュ達。
 訳も話さず部屋から出て行こうとする背を唖然と見つめていると、仲間たちの不安を背で感じた彼女は、しゃなりと振り返り、

「下郎貴族グラッセの足止めはぁ、不可欠にぃありんしょ?」
「「「「「「!」」」」」」

 決して独断専行でないのを告げた。
 妖艶な笑みを残し、部屋から出て行きながら。
 その頼れる背に、仲間たちが安堵を覚える中、
「…………」
 一人、視線を落とすイリス。

(またアクア国の人間が他国に害を……)

 同胞たちの度重なる不始末に落ち込みを隠せずに居ると、ラディッシュが穏やかな笑顔で以て、

「何処の国にも悪党は居るよ♪」

 こういう時には、気が良く回る。
 人の顔色ばかり窺う「気弱」が功を奏してか。
 するとドロプウォートも剣を鞘か抜き出し、刃先に異常が無いのを確認しながら、

「故にチカラを持つ者は、国や民に仇なす悪徒を討つべしなのですわぁ!」

 ニプルウォートも、未だ目覚めぬ兵士を一先ず縛り上げながら、
「おぅさぁ! 落ち込みたいなら後にしな!」
 ターナップも満面の笑顔で、両の拳をぶつけ合わせて気合十分、
「先ずは人質救出っスね!」
「でぇすでぇすなのでぇすぅ!」
 パストリスも笑顔を見せた。
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