ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-84

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 優位に立っていた筈のリクエスターが飛び退くと同時、
{!}
 ローブの胸元を、白と黒の光跡がかすめ飛んで行き、

{なっ、くっ!}

 堪らず更に大きく距離を取り、着地するなりチィックウィードを睨む様な動きを見せ、
{今のは天法と地法の同時行使では?! マルチタスクですとぉ!}
 驚きは、彼女が全身から放つ気配の変質だけでなく、

{な?!}

 異変は、その容姿にも。
 愛らしき少女からは天使の笑顔が消え失せ、替わりに、

{{…………}}

 冷酷が浮かぶ口元の上、感情が感じられぬ白銀に輝く右目と、漆黒に輝く左目が、リクエスターをジッと見据えていた。
 そんな彼女を一言で形容するなら、

{別人?!}

 その一方で、
{そうですかそうですか、貴方も本気を隠していたと言う訳ですか}
 嬉し気に頷きもし、
{それにしても……}
 身構える幼女の全身を眺め、

{貴方は何です?}

 好奇は尽きないようであった。
 しかし、
{{…………}}
 何も答えないチィックウィード。
{…………}
 一瞬の静寂の後、リクエスターは急に構えを解き、短剣を袖の奥へと戻しながら、

{今日は、ここまでのようですね}
{{…………}}

 残念そうにボヤくと、チィックウィードの後方森の奥から、

『チィちゃーーーん!』

 聞き覚えのある、呼び声が。
 不安を纏った声ではあったが、彼女はリクエスターを見据えて微動だにせず、その半面で攻撃もして来ない様子に、
{!}
 彼は何かを察した。
 そして愉快そうに、

{そうですかそうですか。その禍々しき姿を、御仲間には「知られたくない」と言う訳なのですね}

 森の闇に姿を次第に溶け込ませながら、
{ですが次に相まみえた時には、御手合せ願いたいものですね}
 完全に姿を消して行き、そこへ、

『チィちゃん!』

 駆け付けるラディッシュと仲間たち。
 最も血相を変えた母(仮)ドロプウォートが立ち尽くす小さな背に、飛びつくように、

「怪我はありませんですわのぉ! 嫌な事をされませんでしたのぉ! 今の変態は何者ですわの!」

 抱き付き矢継ぎ早に問うと、小さな背はクルっと振り返り、
「オカシをくれたかわりにぃアソンデあげてたなぉ♪」
 そこには、いつもと変わらぬ天使の笑顔が。

 安堵の息を吐く母(仮)。

 我が子(仮)の目線の高さまで屈むと、両眼を真っ直ぐ見つめ、

「お菓子をくれるからって、知らない人に付いて行ってはダメなのですわ」

 親らしい苦言を呈し、
「ゴメンナサイなぉ♪」
(((((♪)))))
 愛らしく謝る子の姿に仲間たちは目じりを下げたが、

「チィちゃんも「無駄な殺生」はしたくはありませんでしょ?」

 母親が子にする「一般的な注意」から、かけ離れた笑顔の苦言に、

(((((え?!)))))
「うん♪ したくないなぉきをつけるなぉ♪」
「うんうん♪ チィちゃんはエライですわねぇ♪」

 笑い合う親子(仮)に苦笑交じり、

(((((・・・・・・)))))

 ツッコみたい気持ちを懸命に堪えるラディッシュ達。
 とは言え、幼い彼女に降り掛かったのは「誘拐」と言う名の、決して許されない犯罪行為である。

 無事であったとは言え、本来なら上を下への大騒ぎとなっている筈が、被害者(?)が新生七草チィックウィードと言う事もあり、むしろ犯罪者が憐れに思われる和やかな空気の中、
「…………」
 ただ一人、視線を落とす人物が。

 それは、イリス。

 会話に混ざらず、重々しく口を開き始めた彼女は、
「チィ坊……」
「にゅ?」
 笑顔のチィックウィードと同じ目線の高さまで屈み、

「アタシのせいで面倒ごとに巻き込んじまって済まなかったさねぇ……まさかアクア国の正規の冒険者ともあろうモンが、目的の為に「幼子をかどわかす」とは思ってなかったのさねぇ……」

 悲し気に表情を曇らせると、
「チィはツヨイからぁヘイキなぉ♪ それにパパがいってた、なぉ♪」
「ラディが? 何を?」
 問う彼女にチィックウィ―ドはニコリと笑い掛け、

「アクトウは「どこのクニにもいる」なぉ♪」
「!」

 幼子の一言に、救われた思いの「とある秘密を抱えたイリス」。
「そうだ……そうだったさねぇ……」
 自身の気弱を小さく嘲笑い、ささやかながら明るさを取り戻した表情で、

「その通りさぁねぇ。悪党に足を引かれて、自分の心まで「闇堕ち」させてたらぁ世話ナイさねぇ」
「うん♪ そのとおぉり、なぉ?」

 意味が分かっていない様子の「幼子の励まし」に、いつもと変わらぬ笑顔で「キッシッシッ」と笑い、
「大人のアタシが励まされてちゃぁ、それこそ世話ナイ話さぁねぇ♪」
 仲間たちも笑みを見せ合った。
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