ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-86

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 やがてアルブル国国境関所に辿り着くラディッシュ達――
 
 勇者一行の到着は兵たちに歓待を以て迎えられ、知らせは即座に、修復中であるアルブル城に代り王都アルブレス内に置かれた臨時政府の下へと伝えられ、アルブル国内全域にも瞬く間に広がった。
 国の崩壊を救ってくれたばかりか、私財を投げ打って復興支援にまで当たる、国王を失ったアルブル国国民にとって正に「英雄」と呼ぶに相応しい彼ら、彼女たちの到着であったから。

 関所を抜けた先の道中、歓声が止まなかったのは言うまでもなく、王都アルブレスに着いてからも先にドロプウォートとニプルウォートが懸念していた通り、一行は忙しい日々を送る事となった。
 エルブ国とフルール国、そしてカルニヴァ国からそれぞれアドバイザーを迎えて構成された「アルブル国臨時中央政府」を前に、道中で見聞きし、眼にした問題を、改善案を交えながらプレゼンテーションするラディッシュ達。

 それに加えて新生アルブル国を興すに際し、過去の反省を踏まえての新法制定に、故国の政権中央で活動していたドロプウォート、ニプルウォート、カドウィードが携わり、復興作業員の、延(ひ)いてはアルブル国国民の福利厚生改善にラディッシュ、パストリス、ターナップが尽力するなど、それぞれがそれぞれに持つ得意を活かした復興支援を行い、イリスと幼きチィックウィードも出来る範囲での手伝いに奔走し、日々は目まぐるしく過ぎて行った。

 そんな中、ラディッシュ達には気掛かりな事も。
 イリスの頭痛である。

 仲間たちの不安を気遣ってか、本人は口にせず、顔にも極力出さないようにしているようではあったが、付き合いも長くなったが故に異変は見て取れ、発生間隔も少しずつ短くなって来ている様であり、

『何かあったら言ってよね』

 それとなくの声掛けは欠かさなかったが、そんな時、彼女は決まって「からかいの笑み」を浮かべ、

≪アタシぁそんなにヤワじゃないさぁねぇ♪≫

 いつか何処かで聞いたセリフで笑い飛ばすのであった。
 気になる点は他にも。
 彼女が「チィックウィードが誘拐された件」を未だ気にしている節を、些細なしぐさの変化から仲間たちは見抜いていた。
 しかし、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 見守る選択を選んだ。
 プライドが高い彼女の「心の傷口」を広げぬ為の、あえての選択。
 そんな数日が経過したとある日の、決まり事としていた「仲間全員揃っての夕飯」の時、いつもの様に今日起きた出来事を食事と共に語らうさ中、一人、

「…………」

 黙して食すイリス。
 食事時間なかばでありながら唐突に、

「ごちそうさん、さぁねぇ」

 斜に構えた笑みで、使った食器が乗ったトレーを手にやおら立ち上がり、
「もう部屋に行くの?!」
 驚くラディッシュ達に、

「ちょっと疲れちまってさねぇ~アタシぁ先に休ませてもらうさぁねぇ」

 自嘲気味の笑みを残して調理場へ行くと、早々に洗って部屋から出て行ってしまった。
 その様を、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 黙って見送る仲間たち。
 元がコミュ障の集まりであるが故に、こんな時に掛ける「気の利いた言葉」の一つも見つけられず。

 一方のイリス。

 食堂を後にして自室に入るなり明かりも灯(とも)さず、枕と上掛けを使ってベッドの上に「自身が寝ている姿の偽装」を施し、完成させると、
(…………)
 ベッドの下から旅支度を済ませた鞄を引きずり出し、
(…………)
 聞き耳を立て、廊下に人の気配が無いと知るや否や鞄を手に扉を開け、
(…………)
 目視でも人が居ないのを確認。

 仲間たちが食事中の、温かであった階下に眼をやり、
(…………)
 一瞬、両眼を潤ませながらも未練を振り払うが如くに首を横に振り、

(みんな……最後まで勝手で済まないさねぇ……)

 表情を、決意を表す毅然に変えると静かに扉を閉めた。

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