ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

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 高確率で追跡から逃れる方法とは、

≪操船者の殺害≫

 目に見える「大きな的」と言える操縦者が命を落とせば、天法の供給を絶たれた船は停船を余儀なくされ、代わりの者が席に着いたとしても「天法の再チャージ」に時間を要し、逃走時間の確保ができ、場合によっては制御を失ったボートが転覆する可能性もあった。
 しかし、

(ダメな主(あるじ)に従うより他に無かった自国の兵士たちを、アタシぁ「無下に殺す助言」なんて出来ないさねぇ……)

 口にする事が出来なかった。
 激しく揺れるボートの中、視線を落とすイリス。
 すると、

『僕になら出来るかも知れない』
(!)

 ラディッシュの呟きに彼女は顔色を急変させ、ボートから振り落とされる危険性も忘れて身を乗り出し、

『本当さねぇラディ! 出来るのさねぇ!!!?』

 懇願するような眼差しに、
「ぜ、絶対とは、言いきれないけど、」
「イイから可能性があるなら頼むさねぇラディ! スグやっておくれでないさねぇ!!!」
 あまり時間は残されていなかった。

 まかり追い付かれてしまったら、手練れのドロプウォートやニプルウォート達と言えど、死に物狂いで襲い来る騎士、兵士を相手に無傷で済ませるのは不可能であったから。
 とは言え、
「…………」
 ラディッシュにも「確固たる自信」がある訳では無かった。

 彼女の「自国民を想う気持ち」を察し、その強い想いに「なんとか応えてあげたい」と心が動かされ、仲間たちにも無益な殺生をさせたくないとの思いから、引ける腰を奮い立たせて可能性を口にしたのであった。

 そんな彼の思いに触発され、
「可能性があるなら私からもお願いしますわ、ラディ。フォローと言うモノは、私達で致しますわ!」
「だからガツンと頼むさラディ!」
 ドロプウォートとニプルウォートも決意を口にすると、ラディッシュは揺れるボートの縁(へり)にしがみ付きながら、

「分かった。やってみる」

 腹を括って両眼をつぶり、自身の心に向かって、
(僕の中のラミィのチカラ……お願いだよ……僕に、イリィや、みんなの想いに応えさせて! そして、みんなの命を守らせてよぉ!)
 意識を深く集中。
 すると、天世人としての前小節を唱えていないのに、ラディッシュは内側から天法が溢れ出る感覚に襲われ、

(!)

 自身を白き輝きに包んだかと思うと、両眼をつぶっているにも関わらず意識が全方位広域拡散。
(!?)
 両眼を開けている以上に空間を鮮明に認識でき、個々の天法の輝きをも感じ取れ、その中に、

(あった!)

 ひと際、天法の輝きが凝縮された、幾つもの光が。
 それこそイリスが指摘した「天法の蓄積」であり、白く輝くラディッシュは、ドロプウォートとニプルウォートに体を支えられながら右手を空へかざすと、

≪我がチカラァ! 内なる天世のチカラを以て眼前の脅威を打ち払わぁん!≫

 白き輝きは神々しいばかりに光を増し、四方八方から迫り来るディモルファンサ私兵を乗せた全ての小型ボートの天法蓄積機関を脳内捕捉、ロックオン。
 すると、とある言葉が脳裏に閃き、

≪ホーミングアロォーーーッ!≫

 導かれた様に叫ぶと、彼の右手から幾つもの光の矢が放たれ、全方角から迫りつつあったボート群に襲い掛かった。
 回避する間さえ与えてもらえず、上部から、側面から、次々射抜かれるボート群。

 中には辛うじて回避したにも関わらず追尾された挙句に射抜かれるなど、逃れる事は不可能であり、ラディッシュ達を追っていたボート群は総じてガス欠の車の如く、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 惰性航行の後に停船した。
 イリスの願い通り、怪我人は皆無で。

 自走も出来ずプカプカ浮かぶしか出来ないボートの上で、悔し気に何事か喚いている姿が次第に遠ざかる。

 イリスはその様を、安堵の表情で見つめながら、
「ありがとさねぇ、ラディ……」
 感謝を口にしつつ、

(騎士、兵士としての矜持を汚してしまったかも知れないが、今は恥を忍んでも生きとくれさねぇ……)

 視線を落とし、
「「「「…………」」」」
 掛ける言葉を見つけられないラディッシュ、ドロプウォート、カドウィード。

 流石のニプルウォートも空気を読み、彼女流の気遣いから生まれる「からかいの言葉」すら見つけられずに居ると、
(!)
 仲間たちの「しんみり空気」に気付いたイリスは咄嗟に、いつも通りの斜に構えた笑みを見せながら、
『こんだけの騒ぎを起こしちまったからにぁ、とっとと「王様と王妃」に会わないとマズイさねぇ~』
 ヤレヤレ口調でおどけて見せた。
 すると緩んだ空気に、

((!))

 ハッとするドロプウォートとニプルウォート。
 何に気付いたのか悪い顔してニヤリと笑い、

「「お父様とお母様じゃなかった(ですわのぉ・のさぁ)?」」
『ッ!』

 ギョッとするイリス。

(どうしてぇ「その呼び方」をぉおぉ?!)

 慄きつつも以前に思わず、自身のキャラに似合わない「素の呼び方」を口走った失態を思い出し、
(うくっ……)
 赤面顔で押し黙り、ニヤけて見つめる二人に、

「うっ、ウッサイさねぇ忘れなぁ!」

 キレ気味の声を上げたが、羞恥で赤く染まった顔に喚かれても迫力は無く、むしろその初々しい反応に仲間たちは微笑ましげな笑み浮かべ、

『アタシを生温かい目で見るんじゃないさねぇえぇぇえっぇええ!』

 イリスの苦悶の声が空にこだました。
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