ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第八章

8-16

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 旅立ちの決意の日からさほど間を置かず――

 親方たちの手により、少しサイズを拡張した荷馬車に乗るラディッシュ達。
 見送りに立った村長や村人たちの背後には、未だ戸惑いを隠せないリンドウの元信者(コアなファン)たちの姿も。
 彼女の素性が知れてしまった事で両者の間に出来た溝は、

((((((((((…………))))))))))
(…………)

 遂に埋まらず、この日を迎えてしまった。
 荷台のリンドウは寂しさ、悲しさを内に抱えながらも、表面上はいつもの明るさを以て出発の時を待っていると、傍らから、

『仕方ねぇんじぁゃねぇ♪』

 見透かしたような軽薄口調を掛けて来たのは、ゴゼン。
 彼女は心痛が顔に出ていたと気付かされ、内心では驚きつつ、

「んなっ、ナンしぃ?!」

 振り向き様にしらばっくれると、
「俺らはぁ天世人だぁしょぉ? 連中(中世人)とはぁ、住む世界がぁそもそも違うんよぉ♪」
 軽薄な笑いに、

『ッ!』

 神経を逆なでされた気分になるリンドウ。
 まやかしであったとは言え、彼女にとって信者(コアなファン)達と過ごした時間は宝物であり、それを穢された思いに駆られ、
(アーシの子達の事を知った風な口でぇ!)
 何事か言い返そうとした、その鼻息を、

『怒ったところで「変えようのない事実」でしょ? ムカつくけど、ソイツの言う通りよ』

 挫くような声を上げたのは、ヒレン。
「ムカつくってぇヒレンちぅわん、ヒドイぃ」
 苦笑のゴゼンを尻目に本から目も離さず、片手間の様相で苦言を呈したが、二人の言い分に「一理ある」のは確か。

 天世人と中世人の間に横たわるのは「絶対的上下関」であり、主従関係のような側面があるのも否めず、また本人的にもその覚えはあり、
(ムクッ……)
 リンドウは悔し気にうつむき、押し黙るしか出来なかった。

 その落ち込みようを、一瞬だけチラ見するヒレン。
(…………)
 スグさま視線を本に戻し、

「理解できたんなら静かにしてくれない? 騒がしくて本もゆっくり読めやしないわ」

 一聴すると冷たく聞こえる「二人からの苦言」であったが、ラディッシュ達にはわかっていた。
 それが気遣いから生まれた「二人流の励まし」である事を。
 長い年月、同じ時間を共に過ごして来た間柄だからこそ言い合える、歯に衣着せぬ物言いであり、身に覚えのある不器用さに、

(みんな素直じゃないんだからぁ♪)

 御者台のラディッシュは小さく笑うと、

『そろそろ出発するね♪』

 手綱を鞭のようにしならせ馬たちに合図を送り、馬車はゆっくり動き始めた。
 見送りの村長たちに、笑顔で手を振るチィックウィードやパストリス、荷台の仲間たち。
 村長たちも手を振り応えていると、次第に離れて行く馬車の姿から「今生の別れ」を感じたリンドウの元信者の一人が、

「おっ、俺たち……このまま何も言わず見送ってイイのか……?」

 後悔を滲ませた呟きに、他の信者も、

「良くねぇだろぉ!」

 秘めていた想いを曝け出すが如く、

「リンドウちゃんは俺たちに「輝き」を見せくれた!」
「そうだ! リンドウちゃんは俺たちにとって天世人である以前に「唯一無二の神(アイドル)」なんだぁ!」
「辛気臭い顔して旅立ちを送ってイイ筈がないわぁ!」

 元信者たちの結束は燃え広がって行き、

『『『『『『『『『『そうだぁ!!!』』』』』』』』』』

 天高く拳を突き上げた頃、
「…………」
 荷台でうつむくリンドウ。

 得も言われぬ寂しさ、悲しさから、流れる外の景色も見る事が出来ず、
「…………」
 ただ黙って床の木目を見つめていたが、そんな彼女の耳に、

『『『『『『『『『『リンドウちゃーーーん!!!』』』』』』』』』』

 無数の声が。
「?!」
 失意の中からハッと我に引き戻され、吸い寄せられるように後方を見やると、

『!?』

 そこには血でも吐きそうな形相で懸命に叫ぶ「信者に戻った者たち」の姿が。

『ッ!』

 心を揺さぶられた彼女は反射的に荷台の端に駆け、落ちんばかりに身を乗り出し、

『みんなぁああぁっ!!!』

 必死に手を伸ばすと、信者たちは遠ざかっていく彼女に向かって満面の、精一杯の笑顔と声で、

『『『『『『『『『『行ってらっしゃいリンドウちゃーーーん♪ いつまでも待ってるしぃーー♪♪♪』』』』』』』』』』
「!」

 贈られた想いの強さに、その熱さに、リンドウは胸を押さえ一瞬涙を浮かべたが、スグさま振り払ってキラッキラの、かつてない最高の笑顔で、

『必ず帰って来るからぁ待ってるしぃーーーーーー♪』
『『『『『『『『『『待ってるしぃーーーーーー♪♪♪』』』』』』』』』』

 信者たちも笑顔を返し、和解を遂げた双方の涙を乗せて馬車は走り続けた。
 御者台では、

「「「えぇ~話やぁ~~~」」」

 ラディッシュ、ドロプウォート、ニプルウォートがもらい泣き。
 荷台の仲間たちも涙する中、次第に遠くなっていった村は、
「…………」
 街道沿いの茂るに任せた木々により、遂に視界から消えてしまった。

 それでも、
「…………」
 村がある方を、見つめ続けるリンドウ。

 笑顔で見送る信者たちの姿が、未だ見えているかのように。
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