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第八章

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 由緒正しきフルール国謁見の間で続くドタバタ喜劇に、

『こ、コホン!』

 わざとらしくも、短い咳払いをしたのはリブロン。
 いつまで経っても進まぬ話を仕切り直そうと、

「へ、陛下、そろそろ」

 促すと、

「そぅでぇありんしたなぁ」

 ベッドのような玉座に横たえる女王フルールも妖艶な笑みで応え、勇者組の七人を、天世人の三人を、
「…………」
 中世で名高い女帝としての「高貴なる佇まい」を以て静かに見据え、その噂に違(たが)わぬ圧倒的存在感に、

「「「「「「「…………」」」」」」」
「「「…………」」」

 思わず息を呑む、勇者組と天世組。
 彼女が次に口を開いた瞬間「何を申し渡される」のか、得も言われぬ緊張で言葉を待つと、

「た……」
「「「「「「「「「「た?」」」」」」」」」」

 思わずオウム返しで訊き返した途端、

『助けて欲しいでゴザルぅ小生をうぅパス殿ぉおぅうぅぅ!!!』

 威厳に満ち溢れていた女帝が、涙ながらの同人誌作家に豹変。
 勇者組が、

《ヤッパリかぁ》

 苦笑した一方で、初見(しょけん)の天世の三人組にとっては、

《・・・・・・》

 驚きのあまり声も出せずにフリーズ。
 その、あまりの変貌ぶりに。
 しかし、新たに「余程の厄介事」を抱え込んだと思われる彼女は、彫像のように固まってしまった天世人を気にする余裕も無いらしく、玉座から飛び降りパストリスに泣きつき、

『今度こそぉ絶対にぃ(納期に)間に合わないでゴザルよぉ~』

 困惑笑いで頭を撫で宥めるロリに、涙ながらに訴えた。
 今の彼女に、まともな受け答えは無理だと判断するパストリス。

「何があったのでぇすぅ、リブロンさぁん?!」

 あえてリブロンに尋ねると、彼女は短くため息を吐き、
「だからあれほど「無理だ」と申し上げたではありませんか、陛下ぁ~」
 主君である女王を諭すように、

「全作品の新刊同時発売などぉ。そもそも同一作家と知れていませんのに「一斉発売して読者を驚かせる」の意味が分かりません。出版社にうまく乗せられてぇ、単なる内輪ネタではありませんかぁ~」
『今さら言うなでゴザルよぉおぉ!』

 ロリのささやかな胸の中で涙ながらに反発し、ラディッシュたち勇者組が苦笑で見守る中、

『ちょぉ、ちょっとぉ待つしぃ!』

 リンドウが戸惑いの声を上げ、

「アーシ達ぃ話が全然見えないのしぃ!」

 天世の二人と共に説明を求めると、三人を改めて視界に収めたリブロンは、
「!」
 何ごとか、閃いた。
 即座に、毅然とした表情を作って背筋を伸ばし、軍人さながら踵同士をぶつけて「カツン」と打ち鳴らし、

『百聞は一見に如かず、です!』

 その得も言われぬ気迫に、

「「「ひゃ、百ぅ?!」」」

 天世人の三人は言葉の意味も分からずたじろいだが、瞬きした瞬間、

『『『!?』』』

 気が付けば揃いの緑ジャージに身を包み、修羅場作業の真っただ中。
 アシスタント筆頭青ジャージのパストリスの「煽りの咆哮」が飛び、時間に追われ焦る勇者組の怒号が頭上を飛び交い、指示されるがまま必死にペン入れ、ベタ塗りするリンドウは、露出度の異様に高い原稿群に、

『はぁっ、ハレンチしぃいぃ!!!』

 派手な見た目と相反する「初々しい乙女な反応」を見せていたが、それも始めの数分のみ。
 次々次々矢継ぎ早で送られてくる作業原稿に羞恥を気にしている余裕も無くなり、

『何がぁ、どぅしてぇ、こうなったのぉしぃいぃいぃぃいぃ!』

 嘆きの声を上げたが、その一方で、

『…………』

 嬉々として黙々作業に没頭するのはヒレン
 女王フルールが「中世でハマった同人誌の作家」であるのを知り。
 因みに「イイ加減」がモットーのゴゼンはと言うと、あまりの多忙に正常を失い、

「アハぁ♪ アハハぁ♪ アハハハハぁ♪」

 変なスイッチが入ったらしく壊れた笑いをしていたが、作業の手だけは止めず、繰り返し作業をロボットのようにこなしていた。
 手を止めてしまったら「自分が処理するノルマ」が加速度的に増える一方だから。

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