ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第八章

8-37

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 逃げる勇者たちの背を懸命に追う、町の人々。
 やがて地の利に加え、元より身体能力の差から、

「ハァハァハァハァ……みぃ、見失っちゃったぁ……」
「ゼェハァゼェハァ……さぁ、流石はぁ……勇者様一行ぉ……」

 追跡者たちは肩で息を切らせたが、それでもなお勇者様一行の背を追い求め町を彷徨った。
 その様を、

「…………」

 一望できる高所から見下ろす、ニプルウォート。
 町の景観をも一望できる高所から、

「探してる探してるさぁ♪ 疲れてヘロヘロになりながらぁ~まるでぇゾンビさぁ♪」

 愉快気に「キッシッシッ」と笑いながら眺め、
((((((((ワルイかお……))))))))
 ラディッシュ達は苦笑したが、

「…………」

 何とも「浮かない顔」をするのは、ターナップ。
 誰一人ケガをすることも、怪我をさせる事も無く、無事に逃げおおせたにも関わらず。

 気付いたニプルウォートは「ニヒッ」と笑い、
「何てぇシケた顔してんのさぁ♪ ここなら誰も追って来ないだろぅさ~?」
 その軽口に、

「はぁ……」

 彼は短くため息を吐き、
「そりゃ、そぅだろぅともぉ……」
 何ともバツが悪そうに、

「俺らが居るのは教会の屋上で、足の下には不敬にも「天世様のイコン(聖画像)」があるんだからよぉ~司祭の俺が「やってイイ事」なのかぁ~?」

 空を見上げて嘆いて見せた。
 ラディッシュ達が潜んで居るのは、王城に引けを取らぬ「高さと絢爛」を誇る教会の屋上であり、ターナップが指摘した通り、天世のイコンの上に立つ格好となっていた。
 天世を神の如くに尊崇する中世人にとって「有り得ぬ行為」であり、司祭である彼が行うなど以ての外(ほか)である。

 信仰する神が、足の下。

 とは言え「興奮状態の町の人々」に捕まれば、仲間たちが無事では済まないのは明らかであり、集まった人々が事故を起こす可能性も否定できず、
《信仰心と仲間たちの身の安全》
 加えて「町の人々の安全」を秤にかけ、

「…………」

 彼は泣く泣く屋上へ上がったのであった。
 司祭としてあるまじき行為に「落ち込むターナップ」を、ロリ(パストリス)と幼女(チィックウィード)が宥める中、悪女(ニプルウォート)は肌に心地よい風を感じながら、

「ここはさぁ、気分がクサクサした時に「よく来てた場所」なのさぁ~♪」
(((((((((!)))))))))

 敵地で保護された捨て子でありながら女王フルールの寵愛を一身に受け、その能力の高さからどのような過酷な戦場からも一人で生きて帰り、妬まれ、疎まれ、同僚たちから距離を置かれていたのを知っているラディッシュたち勇者組と、個人データとして知っている天世の三人。
 当時の彼女が「どれ程の苦悩」を重ねていたか想像に難くなく、

「ここなら誰も来ないしさぁ~ここから人を、町を、眺めてると、ウチの悩みなんてぇ小さく思えて来るのさぁ~♪」

 語る笑顔から、むしろ想像以上の辛さであったろう事が察せられ、
(((((((((…………)))))))))
 今を楽しむ彼女の姿に水を差す一言を、傷口に塩を塗るような軽はずみな言葉を、口に出来る無粋な者など一人として居なかった。

 彼女にしても、それが分かっての「本音の吐露」でもあり、仲間に対する親愛の表れ。

 未だ勇者一行を探し求める町の人々の徘徊を、
(ホントにぃゾンビみたいしぃ♪)

 リンドウも見下ろし「クスっ」と小さく笑い、美しい街並みを見渡し、
「…………」
 ニプルウォートが感じていた爽やかに吹き抜ける風を肌で感じながら、
「…………」
 中世に降りてから今日までを思い返し、

「中世は……ほんとぉ生気に満ち溢れてるのしぃ……♪」

 感嘆を、笑みを浮かべて口にした。
 しかしその言葉は何処か寂しげで、天世の現状を嘆いているのは明らかであった。
 すると、

『誰だって、隣の芝生は青く見えるよリンドウさぁん♪』

 それとなくの気遣いを見せたのはラディッシュ。
 ドロプウォートも、

「ラディの言う通りですわぁ。中世が「生きるチカラ」に満ちているように見えるのは、そうでもしなければ「汚染獣と言う名の危険」と隣り合わせのこの世界で、生きてはいけないからですわぁ♪」

 辟易した笑顔を見せた。
 単に、生存本能が見せる「煌めきである」とでも言いたげに。
 それが気遣いから出た言葉であるのはリンドウも重々承知していたが、承知してなお、

「それでもぉ……今のままだと「天世はいつか滅びる」しぃ……」

 ゴゼン、ヒレンと視線を交わし、
「「「…………」」」
 改めてラディッシュ達に、

《アーシ達はぁそんな天世を変えたいしぃ》
「「「「「「「…………」」」」」」」

 言葉からは、静かなれど並々ならぬ決意が感じられた。
 余談とはなるが、ラディッシュたち勇者組が休暇の時間を使って天世の三人と関係を深めて居た同時刻、王都フローレスにある印刷所では、

『さっさと原本の内容を機械に移さないかァい!』

 年配女性の荒れた怒号が飛び、慌ただしく所内を駆け回る作業員たち。
 印刷していたのは女王フルールが納品した全原稿。

 勇者組と天世組の奮闘で納期に間に合ったとは言え、出荷作業も含めると期限はギリギリ。
 時間のシワ寄せを、印刷所が「モロ被り」していたのであった。

 陣頭指揮を執る姐さん気質の女性は、作業員の女性たちの尻を叩くように、

『ダラダラしてるヤツは川に叩き込むよ!』
「「「「「「「済みませぇん!」」」」」」」

 販売開始時間に間に合わせるべく奮戦していた。
 全ては女王フルールの、

《国民を楽しませたい》

 その想いを守る為。
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