ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
600 / 895
第九章

9-6

しおりを挟む
 喜怒哀楽の欠落を感じさせる無表情で立つグラン・ディフロイス――

 しかし、
「…………」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 誰一人として、彼を見ようともしない。

 講師となった彼が、教壇に立って居るにも拘らず。
 見ないどころか、生気の失せた青い顔して自身の内に引き籠り、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 ただただ、うつむいていた。
 その姿は、まるで手に掛けた誓約者たちの亡霊に取り憑かれてかのよう。

 微かに動かしている口元に耳を傾ければ、聴こえて来たのは「後悔」と「言い訳」の繰り返し。
 この世界に勇者として呼ばれ、蝶よ花よと持ち上げられると思った矢先、拉致され、あげく保身の為に「憎くも無い中世人(誓約者)」を手に掛けたのだから、茫然自失もやむを得ぬとは思えるが。

 しかし教壇に立つグラン・ディフロイスは甘い顔を見せる事も無く、放心の生徒たちを前に、
「…………」
 右腕を真横に素早く一振り、

 ゴァオガシャアァァァア!

 義手から放たれた地世のチカラにより容赦なく破壊される壁。
 新任講師の突然の奇行に、

「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」

 流石にギョッとした九十九の視線が集まると、彼は眉の一つも動かさず、能面のような無表情で淡々と、

『プエラリア様のお役に立てないようなゴミは、今、この場で、私が処分します』
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」

 静かな物言いが、むしろ怖さを引き立てた。
 少年少女たちは、知る。
 この講師を前に、

《殻に閉じこもっている場合でない》

 再び訪れた、命の危機。
 危機は、少年少女たちに我を取り戻させるに十分であった。

 始まったのはグラン・ディフロイス直接指導による、天法とは用法が異なる、地法の基礎理論から実用に至るまでの技能や武技全般、軍事教練。

 有無を言わせぬ、叩(たた)き込み。

 体力的にも厳しい一方的な「詰め込み教育」に対し、自我を取り戻した生徒たちの一部に当然の如く、反目も発生した。
 言葉足らずなグラン・ディフロイス側にも問題はあるのだが、彼の「無骨な教えの根底」にあったのは、

《この世界で生きていけるだけのチカラを与えよう》

 自覚無き「愛情」である。
 同じ世界から来た、先輩としての。

 単なる「いがみ合い」であったなら、何処まで行っても平行線な関係であったであろうが、「真なる想い」は日々の積み重ねの中でいつか相手に伝わる物である。
 そこに邪念が介在して居なければ。

 おのずと心の距離は近づいていく。

 過酷な軍事教練の中で、言葉足らずなグラン・ディフロイスがそれを可能にした理由こそ、彼が心根に持つ「優しさ」や「純粋さ」であった。
 そのような人物でなければ、戦士としての命である両腕を投げ打ってまで、敵であるラディッシュ達を助けたりしないのである。

 教官と教え子の関係以上に、不器用ながらも心と心を次第に深く通わせた、愛すべき日々。

 それら全てを魔王プエラリアは易々と踏みにじり、変質していく愛弟子たちを見ている事しかできない苦悶の彼に悪びれる様子もなく、

「何をそんなに悲しむのさ♪ その子達は、これで本物の「地世の戦士」になれたんだよん♪」
「…………」
「不満かい♪」
「…………」
「それなら聞くけどぉ、その子達の手は「血にまみれてない」とでもキミは言うのかぁい♪」

『!』

「そうだよねぇ♪ 地世に連れて来たあの日、この世界の真実を知らされたその子達は、自ら選択して、自らの意志で手に掛けたんじゃないかぁ♪」
「…………」
「誓約者を、知り合ったばかりの中世の民を、自らの「保身の為」にねぇ♪ アハハハハハハハハハ♪」

 子供のような、無邪気で楽し気な笑い声に、

「クッ!」

 苛立ちを覚えた彼は即座に、

『この世界に来た覚悟と信念を折られた挙句、命の選択を迫られれば!』
「「止むを得なかった」とでも言うのかぁい♪」
「…………」
「それは相手が「作り物の命」だから♪」
「違ッ!」
「だから「殺した事にはならない」とでも言うのかい♪」
「そんなつもりは!」
「アハハハ♪ ボクよりヒドイ事を言うねぇグランくぅんは♪」

 ケラケラ笑うプエラリアの笑顔に、彼は「作り物の命」が何を意味しているか知っている素振りで、

「そ……それは……」

 口籠ると、両目をつぶったままの魔王は淡々と、

《ボクは迷いなく選択したよ》
「!」

 一瞬の真顔の後、怖いくらいの満面の笑顔に瞬時に戻り、

「何人もの仲間を失い、やぁっと辿り着いたこの城で、老い先短い、老いぼれ魔王から真実を知らされたアノ時にぃねぇ♪」

 プエラリアは天使の笑顔の口元に、微かな闇を滲ませ、

「(七草の)キミ達だって、そうだったじゃない♪」
「…………」

 グラン・ディフロイスは当時を思い返し、そして、
「…………」
 視線を落とした。

 身に覚えがあるだけに。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...