ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第九章

9-7

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 中世を守る天世の戦士としての誇りを胸に、地世に乗り込んだ勇者プエラリアを含む、元は百組であった勇者と誓約者の少年少女たち。
 既に多くの仲間を失い、ライバルであったと同時に友人でもあった仲間たちの屍を乗り越え、戦いに、更に戦いを重ね、魔王の居る一室に辿り着けたのは、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 七草と称されていた「実力者の七人」だけであった。
 年端もいかぬ少年少女たちに課せられた戦いはあまりに苛烈であり、精神的にも肉体的にも疲労困憊、満身創痍。
極限状態で対峙する事となった魔王であったが、討つべき仇敵(きゅうてき)は、

「…………」

 ベッドに横たえ、放って置いても老衰死目前の虫の息。
「「「「「「「…………」」」」」」」
 怒りを通り越し、虚無感に立ち尽くす少年少女たち。

(((((((何の為にここまで……)))))))

 辿り着くまでに失った仲間たちの命の意味を、仲間たちの晴らすべき無念を、全てが無意味で、無価値に思えた。

 激闘の末に討ち果たす事が出来ていたならば、消えて逝った仲間たちにどれほど誇れたであろうか。

 古(いにしえ)の時代より生きし初代魔王は、自ら開発した地法により延命を続けていたが、それでも「寿命と言う名の宿命」には抗えず、余命いくばくもない寝たきり状態であったのである。
 そのような状態の魔王の口から語られたのが、この世界の真実。
 真実は、

『『『『『『『!?』』』』』』』

 疲れ切った若き勇者たちの心を壊すに十分であった。
 奈落の底に突き落とされた当時の挫折、落胆が甦り、

「…………」

 返す言葉も無いグラン・ディフィロイスではあったが、朴訥に、
「それでも私は……」
 人としての意識を失いつつある生徒を静かに寝かせ、

『(私の教え子たちを)こんな姿に変えたオマエだけはァアッ!』

 鬼の形相の振り向きざま、伸ばし固めた五指でプエラリアの喉元を貫こうとした。
 空手で言う所の、貫手(ぬきて)で。
 五本の指を揃えて伸ばし固め、一振りの剣のように用いる技であり、手を刀のように用いる手刀(しゅとう)と形こそ似てこそいるが、小指側の側面を相手に当てて斬る動きをするのと違い、読んで字のごとく指先で「一点を鋭く貫く技」であった。

 しかし、
「クッ!」
 渾身の一刺しが魔王の喉元に届く事はなかった。
 怒りを以て指先を突き立てようとした姿のまま、

「…………」

 身動きを封じられるグラン・ディフロイス。
 しかも言葉を発する自由さえ奪われ、

「…………」

 恨めしい眼差しを向ける元戦友を、プエラリアは悠然と見下ろし、

「まったくぅヤキモチを焼いてしまうよぉ~♪ ボクの為に、そこまで感情を荒げてくれた事があったかぁい♪」

 小さく「クスッ」と笑って見せ、

「でも悲しむ必要はないよ、グランくん♪」
「…………」

 彼の額に右手をかざし、

「キミも生徒たちと一緒に、ボクの「従順な一兵卒」にしてあげるんだから♪」
「…………」

 動けず、物も言えず見据える眼に、激しい憎悪の闇を見ると、

『いいねぇ~その「眼の表情」ぉ最っ高ぉ~♪』

 プエラリアは悦に入って打ち震え、
「絶望の中に浮かぶ怒りぃ堪らないねぇ~♪ でもぉ、忘れてもらっちゃ困るなぁ~♪」
 薄っすら開かれた瞼の奥の、真っ赤な虹彩で不敵に笑い、

「地世の全ては二代目魔王のボクのモノ♪ それは当然、ボクの手で「地世の七草」に造り変えられた、キミも同様なんだよぉん♪」
「…………」

 再び閉じた両眼は視線こそ彼から離さず、

『待ちくたびれちゃったの? 一人にしてゴメンね♪』

 自身の背後に、声を投げ掛けた。
 そこには、いつから立って居たのか、

「…………」

 玉座の隣席に坐しているのが通例の、置物のようであった全身鎧の姿が。
 無言で立つ全身鎧に魔王プエラリアは、まるで待ち合わせた恋人に語るが如き、甘い口振りで、

「すぐに済むから、ちょぉっと待っててねぇ~♪」
「…………」

 軽んじられたにも拘らず、話に割って入る事も出来ない、固まった姿のグラン・ディフロイス。
 怨み言の一つも口に出来ない彼に、

「じゃあねぇグランくん♪」

 軽やかな別れを告げ、地世のチカラで覆い尽くすと、

「お待たせぇ~♪」

 プエラリアは天使の笑顔で振り返り、

「玉座に戻ろうっか♪ 一般人じゃないから合成獣化が定着するまで、流石に数日かかるだろうし♪」

 全身鎧を連れ立って楽し気に歩き出し、講堂から出ると、
「腐っても「勇者と七草」だから時間もかかるよねぇ~♪」
 辟易した口調の屈託無い笑顔だけ残し、扉を閉めた。

 闇と化した室内で異形の姿へ変質していく元戦友に、心を痛める素振りも無く。
 去って行った「かつて友であった者」の背に、

(皆と、地獄で待っているぞ、プエラリア……)

 彼の怒りは、憎しみは、悲しみは、全ての意識と共に暗き深淵の底へ次第に溶け堕ち、消えて逝った。

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