ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第九章

9-43

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 大司祭は、孫の巌(いわお)の如き鍛え上げられた肉体を、分厚い腹筋を、いとも容易く貫き、

「はぁがぁ……」

 背中から拳が突き抜けたのではないかと思うほどの衝撃を受ける、ターナップ。

(いぃ、意識がぁあぁ……)

 全部持って行かれそうになった。

 それでも半ば無意識に、反射的に、腹に刺さる祖父の細腕を掴もうとした。
 意識は薄れど、消えぬ闘争心。
 数々の死戦の中で培った精神力が可能にした足搔きであったが、祖父は孫が積み上げて来た経験を嘲笑うかのように、半歩踏み出し反動を使い、腹に刺した細腕一本で、

『ヌルイわぁい!』

 辛うじて意識を繋いでいた巨漢を十メートル近く投げ飛ばした。

「はがぁ!」

 短い悲鳴を上げ、地を転がるターナップ。
 まるで荒野の強風に為す術(すべ)なく転がる回転草(かいてんそう)、タンブルウィードのように。

 開戦間もなく、数手交えただけであったが、見せつけられた圧倒的力量差に、地面に突っ伏したまま、
(つ、強ぇ……)
 虚(うつ)ろな目。
 
 心が折れそうな孫を前にしてなお、祖父は心痛を覚える様子も無く、
「…………」
 鬼の形相で仁王立ち。

 睨むように見降ろし、
「これが今の「七草の実力」とはのぉ」
『ッ!』
 見下した物言いに、仲間たちまで見下された思いに駆られ激しい怒りを覚えたが、

(クソ……)

 敗者に、反論の余地は無し。
 地に伏し、ダメージから身動き一つ出来ない「憐れな今の姿」が全てであった。
「…………」
 敗戦の言い訳をしない孫に、

「逃げ口上(こうじょう)を口にしない事は褒めてやろう」

 祖父は褒めているとは到底思えない冷めた物言いで称賛した上で、
「しかし、それで良いのか?」
「……?」
「ワシの本当の名を知っても尚、そうして居られるのかと問うておる」
「本当の名……?」
 痛みに耐えながらの怪訝顔を辛うじて上げると、祖父は冷淡な眼差しで孫を見下ろしたまま、

「ワシの本当の名前は「レスペデザ」じゃ」
「れすぺ……」

 その言葉に「ハッ」とするターナップ。

 悪寒を伴う、記憶の引っ掛かりに、
(何処でだ?! いつ、誰から聴いたぁあ!?)
 脳内を高速検索。
 
 よぎったのはドロプウォートの横顔。
 禁書を読んだと語った時の。
 それをきっかけに呼び起された記憶は、

『地世の七草ァア!?』

 プエラリアと共に魔王城に乗り込んだ、勇者一行の一人の名前であった。

 一気に青ざめる。
 自身の体の中に、中世と天世の全てを滅ぼそうとしている者達と、同じ血が流れている現実に。

 しかし察した祖父は、
『戯(たわ)けが』
 孫が導き出した答えを一蹴し、

「今のワシは「地世の七草」などではない」
「……?」

「魔王となったプエラリアとは、とうの昔に袂を分かち……」
「…………」

「元老院の一兵卒じゃ」
『げぇっ、元老院だとぉお!』

 うつ伏せたまま激昂するターナップ。
 そもそもの話として、天世、中世、地世に蔓延(はびこ)る不和、「諍いの素」を生み出しているのは元老院である。

 聡明な僧侶である祖父が気付いていない筈もなく、
『何してぇんだテメェはァアーーーッ』
 激怒を通り過ぎ、悲しくもあった。

 両親が死んだ要因の一部である元老院に、祖父が加担していたと言う事実に。

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