ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
703 / 895
第十章

10-54

しおりを挟む
 元は「百人の勇者」である並外れた実力を持つ合成獣の群れに立ち向かうパストリスの自信と覚悟に満ちた目に、勇姿に、ターナップは共に戦って来た今日までを思い起こし、

(俺は何を慌ててたんだかぁ)

 手前勝手な心労を自嘲すると、眼を据え、腹を据え、迫る敵軍を前に、

(お嬢に負けてらんねぇえ!)

 自身の戦いに改めて集中した。
 そんな中、ラミウムと幾度も激しく剣を交え続けるラディッシュは、彼女の余裕の笑みに微かに滲んだ「一瞬の驚き」を見逃さなかった。
 それは想定外を見た驚きに見え、ラディッシュは「動揺を誘う目的」と、仲間たちを甘く見ていた「批判の意」を込め、

『アレがパストの本来の姿だよ♪』
「…………」

「地世に居るパストは、より強いよぉ♪」
「…………」

 言い返さぬ彼女に、休まぬ攻防の手に加え畳み掛けるように、

「何を驚いてるのぉ? パストの才能を誰よりも早く見抜いて、誰よりも目を掛けていたのはラミィじゃないかぁ♪」
「…………」

 この場面に来ての「あえてのラミィ」呼び。
 ここまで彼女を「ラミウム」と呼んで拒絶の意を表していたのに。

 あたかも「だからオマエは本物のラミウムじゃない」とでも言いたげに。

 向けた笑顔も皮肉であり、パストリスの真なる実力に気付けなかった彼女に対する最高の当て付けであったが、
「…………」
 反論できない地世のラミウム。

 斜に構えた笑顔を保つのが、精一杯か。
 今の自分が自分である為に、修繕前の記憶にあえて触れないようにして来たのが仇となった。

 指摘され、密かに記憶を辿って見れば「彼の話は真実」であり、
《まったく邪魔な記憶さねぇ》
 自身の記憶でありながら「実感を伴わない記憶」に、苛立ちを覚えた。

 ラディッシュとの攻防を繰り返しながら、地世王ラミウムが負の感情を増していた時、エリート合成獣たちと単身でありながら接戦を繰り広げるターナップは戦いながらも、
(…………)
 眼の端に映る、別の一団と交戦中のパストリスをチラ見。

 そこには「身を案じる想い」が当然あったのだが、それだけでなく、

(強ぇ……)

 本気モードになった彼女の闘いぶりから目が離せなかった。
 戦闘中であるが故に、流石に「目が奪われる」とまではいかないが。

 見せつけられたのは、今の自身との圧倒的実力差。
 分かっていた事とは言え、守ると誓った少女より劣る自身の力量にショックは隠せなかったが、そこで落ち込むようなターナップではなく、彼は闘志のギアを上げ、

『ならぁ今、強くなってやらぁあ! ラディの兄貴ぃチカラも借りますぜぇ!』

 追いつけ追い越せの気概で以て鼻息荒く、

《天世人ラディッシュの恩恵を以て我は戦う!》

 吠えてその身を白き眩き輝きに包み、鬼神の如き睨みを迫り来る合成獣たちに向け放ち、

『まとめて掛かって来やがれぇクソ共ァア!』

 しかし相手は「単なる合成獣」などではなく「百人の勇者」が素になった、合成獣たちの群れである。
 それも金狼グランが厳選した、エリート合成獣の一団。

 パストリスが封印していた「妖人のチカラを開放した」からと言って、ターナップがより強大になったラディッシュの「天世のチカラを纏った」からと言って、形勢が易々と好転する筈もなく、
『『クッ!』』
 二人の一進一退は続いた。

 とは言え押されてはおらず、しかも立場を変えてみれば「苦戦を強いられている」のはエリート合成獣たちとて同じこと。
 更に言うなら「地世の世界」と言う「自分たちに有利な土俵」で戦っているにも拘わらず。

 各種条件を基に実力の優劣を判定すれば、パストリス、ターナップに軍配は上がるのだが、総論として「戦いは拮抗」していた。

 そして謁見の間で戦っているラディッシュ、パストリス、ターナップが知る由もない話ではあるが、階下で戦っているリンドウ、ヒレン、ニプルウォート、カドウィードも同様に。
 勝利の女神がどちらの軍勢に微笑んでもおかしくない中、地世王ラミウムは終わりの見えない戦いを「キッシッシッ」と笑い、

『これじゃぁ埒が明かないさぁねぇ~♪』

 新たな一手の決意を。
 ラディッシュとより激しく、鋭く、厳しく剣を交えながら、

『アンタがぁどうしてそこまで天世に肩入れするのかぁ、アタシにぁまったく理解不能さねぇ~♪』
「…………」

「考えてもみぃなやぁラディ、三世(さんぜ:天世・中世・地世)の格差は「誰が作った」さねぇ♪ 誰が「差別を生んだ」のさぁねぇ~♪」
「…………」

 答えないラディッシュ。
 攻守の手を止めず。
 答えることが、出来なかったのである。

 彼女の「言わんとする事」が頭で分かってしまっていたから。
 変わらぬ表情と相反し、惑いが微か滲む剣筋。
 彼女はそれを見逃さず、一瞬の気も抜けない戦いのさ中にありながら、ほんの僅かな間隙(かんげき)に指をパチンと打ち鳴らし、

「キッシッシッ♪ アタシが先代(プエラリア)から引き継いだ「この世界の真実」ってぇヤツを、アンタらにも聴かせてやるさぁねぇ~♪」

 愉快げに笑う彼女は戦いながら語り始めた。
 天世、中世、地世にまつわる真実を。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します

みおな
ファンタジー
 王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。  それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。  死んだはずの私が目覚めたのは・・・

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

処理中です...