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第十一章
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フルール国の女帝からの、まるで幼子のような扱われ方にニプルウォートはそこはかとない懐かしさを感じた様子は窺わせつつも、彼女も今や成人した一人の女性である。
親子二人きりの空間ならばまだしも公衆の、それも想いを寄せる相手が居る前でその様な扱いを受けて喜べる筈もなく、
『んなぁあ?!』
羞恥で顔を、みるみるみるみる真っ赤に、
『撫でるなぁあぁ!』
しかし女帝は変わらぬ笑みで頭を撫でながら、
「愛しい娘を母が撫でんしぃてぇ、何が悪きにぃありぃんしょう♪」
「ウチはもぅ稚児じゃナイさぁあぁ!」
「娘は幾つになっても娘にありぃんすぅぇ♪」
「ひぃううぅぅううぅ!」
優しく撫でる手を、払うに払えない。
相手が女王だからか、はたまた真なる母親だからか。
耳まで真っ赤に両手で顔を覆い、
『恥ずか死ぬぅうさぁあぁぁ』
斜に構えて人をからかうが平時の、面影無し。
そんな彼女の羞恥を気にする素振りもなく、人目も気にせず撫で続ける女帝フルールであったが、彼女がラディッシュを想って向けて来た「怒りの眼差し」を思い返し、
(…………)
幼少から現在までの日々を思い返し、
(ほんにぃいつの間ぁ成長しぃんしたなぁ~♪)
娘の成長を今更のように実感し、目を細めた。
自身が「正しい」と考える信念の為ならば、例え相手が一国の王だとしても怯まず、我を貫こうとする、その気勢に、気概に。
どの様な過酷な戦場においても必ず一人だけ生きて帰り、仲間たちから死神と揶揄され、忌避され、周囲との関係も断っていた、フルール国の騎士であった頃の、死霊に取り憑かれているかのような暗い眼をした当時の彼女も思い返した。
まるで「死神」と称される自身を、受け入れてしまっていたような眼を。
人として立ち直るきっかけとなったのは、ラディッシュ達との出逢いに他ならず、
(ありがとぉなんしぃ勇者殿ぉ♪)
「?」
見つめる眼差しから語られた謝意の呟きを聴き取れなかったラディッシュ。
それ程までの小声で「何を言われた」のか気に掛かり、しゃなりしゃなりと自席に戻る妖艶な背を見つめたが、女帝は変わらぬ笑みを浮かべるだけ。
同じ言葉を、二度は口にしなかった。
一国の、それも周辺諸国を牽引する大国の長としての彼女は、個人より組織を優先せねばならない立場にあり、娘の心を救えなかった母としての、嫉妬混じりの悔しい気持ちもあり。
会議は少々回り道をしたものの現状を踏まえた各国共通認識として、混乱のさ中にある地世への警戒は、
《二の次》
目下、最も懸念すべきは、
《天世への対応》
今は「天技の盾」を展開する事で、天世からの万が一に備えてはいるが、盾は開発段階の技術であり、緊急使用であったのも加え、
「担当者らぁのぉ目算通りでぇありぃんしたらぁ一か月を待たずぅ、数週間で途絶を迎えるでぇありぃんしょぅなぁ」
((((数週間……))))
長いようで短い、重い数字が伸し掛かる。
中世における天技の発動は言わずもがな、天世からの恩恵により成り立っている。
しかも前地世王ラミウムの言葉を信じるならば、天世の恩恵は中世人の日々の祈りのチカラが素となっている。
中世の民が祈りを捧げれば捧げるほど返る天世からの恩恵は多くなるのが理屈であり、天技の盾を維持できる期間も自動的に長く出来るのを意味したが、
「先のぉ地世王の映像を見いんしてぇなぉ従順に祈りを捧げようとする中世人が、世に如何ほど居りぃんしょうやぁ?」
「「「「…………」」」」
「天世様からのぉ恩恵が期待できぃずぅ天法の補充の先細りが現状にぃありぃんす」
「「「「…………」」」」
搾取されていると知らされた天世に「祈りなど捧げたくない」と思うが人情ではあるが、捧げなければ恩恵が断たれる。
断たれれば中世人の暮らしが、立ち行かなくなる。
正にジレンマを抱えていたが、日々の暮らし以上に危惧されるのが「天技の盾の維持」である。
恩恵の先細りも考慮して示した期限の数週間であり、恩恵の枯渇により消失した時、天世から下される可能性が高いと思われる天罰。
その一撃が「どれ程の威力を持つか」は、パラジット国に起きた悲劇で証明済み。
先の件は「一国の不敬」であるがゆえに被害も一国にとどまったが、今回は中世の世界全体が攻撃を加えた形になっていて、どの様な威力の罰が、どれ程の規模で下されるかは想像もつかず、まかり先の規模の攻撃に世界中が晒されれば、甚大な人的被害もさることながら最悪の場合、
《中世の文明が滅ぶ》
極論ではあるが天世にとって中世人が祈りを捧げさえすれば、文明があろうが無かろうが構わないのである。
文化は知恵であり、知恵が許されていたのは、知恵があれば宗教が立ち、宗教が起きればまとまった祈りが得易いから。
推測をその様に語ったのは、リンドウ。
長年に渡り天世の中枢にいた経験則から導き出した仮定であった。
親子二人きりの空間ならばまだしも公衆の、それも想いを寄せる相手が居る前でその様な扱いを受けて喜べる筈もなく、
『んなぁあ?!』
羞恥で顔を、みるみるみるみる真っ赤に、
『撫でるなぁあぁ!』
しかし女帝は変わらぬ笑みで頭を撫でながら、
「愛しい娘を母が撫でんしぃてぇ、何が悪きにぃありぃんしょう♪」
「ウチはもぅ稚児じゃナイさぁあぁ!」
「娘は幾つになっても娘にありぃんすぅぇ♪」
「ひぃううぅぅううぅ!」
優しく撫でる手を、払うに払えない。
相手が女王だからか、はたまた真なる母親だからか。
耳まで真っ赤に両手で顔を覆い、
『恥ずか死ぬぅうさぁあぁぁ』
斜に構えて人をからかうが平時の、面影無し。
そんな彼女の羞恥を気にする素振りもなく、人目も気にせず撫で続ける女帝フルールであったが、彼女がラディッシュを想って向けて来た「怒りの眼差し」を思い返し、
(…………)
幼少から現在までの日々を思い返し、
(ほんにぃいつの間ぁ成長しぃんしたなぁ~♪)
娘の成長を今更のように実感し、目を細めた。
自身が「正しい」と考える信念の為ならば、例え相手が一国の王だとしても怯まず、我を貫こうとする、その気勢に、気概に。
どの様な過酷な戦場においても必ず一人だけ生きて帰り、仲間たちから死神と揶揄され、忌避され、周囲との関係も断っていた、フルール国の騎士であった頃の、死霊に取り憑かれているかのような暗い眼をした当時の彼女も思い返した。
まるで「死神」と称される自身を、受け入れてしまっていたような眼を。
人として立ち直るきっかけとなったのは、ラディッシュ達との出逢いに他ならず、
(ありがとぉなんしぃ勇者殿ぉ♪)
「?」
見つめる眼差しから語られた謝意の呟きを聴き取れなかったラディッシュ。
それ程までの小声で「何を言われた」のか気に掛かり、しゃなりしゃなりと自席に戻る妖艶な背を見つめたが、女帝は変わらぬ笑みを浮かべるだけ。
同じ言葉を、二度は口にしなかった。
一国の、それも周辺諸国を牽引する大国の長としての彼女は、個人より組織を優先せねばならない立場にあり、娘の心を救えなかった母としての、嫉妬混じりの悔しい気持ちもあり。
会議は少々回り道をしたものの現状を踏まえた各国共通認識として、混乱のさ中にある地世への警戒は、
《二の次》
目下、最も懸念すべきは、
《天世への対応》
今は「天技の盾」を展開する事で、天世からの万が一に備えてはいるが、盾は開発段階の技術であり、緊急使用であったのも加え、
「担当者らぁのぉ目算通りでぇありぃんしたらぁ一か月を待たずぅ、数週間で途絶を迎えるでぇありぃんしょぅなぁ」
((((数週間……))))
長いようで短い、重い数字が伸し掛かる。
中世における天技の発動は言わずもがな、天世からの恩恵により成り立っている。
しかも前地世王ラミウムの言葉を信じるならば、天世の恩恵は中世人の日々の祈りのチカラが素となっている。
中世の民が祈りを捧げれば捧げるほど返る天世からの恩恵は多くなるのが理屈であり、天技の盾を維持できる期間も自動的に長く出来るのを意味したが、
「先のぉ地世王の映像を見いんしてぇなぉ従順に祈りを捧げようとする中世人が、世に如何ほど居りぃんしょうやぁ?」
「「「「…………」」」」
「天世様からのぉ恩恵が期待できぃずぅ天法の補充の先細りが現状にぃありぃんす」
「「「「…………」」」」
搾取されていると知らされた天世に「祈りなど捧げたくない」と思うが人情ではあるが、捧げなければ恩恵が断たれる。
断たれれば中世人の暮らしが、立ち行かなくなる。
正にジレンマを抱えていたが、日々の暮らし以上に危惧されるのが「天技の盾の維持」である。
恩恵の先細りも考慮して示した期限の数週間であり、恩恵の枯渇により消失した時、天世から下される可能性が高いと思われる天罰。
その一撃が「どれ程の威力を持つか」は、パラジット国に起きた悲劇で証明済み。
先の件は「一国の不敬」であるがゆえに被害も一国にとどまったが、今回は中世の世界全体が攻撃を加えた形になっていて、どの様な威力の罰が、どれ程の規模で下されるかは想像もつかず、まかり先の規模の攻撃に世界中が晒されれば、甚大な人的被害もさることながら最悪の場合、
《中世の文明が滅ぶ》
極論ではあるが天世にとって中世人が祈りを捧げさえすれば、文明があろうが無かろうが構わないのである。
文化は知恵であり、知恵が許されていたのは、知恵があれば宗教が立ち、宗教が起きればまとまった祈りが得易いから。
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