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第十一章
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勇者組の些細な表情変化から、遠回しの苦言の真意が伝わったのを読み取るアブダ。
流石は「元教師の観察眼」とでも称賛するべきか、満足げに改めて、
「では、アタタの下へ向かうとしようかのぉ♪」
先陣を切って、森を奥へと歩き始めた。
本人的には、先達(せんだつ)としての威厳を以て。
しかしその手には笑顔の幼きチィックウィードの手が握られ、歩く後ろ姿は幼女二人のお散歩。
威厳からかけ離れた「微笑ましい光景」であり、威厳を過剰に意識して歩けば歩くほど幼く見え、
「♪」
真なる幼女と前を歩く彼女は気付いていなかった。
後ろを歩くラディッシュ達が「二つの小さな背」を、祖父母の如き眼差しで目を細めていた現実に。
やがて一行の前に、
『ワッチの前に、ようも顔を見せんしたやすねぇアブダぁ♪』
姿を現したのは八部衆が一人、アタタ。
妖艶な笑みを浮かべる彼女は面長で容姿端麗、カドウィードに劣らぬ美しき姿形を持った女性ではあったが、
「「「「「「…………」」」」」」
その佇まいは、異様の一言。
牛のような生き物の背に横座り、切れ長の目にはアブダが先に口にした通り、何者をも寄せ付けぬ冷たい光が宿り、
《本当に話が通じる相手なの?》
ラディッシュ達が第一印象から感じた、率直な感想であった。
不安は拭えなかった。
とは言え、気後ればかりもして居られない。
交渉ごとは対峙した時点で、既に始まっているに等しいのだから。
ラディッシュは腹を括って歩み出て、言葉を飾らず、
「僕は中世の七草のラディッシュと言います! アタタさん、僕たちと共闘してくれませんか!」
『?!』
あまりのド直球。
アタタは面を食らった驚きの表情を見せ、仲間たちも駆け引きが皆無の物言いに驚く中、彼は彼女を真っ直ぐ見つめたまま、
「口下手な僕が色々言っても噓っぽく聴こえるだけなので」
「…………」
すると無言の彼女は美しくも冷たさを感じる笑みを浮かべる口元を静かに開き、
「ニラブダの子飼いの報せからぁ離反は聴いておりやしたがぁ……まぁ、それはさて置きぃ」
青臭さを感じる申し出を口にした、少年と青年の狭間にある勇者を改めて見据えると、
「小細工やおべっかの無い物言いにはぁワッチは好意を持ちやすが……」
元より冷たい瞳に更なる冷然を宿し、
「受けるワッチに、いったい何の得があるのでやす?」
「「「「「「…………」」」」」」
当然と言える反応が返った。
天世の破壊を目論む彼女に、地世に廃棄される筈であった命を救ってくれた八部衆頭目の当代コマクサと、その同胞を、相応の見返りも無しに「裏切れ」と言っているのだから。
普通に考えれば交渉以前に、勇者組が目の前に現れた時点で一網打尽がむしろ道理。
しかしその様な対応を取らなかった彼女に、アブダの言っていた可能性を見たラディッシュは怯まず、
「ありませんし「何が貴方の得になる」かも、僕には分かりません」
「…………」
しばし黙して勇者を見据えるアタタ。
やがて呆れたような小さな溜息を吐き、
「話にならぬでやす」
交渉は決裂かと思われた。
その刹那にラディッシュは、
「でも」
「?」
「アタタさんは「下剋上」と言う言葉をご存知ですか?」
「ゲコクジョでやす?」
「はい。僕が居た異世界の言葉で、下位の者がチカラを付けて「上位の者を倒す」と言う言葉です」
「…………」
微かな興味を示すアタタ。
小さな光明を彼は見逃さず、
「八部衆はチカラによる完全な縦社会と伺っていますが」
更に、
「今の貴方では汚染獣、合成獣、言うなれば「獣の類(たぐい)」しか相手にできず、それは他の人達も同じですが八部衆を敵に回せば、元勇者との戦闘もあり、」
「ワッチが今より強くなれるとぉ?」
美しき怪訝な表情に、
「…………」
ラディッシュは静かに頷き答えた。
同じ境遇である元勇者たちを、まるで「経験値稼ぎの駒」として見捨てたような、彼らしからぬ非情な物言いであったが、そこには止むを得ない裏事情も。
それはアブダから宣告された、
《(元老院から調整を受けた)勇者たちは元に戻せない》
消された人格を取り戻すのは「絶対に不可能」と告げられていたから。
僅かでも修復の可能性を問う彼に対し、
《完全不要として消し去った書類の文字の復元を試みる者など皆無》
分かり難い例えであったが彼女は問うていた、
《離反の可能性を最も恐れて自我を消したのに、戻せる仕組みをわざわざ作っていると思うか》
冷たく聴こえる物言いではあったが立場を元老院側に変えてみた時、それは反論の余地のない道理であった。
死ぬまで命令通りに戦うしかない、生き人形。
命を絶ってあげる事だけが、彼ら、彼女たちの魂を「人形扱いの呪縛」から解放する唯一の方法であるとも。
流石は「元教師の観察眼」とでも称賛するべきか、満足げに改めて、
「では、アタタの下へ向かうとしようかのぉ♪」
先陣を切って、森を奥へと歩き始めた。
本人的には、先達(せんだつ)としての威厳を以て。
しかしその手には笑顔の幼きチィックウィードの手が握られ、歩く後ろ姿は幼女二人のお散歩。
威厳からかけ離れた「微笑ましい光景」であり、威厳を過剰に意識して歩けば歩くほど幼く見え、
「♪」
真なる幼女と前を歩く彼女は気付いていなかった。
後ろを歩くラディッシュ達が「二つの小さな背」を、祖父母の如き眼差しで目を細めていた現実に。
やがて一行の前に、
『ワッチの前に、ようも顔を見せんしたやすねぇアブダぁ♪』
姿を現したのは八部衆が一人、アタタ。
妖艶な笑みを浮かべる彼女は面長で容姿端麗、カドウィードに劣らぬ美しき姿形を持った女性ではあったが、
「「「「「「…………」」」」」」
その佇まいは、異様の一言。
牛のような生き物の背に横座り、切れ長の目にはアブダが先に口にした通り、何者をも寄せ付けぬ冷たい光が宿り、
《本当に話が通じる相手なの?》
ラディッシュ達が第一印象から感じた、率直な感想であった。
不安は拭えなかった。
とは言え、気後ればかりもして居られない。
交渉ごとは対峙した時点で、既に始まっているに等しいのだから。
ラディッシュは腹を括って歩み出て、言葉を飾らず、
「僕は中世の七草のラディッシュと言います! アタタさん、僕たちと共闘してくれませんか!」
『?!』
あまりのド直球。
アタタは面を食らった驚きの表情を見せ、仲間たちも駆け引きが皆無の物言いに驚く中、彼は彼女を真っ直ぐ見つめたまま、
「口下手な僕が色々言っても噓っぽく聴こえるだけなので」
「…………」
すると無言の彼女は美しくも冷たさを感じる笑みを浮かべる口元を静かに開き、
「ニラブダの子飼いの報せからぁ離反は聴いておりやしたがぁ……まぁ、それはさて置きぃ」
青臭さを感じる申し出を口にした、少年と青年の狭間にある勇者を改めて見据えると、
「小細工やおべっかの無い物言いにはぁワッチは好意を持ちやすが……」
元より冷たい瞳に更なる冷然を宿し、
「受けるワッチに、いったい何の得があるのでやす?」
「「「「「「…………」」」」」」
当然と言える反応が返った。
天世の破壊を目論む彼女に、地世に廃棄される筈であった命を救ってくれた八部衆頭目の当代コマクサと、その同胞を、相応の見返りも無しに「裏切れ」と言っているのだから。
普通に考えれば交渉以前に、勇者組が目の前に現れた時点で一網打尽がむしろ道理。
しかしその様な対応を取らなかった彼女に、アブダの言っていた可能性を見たラディッシュは怯まず、
「ありませんし「何が貴方の得になる」かも、僕には分かりません」
「…………」
しばし黙して勇者を見据えるアタタ。
やがて呆れたような小さな溜息を吐き、
「話にならぬでやす」
交渉は決裂かと思われた。
その刹那にラディッシュは、
「でも」
「?」
「アタタさんは「下剋上」と言う言葉をご存知ですか?」
「ゲコクジョでやす?」
「はい。僕が居た異世界の言葉で、下位の者がチカラを付けて「上位の者を倒す」と言う言葉です」
「…………」
微かな興味を示すアタタ。
小さな光明を彼は見逃さず、
「八部衆はチカラによる完全な縦社会と伺っていますが」
更に、
「今の貴方では汚染獣、合成獣、言うなれば「獣の類(たぐい)」しか相手にできず、それは他の人達も同じですが八部衆を敵に回せば、元勇者との戦闘もあり、」
「ワッチが今より強くなれるとぉ?」
美しき怪訝な表情に、
「…………」
ラディッシュは静かに頷き答えた。
同じ境遇である元勇者たちを、まるで「経験値稼ぎの駒」として見捨てたような、彼らしからぬ非情な物言いであったが、そこには止むを得ない裏事情も。
それはアブダから宣告された、
《(元老院から調整を受けた)勇者たちは元に戻せない》
消された人格を取り戻すのは「絶対に不可能」と告げられていたから。
僅かでも修復の可能性を問う彼に対し、
《完全不要として消し去った書類の文字の復元を試みる者など皆無》
分かり難い例えであったが彼女は問うていた、
《離反の可能性を最も恐れて自我を消したのに、戻せる仕組みをわざわざ作っていると思うか》
冷たく聴こえる物言いではあったが立場を元老院側に変えてみた時、それは反論の余地のない道理であった。
死ぬまで命令通りに戦うしかない、生き人形。
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