奇跡と言う名のフォトグラファー

青木 森

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続章_25

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ヒカリはいきなりの名指しに、
「ボク、もとい私が東海林ヒカリですけど……先輩方は……」
疑問形でハヤテ、サクラ、ツバサと顔を見合わせ、
「「「「誰?」」」」
 四人揃ってキョトン顔。
「「な!?」」
 男子生徒の背後で驚きの声を上げる、ポニーテールの女子生徒と、無表情のツインテールの女子生徒。
 彼は地元の有名人であるのか、教室内も軽くザワついた。
するとヒカリを指名した男子生徒は「ハッハッハッ」と、愉快そうな高笑いを上げ、
「本校で私を知らない生徒がまだいたとは、私もまだまだのようだねぇ」
名前と顔が知れ渡っていなかった現実を笑い飛ばしたが、ヒカリは知らなかった事を気にする素振りも見せず、
「それは(どうでも)いいんですけど、ボクに何か用ですか?」
「ハッハッハ。ガール、君は面白いねぇ。私の憂いを一蹴かい?」
笑顔のままヒカリに一歩歩み寄った瞬間、ハヤテがヒカリを守る様に立ち塞がり、
「用件がある時は、自分から名乗るのがスジじゃないですか、先輩」
すると男子生徒の背後に控えていた女子生徒二人が、男子生徒を守る様に、ハヤテの前に立ち塞がった。
ハヤテと対峠する、凛然とした表情のポニーテール女子と、無表情のツインテール女子。
異様な緊張感に包まれ、教室内が静まる中、
「ハッハッハ」
 男子生徒が再び高笑い。振り返った女子生徒二人にアイコンタクトを送ると、二人は再び男子生徒の後ろに下がり、
「確かに君の言う通り。名乗らないのは失礼にあたるね、ボーイ」
 男子生徒は小さく笑い、
「君はさながら、クイーンを守る騎士の様だね「ナイトボーイ」」
((((何なの、この人……))))
 三年生の先輩なので、一応気を遣い心の中でツッコム、ヒカリ、ハヤテ、サクラ、ツバサ。
 そんな四人の心の内を知ってか知らずか、男子生徒は変わらぬ笑顔のまま、
「私は三年の「新津屋 岳(にいつや がく)」。後ろの二人は「南 加津佐(みなみ かづさ)」と「高岡 千穂(たかおか ちほ)」だ」
 事務的な会釈をヒカリ達にする、加津佐と千穂。
 そして新津屋は変わらぬ笑顔のまま、
「ナイトボーイに守られる姫ガール、名乗りが遅れた事を謝罪させてもらえまいか?」
 その言葉にヒカリは、
「ハーくん」
ハヤテが振り返ると「大丈夫だよ」と微笑んで見せ、平然とハヤテの前に出た。
自分の事の様に内心ドキドキのサクラ。
(何の用なんだろう……ヒカリちゃん大丈夫、なのかな……)
 不安気に自身の両手を胸元で握っていたが、当のヒカリは物怖じする事無く、
「それで先輩、ボクをご指名の理由はなんですか?」
 新津屋は、変わらぬ笑顔のまま、
「現生徒会が私怨を学び舎に持ち込み、君達の「写真部立ち上げ」を不当に阻害しているとの噂を聞いてね、上級生として何か協力が出来ないものかと考え参上したのだよ」
「「「!」」」
 驚くハヤテ、サクラ、ツバサ。
 上級生の、しかも三年生の協力があれば心強いかぎりであるが、
「大丈夫です!」
 ヒカリは間を置かず、笑顔のまま即答した。
 一瞬だけ驚いた顔を見せ、スグさまいつも通りの笑顔に戻る新津屋と、不愉快そうに驚く加津佐。千穂も無表情の中に、驚きを滲ませた。
しかしヒカリは他意を感じさせない笑顔で、
「申し出は嬉しいんですけど、ボク達はボク達で、やれる事をまだやり切っていない。だからこの四人で、先ずやれる所までやってみたいと思います。それでも駄目だったら、頼ってしまうかも知れませんけど」
「ハッハッハ。ナイトボーイと、後ろの人見知りガールズもそれで良いのかい?」
 ハヤテと、その背に隠れ、顔だけ出すサクラとツバサに笑顔を向けると、二人はハヤテを盾にして、コクコク素早く何度も頷いた。
 フッと、小さくひと笑いする新津屋。
「了解した! 君達の想いを尊重しようではないか! 私は個人の意思を尊重し、まして束縛や拒絶などしない! あくまで生徒諸氏の自由意思を尊重するモノである!」
 マントでも羽織っているかの様にバサッと身を翻すと、加津佐と千穂も同様に身を翻し、三人は教室を出て行こうとするが、チラリと振り返り、
「無理だと思った時には、いつでも私を訪ねるが良い!」
「「「ハッハッハーーー!」」」
 高らかに笑いながら去って行った。
 妙なノリで去って行く三人に、ヒカリも乗っかり笑顔で手を振り、
「バイバァーーーイ!」
ハヤテ、サクラ、ツバサの三人はげんなり顔で見送り、
(((疲れる……)))
気持ちを切り替える様に一呼吸置いたハヤテは、
「ヒカリ」
「ん? 何だい、ハーくん」
「上級生を味方に付けるチャンスをふいにして、良かったのか?」
 するとヒカリは笑顔で振り返り、
「愚問だねぇ。分かってるクセにぃ」
「そうか」
 以心伝心、納得して、笑顔で頷くハヤテ。
 実年齢と釣り合わない苦労を共に重ねて来た二人は、新津屋の笑顔の裏に隠された、得体の知れない不穏な空気を感じ取っていたのである。
 違和感はサクラも感じ、
「先輩の声の色……みんなの事を想っているのは本当なのに……でも「本当の色」の奥に、何か分からない色が隠れている気がする……」
(あんなに「本心の色」が見えない複雑な人は初めて……笑顔の分だけ……逆に怖い)
 背筋を冷たい汗が伝うと、ツバサが元気よく右手を上げ、
「ハイ! 私もヒカリちゃんの決断に賛成でぇす! なんか権力闘争のニオイがしますから!」
 重苦しい空気を跳ね除けるツバサの声に、笑顔になるサクラ達。
ヒカリはハヤテ、サクラ、ツバサの同意の意思を示す笑顔に、
「みんな、ありがとう。後はハーくんの秘策次第だねぇ」
 笑顔を返した。

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