イトしのあのコ

おぐ

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イトしのあのコ

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  アパートの一室から青年が出てきた。
 ──ああ、かわいい。今日も俺を魅了するかわいいあの子。周りの奴らはあの子のことを平凡とか言ってるけど、あの子のかわいさは俺の学年でかわいいとか言われてる女子の百、いや何百倍だと思う。ああ、ごめんそもそも比べたら君に失礼だったね。うん、君のかわいさは僕だけが知っていればいいと思うから今のままでいいかな。周りの奴らが君のかわいさに気付いちゃうとそいつらの目潰さないといけなくなっちゃうからね。
  学校に向かうあの子が角を曲がったのを見届けると、俺は家に近づく。あの子は一人暮らしをしているのに、家事がちっとも出来ないらしい。俺がしてあげないとあの子が生活出来なくなると大変だろう?  そんなことを考えながら鍵を差し込む。鍵が開き、俺は家の中に入る。汚い部屋が目に入り俺はほくそ笑んだ。たった2日来なかっただけでこの散らかりよう。やっぱり俺がいないとだめなんだね。ああ、かわいい。よし、あの子の快適な生活のために掃除をしよう。俺は持っていた鞄からエプロンを取り出し身に付けた。
  脱ぎ捨てられた服を洗濯機に入れてまわす。天気いいし布団干しておこうかな。ベランダに出て鼻歌を歌いながら布団を干す。夜寝る時に布団干したこと気付いてくれるかなぁ。太陽の光浴びてふかふかになった布団で寝るあの子のことを考えると顔がにやける。さー、どんどん進めよう。
  散らかった雑誌を一箇所にまとめて並べる。その途中、俺はありえないものを見てしまった。...なんであの子の部屋にこんなものが。今までこの部屋で一回も見たことないのに。女とこんなことしたいの?  俺より女の方がいいの?  ...いらつく。部屋の中を探してみたけど、この一冊しかないみたいだった。他にもあったらまとめて捨てようと思ってたけど、気の迷いだったのかな。俺はその雑誌をゴミ箱に投げ入れた。あの子にはこんなもの必要ないよ。少しイラッとした気持ちのまま掃除を続ける。床をある程度片付けて、掃除機もかけた。次は...と見回してみると綺麗な机と洗い物で溢れた台所が目に入る。だから俺は台所に取り掛かった。使った皿やカップラーメンの容器が流しに残されている。ゴミはゴミ箱に捨て、皿を洗っていく。あの子が自分でも片付けれるように食器洗浄機でも買おうかなって思ったけどあの子には俺が必要だからね。綺麗になった台所を見て俺は満足気に頷いた。次は風呂掃除かな。俺は風呂場に向かった。浴槽をゴシゴシ洗う。もちろんあの子が入る時を考えながら。想像だけで気分が高揚してくる。さっきの嫌なこともすぐに忘れそうだ。風呂場をピカピカにして俺は台所に戻る。あの子のご飯を作ったら俺も学校に行こう。持ってきてた袋から食材を出した。
  色々な料理を作ってタッパーに詰める。今の時期、冷蔵庫に入れておいた方がいいかなと思い水のみ入っている冷蔵庫にタッパーをしまった。......よし、学校行こ。エプロンを外し鞄に入れる。
「...あ、忘れてた」
冷蔵庫の扉に付箋を貼る。
「温めてから食べてね。また無くなる頃来るよ」
  俺は家を出て鍵を締めてから、ようやく学校に向かった。


  ──ガチャッ
  鍵の開く音がした。
  この家の主の青年が入ってくる。
  夕日の差し込む部屋。
  朝とは違い、異様に綺麗になっている部屋を見て彼は目を見開く。
  鞄を置いて制服を脱ぎながら冷蔵庫に向かう。
  冷蔵庫に貼ってあるシンプルな付箋。
  そこに書いてある短いメッセージ。
  彼は震えているその手で冷蔵庫を開く。
  綺麗に並べられたタッパー。
  彼は知っていた。そのタッパーの並びは早めに食べてほしいもの、それと合わせて食べてほしいものでまとまっていることを。
  彼はハッとして部屋を見回す。
  綺麗になったその部屋の中で彼は並べられた雑誌に目を止める。
  彼が友達に押し付けられた大人の本。
  それはどこにもなかった。
  肩が震える。
  思わず笑ってしまった。
  ──ああ、僕のあのコはどこまでイトオしイんだ。
  あのコは僕が綺麗にしているところには決して触らない。
  なぜだかは知らないが、そのお陰で僕のこれはあのコには気付かれない。
  僕は机の上にある男の部屋では浮いている、少し大きめのぬいぐるみのキーホルダーの背中を開く。
  そして、その中から小型のカメラを取り出した。


「...ああ、本当にかわいい」
  画面の中にはクルクルと動き回るいとしのあのコ。  
  あのコが作ってくれたご飯を食べながら微笑む。
  大人の本を投げ捨てるあのコ。
  大丈夫僕には君しかいないよ。
「かわいいかわいい僕のお嫁さん」
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