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第7話

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 昼休み。俺は図書室にて。

「このラノベはな―――」
「へぇ」

 武蔵のライトノベル講義を受けていた。なんだかんだで、昼休みに図書室通いを始めて一年間が経つ。これまでかなりの数のライトノベルやマンガ、アニメを布教させられてきた。

 あまり認めたくないが、二次元カルチャーの知識が少しづつついてきているような気がしている。キャラが濃い人が人に与える影響力というのは、すごいのかもしれない。

「どうだ。読む気になったか」

「俺にキャラの可愛さで薦められてもな。読む気にならんかった」

「そうか。まだ訓練が足りぬようだな」

「訓練しなくていい」

 きっぱりと拒絶して、俺は読んでいた小説に十割意識を向けた。前に座っていた武蔵も本を読み始める。

 図書室には静けさが宿る。図書室には俺と武蔵の二人のみ。その奥の部屋には司書がいるが、事務の仕事をしていて、基本的に俺らがいるカウンターには来ない。

 静かな環境でする読書は最高だ。この時だけ学校にいるような感覚ではなくなる。空想の世界に入れているような。

「へぇ、ここが図書室なんだ。あれ?」

 この空間にこの空間にはめったにいないであろう人が入ってきた。ドアが開く音がなにか違った空気をまとっているように思える。

 その彼女はカウンターにやってきた。なんだか同志を見つけたように、嬉しそうにしている。

「本好きなの?」

「まぁ、それなりってところ」

「私も本好きなんだ。私の周りで本が好きって子があんまりいないから、おんなじ趣味を持った子がいて、うれしいよ」

「修哉君の後ろに座っている彼って同じクラスの……」

「籠野武蔵だ。よろしくたのもう」

「かっこいい名前だね。よろしくね、籠野君」

 少し武蔵はショックを受けていた。名前で呼ばれなかったからかもしれない。なぜ新見が名前で、我は名字なんだって思っているのだろう。まぁ、こいつの今持っている本を見たら、そうなるのはしょうがない。

 籠野の手にしている本のタイトルは「お兄ちゃん、大好きです」で、エロい感じで女の子がはだけているものだった。

 そんな本を手にしていたら、誰でも警戒するわな。

「それで修哉君と籠野君は図書室で何してるの?」

「俺は休憩がてらと今日は委員会活動。籠野は知らん」

「我も休憩だ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、私もここで一休みしよう」

「修哉君ってどんなジャンルの本読んでるの?」

「今は軽いミステリー系だな。中学の時は星新一とか筒井康隆のSF小説をよく読んでた」

「私は村上春樹とか重松清とかかな。流星ワゴンが特に好き。あれほど泣いた小説、私見たことないよ」

「我はだな――」

 籠野が言ったタイトルに柊木は目を点としていた。
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