夏の15センチ

むらもんた

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 しばらく2人とも黙ったまま歩いた。  
 近所の公園の前を通った時、ついに沈黙が破られた。
「つっこ。ちょっとだけ寄っていかない?てか少し付き合って。」と菜美が言った。
「おう。いいよ。付き合いましょう。」
 
 2人はブランコの方に足を運んだ。そしてゆっくりとブランコに座った。

「とりあえず、ほい。冷めちゃったかもしれないけど。」そう言ってまだほんのり温かいぽっぽ焼きを菜美に差し出した。
「ありがとう。そう言えばぽっぽ焼き食べてなかったね。なんかこの味落ち着くなぁ。」ぽっぽ焼きを一口食べて菜美が続けた。
「てかつっこと祭り行ったのって10年くらい前に家族で行った時以来だよね。懐かしいなぁ~。
あの時は確か私がビー玉取りで好きな赤色が取れなくて泣いたんだよね。」
「そうそう!あの時、凄く泣いたからビックリしたんだぞ。俺が赤色のビー玉持ってて本当によかった。いやぁ焦ったね。」
 さっき祭りの時に思い出していた話だ。
「子供って変なとこで頑固になるからね。あの時はどうしても赤色が欲しかったの。つっこが赤色のビー玉くれて本当に嬉しかったんだよ。」菜美は昔の事を懐かしみながら微笑んだ。
 菜美に嬉しかったと言われ、俺は少し照れた。

 またほんの少し沈黙になった。菜美に買ったかんざしを渡すのはこのタイミングしかないと思った。
「あのさ。」
 俺が話そうとするほんの1秒か2秒先に菜美が話しかけてきた。

「実はさっきつっこがトイレ行ってる時、山ちゃんに告白された……」菜美は下を向いたまま話した。

 2人とも変だった理由はその告白が原因だった。
「そうなんだ……てか良かったじゃん!山ちゃんみたいなイケメンに告白されて。性格もいいし、断る理由なんて何もないよな。」いきなりの事で動揺していたが必死に隠した。

 山ちゃんが菜美を好きなのはずっと知っていたし、応援もしていた。大事な2人が付き合ったらいいなとも本当に思ったし、幼馴染としても山ちゃんなら菜美の事を大事にしてくれると思って付き合ってもいいと思っていた。

 だけど実際山ちゃんが、告白したと聞いたらなんとも言えない感覚に襲われた。
 菜美を取られてしまうかもしれない?そもそも俺のものじゃないがずっと幼馴染として育ってきた菜美が急に遠くに行ってしまう感じにも感じられた。
 そう思うと動揺せざるを得なかった。

「考えさせて欲しいって言った……」
菜美はまだ下を向いたままだったが、それを聞いて俺は少しホッとしてしまった。
 その後、ホッとしてしまったことに対して山ちゃんに罪悪感がでてきた。そう思ったら冷静になり、山ちゃんの応援をしてあげようと思えた。

「なんで?山ちゃんよりいい人なんていないよ!」
「でも……つっこは私が山ちゃんと付き合ってもいいの?
私は……どうしたらいいと思う?」言葉を詰まらせながら菜美が言った。

「俺にそんなん決める権利ないよ。うちらはただの幼馴染だし……。ただ山ちゃんは本気で菜美の事好きだし、大切にしてくれると思うよ。何よりも2人は美男美女でお似合いだしさ!俺は大好きな2人が付き合って幸せになるのは凄く嬉しいよ。まぁでも最後は自分で考えて決めな。」

 精一杯精一杯、強がって山ちゃんの後押しをした。というか菜美はなぜ俺にそんな大事な事を聞いてきたのか。俺に決められるはずもないのに。

「……そうじゃないよ。」俺には聞こえないくらい小さな声でポツリと言った。
「分かった。自分で考えて決めるね。」
顔を上げてそう言った菜美の目からは、少しだが涙が流れているように見えた。
暗い公園の少ない街灯でははっきりとは見えなかった。

「話聞いてくれてありがとう。遅くなっちゃったね。帰ろうか。」菜美がブランコから立ち上がり言った。
「おう。」そう答え俺もブランコから立ち上がった。

 家までの道を、2人とも黙ったまま帰った。
 そして赤いかんざしは結局渡せなかった。
 

 家に帰ると山ちゃんからメールが届いていた。
【おつー。今日は楽しかったなぁ。計画通り2人きりにしてくれてサンキューな。実はあの時、菜美に告っちゃった。結果は……考えさせて欲しいって。
くそー緊張して眠れねぇー。】
 風呂に入り、やる事を全て済ませてベッドの上で返信した。
【おつー。楽しかった!てか告ったってマジ?考えさせて欲しいって事は望みあるから祈ろう!山ちゃんよりいいやつなんいないから振られたら菜美が男に興味ないって事だな!笑
まぁ山ちゃんなら大丈夫だよ。】
 告白の事は知らないふりをして、少し安心してもらえるように返信した。
 菜美から相談されたなんて言えるわけがない。
【まじこえーよ!まぁ待つしかないから寝るさ。一応報告しとこうと思ってさ。
約束の品は明日持っていくぜ。お楽しみに。じゃあおやすみ。】
 約束のAVを持って来てくれると書いてあったが、俺も2人の事が気になってそれどころではなかった。



ーー次の日ーー

 いつも通りの朝だ。部屋には微かに服についた祭りの匂いがするくらいで何も変わらない。
 支度をして学校に向かった。

 途中の駅で山ちゃんと合流した。
「おっす。告ったの早かったかなぁ。菜美に会うのこえーよ。いつ答え聞けるんだろ。」あまり寝れていないのか山ちゃんの顔色は少し青く、目の下にクマもあった。
「おっす。大丈夫!なるようになるって。最悪振られても俺がいる!その時は海にビキニ女子を見に行こう!」なんとか元気になってもらいたいが、なかなかうまい言葉が見つからなかった。

 そして教室に着き、席に座って山ちゃんと話していると菜美が近づいて来た。  
 まだホームルームまで15分くらいある。
「2人ともおはよ。昨日は楽しかったね。
……山ちゃんちょっときてくれる?」
菜美が山ちゃんを外に誘った。もしかしたら返事をするのかもしれない。
 菜美の後についていく山ちゃんを見て俺自身、緊張で震えが止まらない。ジワっと手汗もかいて、待っている数分がとても長く感じた。

 5分くらいして2人が戻ってきて、菜美は自分の教室に戻った。
 そして山ちゃんが俺の所に来た。
「OKだって!付き合ってくれるって!!マジで嬉しい!つっこありがとう!」すごく嬉しそうで、この世で1番幸せ者です感が滲み出ていた。
「良かったじゃん。だから大丈夫って言ったろ!俺の幼馴染を宜しく頼む!」
冗談まじりで祝福した。

 本当に本当に嬉しそうな山ちゃんを見たら自然と震えや迷いは消えていた。
 山ちゃんなら菜美を幸せに出来るし、山ちゃんも幸せになれる。大好きな2人が幸せになれるのを近くで見れるなんて俺も幸せだなって。そう思った。

 そして2人が付き合ってからも3人で弁当は食べた。3人の方が色々と楽しいからと言ってくれたが、もしかしたら俺に気を使ったのかもしれない。

 ただ菜美の俺に対する態度はどこか素っ気ないような気がした。
 あの公園で別れた後から……
 気のせいかもしれないほど僅かだが。
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