夏の15センチ

むらもんた

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最終話

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    ーーーー7月ーーーー

 いつものように学校に着くと2人は席に座り、ホームルームまでたわいもない会話を続けた。
 しばらくすると「つっこ!これおばさんから。また弁当忘れてたよ。山ちゃんもおはよう。」と菜美が弁当を渡してくれた。
「あっ、まじありがと!助かったぁ。遅刻しそうで焦ってきたからな。」笑いながら答えた。
「おはよう菜美。」と山ちゃんも答えた。

「じゃあまた昼休み屋上で。」そう言って菜美は隣の教室に戻った。
「いやぁ菜美は相変わらず可愛いなぁ」山ちゃんがニヤニヤしながら言った。
「そうかぁ?小さい頃から見てるからよくわかんないなぁ。てかのろけかよ!ラブラブじゃねぇか!」山ちゃんののろけを聞かされた。


ーー昼休みーー

 担任にクラス委員の仕事を急に頼まれた山ちゃんは30分ほど遅れてくる事になった。
 仕方なく1人で屋上に向かうと菜美が先に座っていた。
「山ちゃん急にクラス委員の仕事頼まれたから少し遅れてくるわ。」そう言って菜美から1人分離れた隣に座った。
「そっか。じゃあ先食べてようか。」
 菜美がそう言って俺達は弁当を食べ始めた。
 やはりあまり会話は弾まなかった。すっきりしないので勇気を振り絞って理由を聞いてみる事にした。
「菜美。なんかずっと俺に対して怒ってる?」卵焼きを頬張りながら聞いた。
「別に。」さらっと答えた。
「いやいや、そういう感じだよ。絶対怒ってるじゃん。俺なんかしたか?」
弁当を食べる手を止めた。
「はぁ。だからなんでもないって!」
少し強い口調で菜美が言った。
 
 菜美の大きな声に反応したのか近くにいたセミが
「ミンミンミーン」と菜美の方に勢いよく飛んだ。
「きゃっ」と菜美が俺の方に逃げてきた。
 俺は手でセミを払いのけた。
 そして菜美が顔を上げた。


 菜美の顔が俺の顔と15センチくらいの距離になった。
 
 黒くて艶のある綺麗な髪。
 長いまつげ。
 よく見ると茶色い瞳。
 口の横の小さなホクロ。
 首から流れる汗。
 汗と柔軟剤の混じった匂い。

 どれもすごく魅力的で菜美の事を異性として強烈に意識した。幼馴染としてではなく。
 そして気付いた。
「好きだ……」気付いた時には声に出ていた。はっと思ったがお互い見つめ合ったままだった。

 そして少しずつ顔の距離が縮まった。
 あと5センチのところまできた。



 その時。

『ダッダッダッダ。キィー』
 屋上への階段を登ってくる音がして扉が開いた。
「お待たせー!遅くなったぁ。あぁ疲れた。てか腹へったぁ!」クラス委員の仕事を終えた山ちゃんがきた。

 扉が開く直前、菜美と距離をとっていた。そしてお互い何事もなかったように振る舞った。実際何かをした訳では無かった。俺が好きだと言った以外は……
「お疲れ。思ったより早かったね。早く食べなぁ。」菜美が言った。
「お疲れさん。嫌な仕事頼まれたな!
にしても今日はクソあっついな!」
と俺も続けた。
「ほんと暑いわぁ。」と言いながら山ちゃんは弁当を食べ始めた。
 
 その後は本当にいつもと変わらないような昼休みが続いた。



 7限の授業が終えて、帰ろうとする俺のカバンに山ちゃんが何かをサッと入れた。
「新作!メッチャエロいぞ。」
「おっ?サンキュー。」それを受け取った俺は帰宅した。

 帰宅中ずっと昼休みの事を考えていた。
『完全に好きだって言っちゃったよなぁ。さてどうっすかなぁ。』
 冷静になると急に恥ずかしくなったし、菜美への気持ちに気付いて山ちゃんに罪悪感が生まれた。




 夕飯を食べ、風呂に入って一通りやる事を終えた。すると携帯が鳴った。
【お疲れ。今暇?】送り主は菜美だった。昼休みの事もあったから何を言われるか緊張していた。
【暇だけど。】と返信した。
【なら窓開けて。】とすぐ返信がきた。

 窓を開けると菜美の部屋の窓も開いた。
「ちょっと話しがあります。」少しかしこまった菜美が言った。
「昼休みの事?」
「うん。」俺の質問に頷いて菜美が続けた。
「昼休みの後ずっと考えてた。つっことあんな近くで顔を合わせて好きだって言われて凄く嬉しかった。
山ちゃんと付き合ってるのに不謹慎だよね……
でもずっとずっと考えて、答えが出たの。私やっぱり山ちゃんと真剣に向き合って付き合っていきたい。
あたしね最初はつっこの事好きだったんだよ。気付いてなかったでしょ?祭りの後、本当はつっこに止めて欲しかった。つっこも私の事特別な存在だと思ってくれていると思ってたの。でもその特別は幼馴染としての特別だって、あの時気付いちゃったの。
なんかその時凄く悲しくて、それを埋める為に山ちゃんと付き合ったの。
嫌な女でしょ?自分でも思ってた……
ただね、付き合っていくなかでそんな私の事を山ちゃんは本当に大事にしてくれたし愛してくれた。
凄く大きなものに守られてる感じでとっても安心したし、幸せだった。
気付いたら私も山ちゃんの事本当に好きになってた。
やっぱり山ちゃんを裏切れないし、これからも裏切りたくない。
都合いいかもだけど今日の事は無かった事にしてください。
あとこれからは昼休みとか山ちゃんと2人で食べたい。つっこといると私自身また何が起きるか分からないから……
勝手な事ばかり言って本当にゴメン。ゴメン……」

 菜美は泣きながら思いの丈を全て包み隠さず言ってくれた。それだけで十分だった。
「わかったよ。俺こそゴメンね。絶対山ちゃんと幸せになれよ!昼休み2人で食べたいってのは俺から上手く山ちゃんに、言っておくから任せろ。」
 また2人の幸せを応援すればいいだけだ。今までと何も変わらない。そう思った。
「ありがとう……じゃあおやすみ。」
菜美は窓を閉め、自分の部屋に帰って言った。



 俺も窓を閉め、机に置いてある渡せないままだった赤いかんざしを手に取った。もう渡すこともないだろうとゴミ箱に捨てようと思ったが、机の引き出しにしまった。
  

 夏の昼休み。15センチの距離で恋に気付き、その日の夜に失恋した。あまりの早さに少し笑いながら、雑誌に書いてあった事を思い出した。
「どうせ振られるならキスくらいしとけばよかったなぁ。くっそ!もったいねー。けどしてたら山ちゃんに殺されてたな……」と独り言を言いながら、カバンに入っていた物を取り出した。
 今日の帰り、山ちゃんから借りたものだった。
〔学校の屋上で〇〇する君と僕。〕
というタイトルのAVだった。

「どういうチョイスしてんだよ。笑えねぇよ山ちゃん。」そう呟いて、部屋にあるゲーム機に入れて鑑賞を始めた。




         ーーENDーー

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