安政ノ音 ANSEI NOTE

夢酔藤山

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第2話 吉原大震災5

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 吉原の光と影があるとしたら、これも暗い一部分であろう。

 待乳山聖天の小山の木の下でうたた寝していた金太郎は、弾左衛門の手下に揺り起こされた。弾左衛門とは、山谷堀に屋敷を構える長吏頭で、その得体の知れなさから〈闇公方〉と人は囁き畏れた。
「旦那、寝てると掏られるぞ」
 そう云われても、みんな三浦屋に置いてきて、ぺしゃんこだ。服だけあるのがマシな状態である。吉原から飛び出した多くは、男も女も、服を忘れた者だらけ。一〇月の寒空に、これは厳しい。
「おおい、粥が炊けたぞ」
 聖天様の境内で、弾左衛門の手下が大釜を温めていた。暖が取れると、人も群がっていた。椀が貸し出されたが、人数が行き当たらず、人の食うのを待ってそれを回した。箸などなく、境内の枝をへし折って用いた。とはいえ、これは粥か汁か、金太郎には見分けがつかなかった。
(贅沢は云えないなあ)
 酒で暖をとりたい。そんな心境だった。
 聖天様のある待乳山からは墨東から神田方面へと江戸の府内が見渡せる。金太郎が店の心配を覚えたのは、まさしくこのときが初めてだった。こんな大事なときに、自分は何をしているのだろう。遊び人として、これは喝采か、誹謗か。そんなことは自分でよく理解できていた。
(なにやってんだ)
 金太郎は落ち込んだ。その姿を見かねて
「芋でも食うか」
 川向こうの百姓だろうか。差出された焼き芋は、すっかり冷え切っていた。何べんも頭を下げて、金太郎は芋を頬張った。どんなときでも、人は食うことを忘れないものだ。食うだけ食うと、眠くなった。羽織に丸くなって、金太郎は宝篋印塔の土台あたりにゴロリと横になった。誰が置き忘れたか、半分に千切れた筵があり、それを敷いたら不思議と温もりを感じた。
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