小町のひとりごと

夢酔藤山

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……あかね雲の行方(4)

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 かつて小野にいたときは、たかが田舎程度にしか感じられませんでしたが、今はこの山科の気候風土が、妙に落ち着くのです。
 そういえば昔、在原業平さまは小野に宮様を訪ねられたときによく
「風流を求めて」
と口にされてきました。
 風の囁き、雲の足音、川面の身悶え。
 わたしも今になってようやくそれが理解できたようです。
 それら森羅万象に重ねて恋を歌うのが、在原業平さまなのです。ああ、本当に大人の殿方って素晴らしい。

  秋ののに ささやけしあさの袖よりも
   あはで来し夜ぞ ひぢ勝りける

 在原業平さまの歌です。
 わたしもいつの日にか、そんな潤いのある秋の歌が詠めるものかしら。
 ところでこのとき在原業平さまが参られたのは、何もわたしの顔を眺めに来ただけではなかったようでした。実は、宮様の近況を耳打ちしたかったらしいのです。
「惟喬親王さまは、小野の御所で慎ましやかにお過ごしあそばしておられる。かなり厳しい生活であるが、皇子にも恵まれて、たいそう幸せそうであった」
 皇子?
 そうか、八百は宮様と結ばれて、御子を為したのか。
 不思議と嫉妬はありませんでした。
 なんだろう、この複雑な感情は。愛着にも似た狂おしいこの感情は……その答えは、わたしには判りませんでした。
 宮様と八百の間を引き裂いてしまいたい程の嫉妬は、今更ございません。
 鬼とも夜叉とも化して、宮様を奪い去りたいという執念も、どうやら今のわたしにはございませんでした。
 わたしは本当に、宮様のことを忘れられたのでしょうか。
 その答えすらも、判りませんでした。
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