24 / 41
秋
……あかね雲の行方(7)
しおりを挟む
元慶四年(八八〇)五月二十八日、在原業平さまが御逝去あそばしました。
わたしにとっても、宮様にとっても、この麗しき貴公子の存在は、どれほど心を潤したことでしょうや。
だから、万難を期してでも
「この御方だけは」
御見送り致さねばなりません。
わたしは山科へ隠遁して以来、初めて都へと赴きました。
もっとも在原業平さまの墓所は洛西小塩山麓に設けられた十輪寺にあります。なんでも在原業平さまは、晩年、ここに留まり、風光明媚を愛されたそうです。その古びた庵を改修して、いまは一寺にしたと伝え聞いております。
ここは平安京を隔てて、わたしの故郷でもある小野郷を盆地で挟む、まさに対面の地でもございます。
たぶん、在原業平さまは、小野へ隠棲なされた宮様のことを、都を挟んで御見守り下さったのではありますまいか。なんと、お心の広いことでしょう。
十輪寺はすぐに見つかりました。
都の蒸すような暑さを忘れるような、涼風が頬に優しい。宛てどなく彷徨い歩くうちに、真新しい五輪塔に辿り着きました。間違いない、そう直感しました。
墓所に佇むと、瑞々しい花が献じられておりました。
随分と清潔な御様子から、恐らく誰かが毎日お手入れしているのでしょう。あれほど御心根の優しいお方ですもの。在原業平さまのことを慕っておいでの方は、老若男女、きっと大勢おられるに違いない。
そして、わたしも、あの御方を兄のように想っていなければ、きっと夢中になっていたことでしょう。
そんな大人の色香を漂わせた在原業平さま。こののち、この御方を越える色好みには、断じて巡り会えますまい。
そっと五輪塔を撫でようと手を伸ばした、そのときです。
「もしや姉さま?」
ふと声がしました。
わたしにとっても、宮様にとっても、この麗しき貴公子の存在は、どれほど心を潤したことでしょうや。
だから、万難を期してでも
「この御方だけは」
御見送り致さねばなりません。
わたしは山科へ隠遁して以来、初めて都へと赴きました。
もっとも在原業平さまの墓所は洛西小塩山麓に設けられた十輪寺にあります。なんでも在原業平さまは、晩年、ここに留まり、風光明媚を愛されたそうです。その古びた庵を改修して、いまは一寺にしたと伝え聞いております。
ここは平安京を隔てて、わたしの故郷でもある小野郷を盆地で挟む、まさに対面の地でもございます。
たぶん、在原業平さまは、小野へ隠棲なされた宮様のことを、都を挟んで御見守り下さったのではありますまいか。なんと、お心の広いことでしょう。
十輪寺はすぐに見つかりました。
都の蒸すような暑さを忘れるような、涼風が頬に優しい。宛てどなく彷徨い歩くうちに、真新しい五輪塔に辿り着きました。間違いない、そう直感しました。
墓所に佇むと、瑞々しい花が献じられておりました。
随分と清潔な御様子から、恐らく誰かが毎日お手入れしているのでしょう。あれほど御心根の優しいお方ですもの。在原業平さまのことを慕っておいでの方は、老若男女、きっと大勢おられるに違いない。
そして、わたしも、あの御方を兄のように想っていなければ、きっと夢中になっていたことでしょう。
そんな大人の色香を漂わせた在原業平さま。こののち、この御方を越える色好みには、断じて巡り会えますまい。
そっと五輪塔を撫でようと手を伸ばした、そのときです。
「もしや姉さま?」
ふと声がしました。
11
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる