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秋
……あかね雲の行方(8)
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恐る恐る振り返ると、二人の子を連れた見覚えのある顔が立っているではありませんか。
「八百か?」
「はい」
まさしく妹の八百です。
伴う子等は、察するに宮様との間に生まれた皇子でしょう。
わたしは思わず目を細めて、この子等に慈愛の眼差しを傾けてしまいました。ほんに、宮様が小野に初めて御越し下されたときの面影に、よう似ておられる。
「宮様は?」
「小原の御所内の仏間にて」
「……そうか」
宮様は毎日仏間にて故人を偲び供養をなさっておられる。この心配りと優しさは、明らかに在原業平さまの遺産でござりましょう。
「姉さまが参られたと知ったら、さぞや小野宮さまも喜びましょう。どうか、一緒に小野郷へお戻り頂けませんか」
しかし、わたしは断りました。
別に妹に対しての嫉妬や怨嗟は、ございません。それでも固辞したのは、ようやく塞ぎかけた古傷が、何やらこじ開けられそうな、そんな恐怖があったからなのです。
在原業平さまの墓所で、わたしたち姉妹は四方山話を交わしました。
そのなかで識ったこと。
宮様は小野に隠棲してから、地域の者たちと親しみ、土地柄や自然に根差した生活を営んでおられる。ただそこにいるだけで、世話付き糧付きという内裏風の暮らしを捨て、己の手で職を営む道を、宮様は選ばれたそうです。
轆轤(ろくろ)を廻して椀や木工細工を造る仕事。宮様はこれを木地師(きじし)と呼んでおられるそうです。
宮様の侍従たちもそれに倣い、職を全うすべく、地位も身分も捨てて、毎日働いておられるとか。確かにふたりの皇子の手も、絹のような白肌ではござりません。山の中を走り回る村童のように、節くれて土臭い。
でも、元気ならいい、それでいい。
宮様も、名も知らぬふたりの甥宮たちも。
「八百か?」
「はい」
まさしく妹の八百です。
伴う子等は、察するに宮様との間に生まれた皇子でしょう。
わたしは思わず目を細めて、この子等に慈愛の眼差しを傾けてしまいました。ほんに、宮様が小野に初めて御越し下されたときの面影に、よう似ておられる。
「宮様は?」
「小原の御所内の仏間にて」
「……そうか」
宮様は毎日仏間にて故人を偲び供養をなさっておられる。この心配りと優しさは、明らかに在原業平さまの遺産でござりましょう。
「姉さまが参られたと知ったら、さぞや小野宮さまも喜びましょう。どうか、一緒に小野郷へお戻り頂けませんか」
しかし、わたしは断りました。
別に妹に対しての嫉妬や怨嗟は、ございません。それでも固辞したのは、ようやく塞ぎかけた古傷が、何やらこじ開けられそうな、そんな恐怖があったからなのです。
在原業平さまの墓所で、わたしたち姉妹は四方山話を交わしました。
そのなかで識ったこと。
宮様は小野に隠棲してから、地域の者たちと親しみ、土地柄や自然に根差した生活を営んでおられる。ただそこにいるだけで、世話付き糧付きという内裏風の暮らしを捨て、己の手で職を営む道を、宮様は選ばれたそうです。
轆轤(ろくろ)を廻して椀や木工細工を造る仕事。宮様はこれを木地師(きじし)と呼んでおられるそうです。
宮様の侍従たちもそれに倣い、職を全うすべく、地位も身分も捨てて、毎日働いておられるとか。確かにふたりの皇子の手も、絹のような白肌ではござりません。山の中を走り回る村童のように、節くれて土臭い。
でも、元気ならいい、それでいい。
宮様も、名も知らぬふたりの甥宮たちも。
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