1 / 33
平安帖
しおりを挟む
延暦年間は人の世の闇である。
平城京より長岡京への遷都を断行した桓武天皇の御叡慮も、政治的意図や藤原一族の権謀術数により、何事においても汚れに染まっていた。その最たるものが、皇弟にして皇太子・早良親王事件である。彼が冤罪の果てに生命を落としたのも、藤原一族の陰謀に他ならない。
桓武天皇は疑心暗鬼のなかで最愛の弟を死なせる結果となる。
そして……この一件が、凄まじき怨霊・早良親王を生み出すのである。
長岡京を捨て新たな都を望んだのも、偏に桓武天皇の、怨霊を恐れる心ゆえ、のことであった。
新都の候補は数多あったが、山背国宇多村に白羽が立てられた。新天地への遷都は延暦一二年(794)一〇月二二日、宇多京と呼ばれるところを桓武天皇は
「平安京」
と名付けた。
民の平安ではなく、怨霊から逃れ自らの心の平安を求めるゆえの
「平安京なのだ」
と、桓武天皇は何度も胸の奥で繰り返した。
人は死せば、土に還る。
土に還り、魂は生前の行いを裁かれたうえで、その行先が定められる。
閻魔庁。
死者は己の行状が仔細まで記録された閻魔帳により、その罪の重さが計られる。罪重き者は、罪の報いを受けねばならない。
末法思想が日本に広まる遥か古から、人は地獄極楽を信じ、来世を願った。
その閻魔庁から、一人の役人が現世に転生し、昨今乱れし人の世の正体を見極めんとしていたことを、平安遷都より十年足らずの延暦二一年(802)当時の人々は知る由ない。
小野 篁……閻魔庁の役人にして閻魔大王の片腕。
彼の目から見た人の世は、果たして……。
平城京より長岡京への遷都を断行した桓武天皇の御叡慮も、政治的意図や藤原一族の権謀術数により、何事においても汚れに染まっていた。その最たるものが、皇弟にして皇太子・早良親王事件である。彼が冤罪の果てに生命を落としたのも、藤原一族の陰謀に他ならない。
桓武天皇は疑心暗鬼のなかで最愛の弟を死なせる結果となる。
そして……この一件が、凄まじき怨霊・早良親王を生み出すのである。
長岡京を捨て新たな都を望んだのも、偏に桓武天皇の、怨霊を恐れる心ゆえ、のことであった。
新都の候補は数多あったが、山背国宇多村に白羽が立てられた。新天地への遷都は延暦一二年(794)一〇月二二日、宇多京と呼ばれるところを桓武天皇は
「平安京」
と名付けた。
民の平安ではなく、怨霊から逃れ自らの心の平安を求めるゆえの
「平安京なのだ」
と、桓武天皇は何度も胸の奥で繰り返した。
人は死せば、土に還る。
土に還り、魂は生前の行いを裁かれたうえで、その行先が定められる。
閻魔庁。
死者は己の行状が仔細まで記録された閻魔帳により、その罪の重さが計られる。罪重き者は、罪の報いを受けねばならない。
末法思想が日本に広まる遥か古から、人は地獄極楽を信じ、来世を願った。
その閻魔庁から、一人の役人が現世に転生し、昨今乱れし人の世の正体を見極めんとしていたことを、平安遷都より十年足らずの延暦二一年(802)当時の人々は知る由ない。
小野 篁……閻魔庁の役人にして閻魔大王の片腕。
彼の目から見た人の世は、果たして……。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる