選ばれなかった者の記録 ——復讐令嬢は王を超える

SALT

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第38話 反応なき中枢、浮かび上がる虚構

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制度は、壊れていない。
記録も、機能している。
命令も通達され、各部署は“いつも通り”に動いている――

……だが、“何かが起きている”ことに、誰も気づかない。

それが、この国にとって最も深い病だった。

 

***

王都・政務局本館。
行政、法務、軍務。それぞれの中枢から派遣された高官たちが集う定例会議。

会議が始まって十五分。
そこには、異様な静寂が漂っていた。

 

「……先月分の集計が、抜けていますね」
「……いや、たしかに提出されていたはずですが……」
「……あれ? 署名が……どなたの?」
「………」

 

沈黙。

誰も確認を求めない。
誰も、異を唱えない。

“気づいているはず”のことに、誰一人として反応を示さなかった。

それは怠慢ではない。
ただ、“それについて語れる言葉”が、もう誰の中にも残っていなかった。

 

***

「反応しないというのは、最も静かで、最も致命的な崩壊」

 

グレイド村。
レイナは報告書を読みながら、言葉を落とした。

 

「情報が欠けているのに、それを“欠落”と認識できなくなる。
中枢は今――自らの異常を、異常とすら思えない状態にある」

 

セレノが問いかける。

 

「……これは、制度全体の“盲点”を突いたものですか?」

 

「違うわ。これは、制度が自ら“選んだ無視”よ。
名もなき者たちの声を、ずっと無視してきた。
だから今度は――“自分たちの損失”に反応できなくなっただけ」

 

セレノは静かに頷く。

 

「まさに、“因果応報”というより――“自己模倣”ですね」

 

レイナの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。

 

「そう。
もう、何もしなくても壊れるわ。
だって、“誰もその破損に気づけない”のだから」

 

***

王都・広報局。

その週、本来なら発布されるはずだった行政通達は――一件も出なかった。

理由はただひとつ。
「必要な文言が思い出せなかった」から。

 

本当に、ただそれだけのこと。

けれどその“ただそれだけ”で、各地方の施策はすべて、“未決定”のまま止まっていた。

 

誰もが、何かが止まっていることにうすうす気づいていた。
だが、“止まっている”と口に出す者はいなかった。

なぜなら――その現実が、“記録に残っていない”からだ。

 

記録がなければ、“起きていない”。
それが、この国家の根幹だった。

 

***

「これは、私の手による崩壊じゃない」

 

レイナは、焚き火を見つめたまま呟いた。

 

「これは、“反応しない者たち”が選んだ、静かすぎる自壊よ」

 

セレノの視線の先で、レイナはまたひとつ、“逆書”の墨を走らせていた。

 

次に名を奪われるのは――

制度そのものの中枢。
**“記録を管理する者”ではなく、“記録が最初に届く場所”**だった。
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