機人転生 転生したらターミネーターになってしまったんですけど、どなたか人間に戻る方法、知りませんか?

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第一章 これは魔法ですか? いいえ、高度に発達した科学です。

no.007 物理法則は置いてきた

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 都合九度になるハークの攻撃は、確実にコウタのボディへダメージを蓄積していた。そして十度目。今まで辛うじて頭部への攻撃は免れていたが、遂に顔面を打ち抜かれてしまった。


『いったァー! ハークスマッシュ炸裂! これはイイとこに入った!』


 端まで殴り飛ばされ、今度はノーバウンドで壁面に叩きつけられる。相変わらず膝は震えるが、しかしすぐに立ち上がり、折れそうになる身体をぐっと支える。


「まだ生きてる……! けど、もう喰らってられないぞ……」
『損傷軽微ですが、次に同じ威力の衝撃を喰らえば内部機能が損なわれる可能性があります』


 胸部と腹部に四発ずつ、両肩に一発ずつ、そしてさっきの顔面に一発。一発でも喰らえばドラゴンですら死に至るのだが、限りなく原型を保ち、未だに意識を保っているコウタのボディはおかしいと言う他ない。


『いやー、コータくん硬いとは思ってたけど、ここまでとはねぇ。ハーク隊長の攻撃をここまで耐えたのは雷の勇者くらいだよ。さて、コータくんの無謀にも見える突貫は意味があったのかな?』


 メニカの言う通り、コウタはなにも自棄になって無闇矢鱈と十度も突っ込んでいた訳では無い。五度目辺りから気付いていたことを、身をもって検証していた。


『今ので確定とみていいですね、コウタさん』
「ハークさんは僕に対して、右腕しか使ってない。それに踏み込む一歩はあれど、足元半径一歩分の円から外には動いてない」
『どんな場所からのどんな攻撃にもグーパンチだけで対応してきましたからね。隙だらけなのに追撃もしてきませんし』


 ふたりの推察通り、この試験においてハークはその場から一歩たりとも動いていない。さらに攻撃は右腕の拳で、迎撃のみに限ると自らに縛りを課していた。


「今の僕が出せる全力を出しても、ハークさんには決して敵わない。天と地ほどの差がある」
『そうですねぇ。無策だともちろんですし、半端な策を立てても通用しませんでしたし』


 直前で急ブレーキをかけてみたり、バックで走ってみたり、ねこだまししてみたりと色々な小細工を弄したのだが、ハークにはどれも効果がなかった。策のレベルが低いのはもちろんのこと、そもそもコウタが弱い。


「現状、手も足も出ない。天地がひっくり返りでもしない限り一矢報いることすら無理でしょう」
『割と詰んでますよね』


 うむむと頭を悩ませるアミスに対し、コウタは至って普通に、周知の事実を呟くかのように、それを口にした。


「なので、天地をひっくり返そうかと」


 天地がひっくり返らない限り勝てないのならば、ひっくり返してやればいいのだとコウタは主張する。意味不明なその発言にアミスは思わず素で返してしまう。


『……は?』
「まぁ聞いてください」


 理解できない様子のアミスを諌め、コウタは敢えてメニカとの通信を切ってから作戦の説明を始めた。


「――出来ますか?」
『いやまぁ、出来なくもないですが……』


 それは稚拙な策ではあるが、決して小細工ではない。最善とは言えないものの、ある意味では最高であった。そして数分後。
  

『おーっとさっきまで通信を切って無駄にうろちょろしてたコータくんがようやく止まり――今、クラウチングスタートの姿勢を取りました! 何やら策を思いついたようですが、私はそれを敢えて聞いていません! とても楽しみです! これで合否が決まると言っても過言ではないでしょう!』


 無論メニカは誰がなんと言おうとコウタを手中に入れる気満々なのだが、それはそれ。彼のためにも合否はきっちりつけるつもりでいた。


「あーやっぱり怖い! ラスボス相手にこんなの無駄ですしやめましょうアミスさん!」
『ダメです。コウタさん主導の策ですし、最後まで責任とってください』
「ですよね!」


 ハークと実際に闘ってみるまで、コウタは己がそこそこやれるのだと自負していた。事実、エイプにはスペックのゴリ押しで完勝している。大抵の相手はダメージすら与えられないだろう。故に自惚れていた。勝てないまでもそこそこはやれるはずだと思っていた。


「自惚れがあったんだ。その自信はもう消えた」


 だがしかし、先の攻防で悟ってしまう。己の未熟さを。目の前のラスボスは大抵のくくりに入らないということを。そのハークですら、届かない存在がいることを。世界は広く、現実は厳しいということを。だからこそ――。


「全力を出す」


 争いごとにワクワクするなど、コウタにとって初めての感覚であった。しかしそれは確かに彼の頬を緩ませ、口角を少し高く上げさせた。頬を強めにはたき、息を大きく吸い込み、大きく吐いて、それから。


「せーのっ!!」


 地面が爆ぜ、コウタは加速する。
 はじめは相手が生身だから遠慮していた。心のどこかで自分は凶器だという自覚があった。しかしその必要はなくなった。たとえ全力でぶつかっても、ハークはきっと応えてくれるから。だから、迷いなく駆け出した。


「潔さは認めよう。だが、単調すぎる」


 ハークからすればいままでと何ら変わらない、ただまっすぐ駆けているのみの単調な攻撃だ。しかし、それはコウタもわかっている。だからこそ単純ではあるがこの一撃に全身全霊、文字通りのを尽くす。


「アミスさん、全エネルギーを右脚に!」
『はい!』 


 内蔵エネルギーを全て右脚部へと集約させる。弾みをつけ、ひときわ大きく踏み込んだを正しい構えなど微塵も気にせず、右脚を振りかぶり、地面を全力で蹴った。


「――爆裂させる!!」


 莫大なエネルギーを蹴りの方向に乗せて、地面に注ぎ込む。エネルギーの奔流は大地を揺るがし、炸裂する。コウタは言葉通り、比喩でなく、言い回しでなく、ただ単に、文字通りに――のだ。


『フォース・エクスプロード!』


 割れた地面を更に砕き、まとめて蹴り起こす。瓦礫の山が陸の津波と化し、下層と上層の礫が混ぜこぜで襲いかかる。到底人間業ではないが、コウタは現在人間ではないので出来ぬ道理はない。


『コータくん!! 君を手中に入れた私の目に狂いはなかったよ!!』


 大興奮のメニカをよそに、半径20メートルにある数千もの大小様々な瓦礫は、瞬く間に凶弾と化し、そしてハークへと襲いかかる。


「……良い。その豪胆さ、発想、性能。メニカが気に入るわけだ」


 ハークは微塵も臆することなく、瓦礫の流星群を前にして顔を邪悪に歪めた。そして飛来する瓦礫を、ひとつ残らず打ち砕いていく。ほとんどのエネルギーを注ぎ込んだ質量弾は決定打を与える前に全て砕かれ、弾かれ、逸らされ、捌かれている。しかしこれはコウタの予想通りの展開だ。この瓦礫流星群は単なる囮、大仰な目くらまし。瓦礫と土煙に紛れて作れたのはほんの数秒の暇。


「次は両足に!」
『リチャージ!』


 コウタは大きく沈み込むと、持てる限りの力とエネルギーを両足に流し込む。そして、自らを砲弾と化した。


「――!!」


 コウタの速度は亜音速に達し、ハークの隙を狙い撃つ。


「ぬ……おおおお!!」


 轟音と共に目の前に現れた一つだけ異質な砲弾に、ハークは雄叫びをあげ迎え撃った。凄まじい轟音と衝撃波がアリーナ全体に響き渡る。天井の照明は砕け、爆音爆風が吹き荒ぶ。土埃が舞い上がり、二人を覆い尽くしてしまう。


『――コータくんの頭突きが炸裂!! さっきの地面大爆発はこれのためのカモフラージュか! スピードガンによると速度は時速950キロと出ている! これは流石のハーク隊長も回避できなかったか!? えぇい、煙が邪魔で見えない! 送風機最大出力!』


 空調により粉塵や土煙は押し退けられ、やがて二人の様子があらわになる。


「……やるなコータ。合格だ」


 ハークはニヤリと口を歪めてそう言うと、突き立てたを降ろした。


『さすが我等が隊長! コータくんの渾身の一撃を止めた――!!』


 ハークは回避が無理だと悟った瞬間、己に課した縛りを破っていた。全力全開での左ストレートを、コウタの脳天に叩きつけたのだ。


「ぐ、ぬ、ぬ……!」
『コウタさん、無理に立たないでください! 試験はもう終わりましたから!』


 力が上手く入らずに立ち上がれないコウタ。外的損傷は見受けられないものの、内部には決して少なくないダメージがあった。立てないくらいには満身創痍である。


「……やるな」


 流石のハークもほぼ音速で飛ぶ重さ200キロの砲弾の勢いを完全には殺せず、数メートルほど電車道が出来上がっていた。繰り出された義腕からはスパークが散り、装甲はひしゃげ、配線が飛び出している。義手はぶすぶすと奇怪な音と煙を出し、やがて小さく爆発するとだらんと動かなくなってしまう始末だ。


「メニカ、義手が壊れた」
『嘘でしょ!? 先週新しくしたばっかりなのに!』
「仕方ない。コータが思いの外やる奴だった」
『高いから大切に使ってって言ったのに!』


 ハークの義手義眼は言わずもがなワンオフの特別製だ。材料費だけでもかなり費用がかさむ。エイプの開発等の研究開発費はメニカが国からあらゆる手でぶんどっているが、軍事費となるとそうもいかない。試験的なだけあり回される予算は決して多くなく、ぽんぽん装備を使い捨てに出来るほど裕福ではないのだ。


『コウタさん、立てますか?』
「……無理」
『でしょうね。エネルギーが空っぽですし、完全に許容超過のダメージです。ですが、無茶したかいはありましたよ』
「それは……よかった……」


 全エネルギーを使い果たし、コウタは息も絶え絶えだ。アークは無限炉ではあるが、無限に使い続けられる便利グッズではない。需要に供給が追いつかない事も多々ある。


『さて、試験は合格みたいですが……メニカちゃんが激おこですね』
「……なぜ?」
『それは直接聞いてください』


 つかつかと、メニカが早足で駆ける音が近付いてくる。現状話すことしか出来ないコウタに、この理不尽を回避するすべはない。


「ひどいよコータくん! フルパワーでぶつかるなんて!」
「全力って……?」
「言ったよ! 言ったけど隊長の義手壊してなんて言ってない!」
「不可抗力……」
「そんな力は自然界に存在しない! それは人間のエゴ! コータくんのばかー!」
「えぇ……」


 涙目、加えてじたばたと服が汚れることも気にせず暴れ、まるで幼子のように怒るメニカに、コウタはまた乾いた声を出すしか出来なかった。


「コータ、あまりメニカの言うことを真に受けるな。こいつのワガママに付き合っては身が持たんぞ」
「……それはもう身に染みて」


 なにせそのワガママのせいでハークにボコボコにされたのだ。例えマシンの体でも、むしろマシンの体だからこそ体がいくつあっても足りない。コウタはこれからふりかけのように乱雑に降りかかりまくるであろう困難や災難やその他諸々を想像すると、とりあえずアミスに腹が立った。


『メニカちゃんどうどう、どうどう』
「アミスちゃんも言ってやってよ!」
『コウタさんのばーか!』
「うるさいバカアシスタント」
『ひどい!』


 なにはともあれ、コウタのジースリー入隊が決まってしまった。



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