猫舌ということ。

結愛

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動き

第78話

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目を開けるとそこは光の差し込む自分の部屋だった。
寝ぼけている。寝ぼけているが脳は冴えている気がした。
夢と現実が途切れることなく連続していて変な感覚だった。
ふと気がついた。枕元でスマホが鳴いている。
妃馬さんとのやり取りを思い出し、寝ぼけ眼をパッっと見開き、すぐにスマホを手に取った。
が、手に取った瞬間、スマホの画面はロック画面に変わり
そこに通知「不在着信」の文字が出ていた。うつ伏せでその画面を見て枕に顔を埋める。
眠いながらにやってしまったと思う。枕に顔を埋めたまま鼻から深呼吸をする。
シャンプーの匂い。息を吐き出すと鼻、口周りが暖かくなる。
そんなことをしていると手元からテテトテテトテテトテテテンとLIME特有の着信音が鳴る。
バッっと枕から顔を上げ、すぐに出ようと思ったが
なぜかテンションを、今起きた状態に戻してから電話に出るほうのボタンをタップする。
「あ!出た出た!おはようございます!」
明るく透き通った妃馬さんの声。寝起きに聞けるという事実で口元が綻ぶ。
「ん~…おはようございます…」
1回起きて妃馬さんの1回目の電話に出そびれて
そんなに寝起きではなかったが寝起きのような感じを装う。
「1回目出なかったので、2回目おかけしました」
知っている。「鬼電」という割には2回は少ないが
僕も起き辛いという割には1回目で起きていた。そんな事実に笑いそうになるのを堪えて
「あ~…はい。ありがとうございます…」
とまだ寝ぼけている演技をする。
「まだ寝てますね」
「いや…起きてます…ふー」
わざと寝息を演技で出してみる。
「ちょっと!おーきーてーくーだーさーいー!」
口元が綻ぶ。
「あっ、すいませんすいません。起きます起きます」
「そうですよ!体を起こして、顔洗えばシャキッっとするはずですから」
「はい。仰せのままに」
「寝起きの悪い人には私の執事は務まりませんよ?」
「はい!シャキッっと起きます!」
そんな馬鹿馬鹿しいやり取りをすると、電話越しだが妃馬さんが笑顔なのがわかった。
「じゃあ、3限同じ講義ということでお待ちしてます」
キュンとした。顔のニヤつきが隠せなかった。
「はい。しっかり行きます」
「じゃ、また後で」
「はい、後で」
テレロンッ。電話が切れた。心の中に住む住人が
「キモいぞー」とか「気持ち悪い」と書かれたプラカードを掲げているのがわかるくらい
顔がニヤついていた。一度口から息を吐きベッドから立ち上がる。
部屋を出て光が差し込む廊下を進み、階段を下り、洗面所で顔を洗う。
もうすでに目は覚めていたものの、冷水を顔に当てると、より目が覚めた感覚になる。
歯を磨きながら鏡を眺める。
朝左側についていたもの凄い寝癖が1回寝たお陰か少し和らいでいた。
和らいでいたものの寝癖がついていることには変わりないので
右手で歯ブラシを持ち歯を磨きながら
左手で水を出し、左手の掌を濡らし、寝癖をその濡れた手で撫で付ける。
意外としぶとく気づけば寝癖の周りが光るほど濡れていた。
歯磨きを終え、口を濯ぎ、その濡れた部分をドライヤーで乾かそうか、ほんの少し悩んだが
その濡れた部分を左手でガシャグシャして水分を飛ばすだけで洗面所を後にした。
階段を上り、陽の差し込む廊下を進み、部屋へ戻る。真っ先にスマホを触る。
ホームボタンを押す。妃馬さんからのLIMEの通知。
ベッドに座ることなく立ったまま、通知の状態でメッセージを確認しようとするが
メッセージが長いのか通知欄に入りきっていなかったので
妃馬さんの通知をタップし、LIMEの妃馬さんとのトーク画面に飛び、メッセージを確認する。

「おはようございます!無事起きてくれて良かったです!
ちなみにまだ講義中なので私も少なくとも「真面目」ではないですよ?w
たまには自分のことを褒めてあげないとやってけないですからね!
私の母はデパートの服屋で店員をしてます。
たしかに…全国寝起き悪い軍団で有名なだけある…。
怜夢さんは寝起きが悪い…覚えておこうφ(´・ω・`)メモメモ」

そのメッセージの後に猫が「おはよう!」と言っているスタンプが送られていた。
妃馬さんと姫冬ちゃんのお母さんがデパートの販売員という新情報に驚き
妃馬さんの使う可愛い顔文字に笑みが溢れる。妃馬さんに返信をしクローゼットを開く。
今日は比較的暖かい。窓の外の空を見ながらそう思う。
気温に適した服かつおしゃれな服を選ぶ。太めのカーゴパンツに
長袖の胸ポケットがついた背中にカートゥーンのような絵柄の猫が描かれた長袖のTシャツを
腕まくりする。アクセサリーケースを開ける。慣れた手つきでファーストピアスを外し
これまた慣れた手つきで十字架のチャームのピアスをつける。
星のチャームや棒のチャームより耳元で揺れる感覚が大きい。
カップ焼きそばくらいの大きさの鏡でピアスを確認する。
十字架のピアスが耳元で揺れている僕の顔が映し出される。
十字架のチャームのせいか、いつもよりほんの少しだけイカつい印象を受ける。
まぁ妃馬さんと同じ不良だしいっか。と少しニヤつく。
スマホのホームボタンを押し時刻を確認する。11時45分。
家を出るにはまだ少し余裕がある。妃馬さんからのLIMEの通知があったので
メッセージを読み、ニヤつき、返信をする。そんなことをしても3、4分しか経っていない。
もう一度鏡を見て目元を確認する。目くそ無し。鼻を確認する。鼻くそ無し。
鼻の下を伸ばす。鼻毛出てない。そんなことをして合計で5、6分経っただろうと思い
バッグに充電していたサティスフィーを入れ
スマホをカーゴパンツのポケットに入れ、部屋を出る。
陽の差し込む廊下を進み、階段を下り、そのまま玄関に行こうと思ったが一旦リビングへ寄る。
廊下に漏れ出るテレビの音が扉を開くと少し大きくなる。
母の姿は見えないが恐らくソファーで寝転がってテレビを見ていると思ったので
「いってくる」
と声をかける。すると案の定ソファーから
ホラー映画のように腕が出てきて、ソファーの背もたれの部分をガッっと掴む。
僕はリビングを出て玄関へ向かう。
背後からドッドッドッドッっとどんどん早足の足音が大きくなってくる。
「気をつけてね」
そう背後から母が声をかけてくる。
「ん」
そう返事をしながら靴を履く。すると
「あっ!」
となにか思い出したような母の声がする。振り返りはしないが背後を気にしていると
「今日午後から雨だって言ってたよ?」
めざめのテレビを見ていたが出かけるつもりはなかったためか
天気予報を聞いていたはずだが全く頭に入っていなかった。
「え、マジで?」
「マジで」
靴を履き終え立ち上がる。玄関周りを見渡す。
「なに?どうかした?」
母が聞く。
「いや、父さんの折り畳み傘、ここら辺になかったっけと思って」
「それならお父さん会社に持ってったよ」
まぁそれもそうか。
「他に折り畳み傘なかったっけ?」
「その隙間にない?」
母はシューズクローゼットの奥を指指す。
玄関の扉の左側の柱とシューズクローゼットの間にはほんの少しの隙間がある。
その隙間を覗く。そこには赤い派手な傘や黒いシックな傘など
恐らく買ったけど結局あまり使わなかった傘
または貰ったが使いどころがわからない傘などがしまわれていた。
そこに折り畳み傘も3本ほどあった。テキトーに1本手に取る。少し埃を被っていた。
息を吹きかけ、手で少し埃を払って、少し抵抗があったがバッグに入れ
ドアノブに手をかけ扉を押す。カッチャンと扉を開き、外に出て振り返り、家の中の母に
「いってきます」
と言う。
「いってらっしゃい!気をつけてね」
そう言う母が閉まる扉に隠れていった。バッグに入れていたイヤホンを取り出し
ポケットに入れていたスマホも取り出し、スマホにイヤホンを接続し、耳に差し
スマホで音楽アプリを起動し、「お気に入り」のプレイリストをシャッフル再生する。
懐かしの「CLeeaaN」さんの曲が流れる。
中学時代によく聞いていて、その頃を思い出し
少し寂しいような不思議な気持ちを感じ胸がキュッっとなる。
玄関の扉の近くにある傘置きからビニール傘を1本抜く。
まるで雨の日のコンビニ前の傘置きのようにビニール傘まみれの傘置きだった。
空を見上げる。まだ青い空に白い雲が漂ういい天気だった。

これから雨降るか?

能天気にそんなことを思いながら
ビニール傘をトカンットカンッと杖のようにアスファルトにあてながら駅へと歩く。
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