ちょんまげカフェ

カマゾーマ

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純喫茶「ちょんまげ」

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最近引っ越してきたばかりの我藤千代(20歳)は、駅からの帰り道にある喫茶店を見つけた。木製の看板には、太い筆文字で「純喫茶 ちょんまげ」と書かれている。名前のインパクトに思わず足を止める。

「ちょんまげ……?なんてユニークな名前なの」

引っ越し作業の疲れと興味本位が相まって、彼女は店のドアを押した。

店内に入ると、柔らかな光が差し込む窓際の席、深い色合いの木製テーブル、そしてアンティーク調の照明が目に飛び込んできた。オシャレでありながらもどこか親しみやすい雰囲気が漂う。

「いらっしゃいませ!」

カウンター越しから若い男性の声が聞こえる。エプロン姿の永師蒼(21歳)は、忙しそうに手を動かしながらも、千代に一瞬の笑みを向けた。

「お好きな席にどうぞ」と言われ、千代は窓際の席に腰を下ろす。

目の前に置かれたメニューを開くと、そこには「本日のおすすめ ナポリタン」と書かれていた。

「ナポリタン……ちょっと懐かしい感じでいいかも」

千代はさっそくナポリタンを注文することにした。

「すみません、本日のおすすめ、お願いします」

注文を受けたのは、店長らしき男性――蒼の父、永師翔斗だった。翔斗は「了解!」と元気よく答えたものの、カウンター内を見渡して困ったような顔をする。

「蒼、ちょっと手伝ってくれるか?」

蒼はすぐに動き出し、慣れた手つきで調理台に向かう。

「こんな風に頼むつもりじゃなかったのにな……」蒼は内心つぶやいたが、ナポリタンの調理を始めた。

数分後、千代の席に彩り豊かなナポリタンが運ばれてきた。

「お待たせしました。本日のおすすめです」

蒼が控えめに言うと、千代は「ありがとうございます」と微笑んだ。蒼はその笑顔に一瞬目を奪われたが、すぐに視線を外してカウンターに戻った。

千代はナポリタンを一口食べると、驚きに目を見開いた。

「……え、これ、すごく美味しい!」

トマトソースの濃厚な味わいと、絶妙な茹で加減のパスタ。昔ながらのナポリタンのようでいて、どこか上品さを感じさせるその味に、千代は完全に魅了されてしまった。

「すみません、このナポリタン、すごく美味しいです!誰が作ったんですか?」

千代は思わず声を上げ、カウンターにいる蒼に目を向けた。蒼は少し戸惑った様子で「僕です」と小さく答えた。

「えっ、あなたが?」

千代はさらに興味を抱き、身を乗り出すようにして質問を続けた。

「こんなに美味しいナポリタン、どうやって作るんですか?コツとかあるんですか?」

蒼は困ったような顔をしながらも、丁寧に答えた。

「えっと、特にコツというわけじゃないんですけど……父のレシピを少しアレンジしてて……」

「アレンジ!どんな風にですか?」

千代の質問攻めに、蒼は少し押され気味だ。それでも、なんとか説明を続ける。

「トマトソースに少し隠し味を加えているんです。具体的には……いや、秘密です」

「えーっ、気になる!」

千代は笑いながら言ったが、そのとき急に我に返った。自分が思わずはしゃぎすぎてしまったことに気付き、顔を赤らめた。

「ご、ごめんなさい……急に色々聞いちゃって……」

蒼は「いえ、大丈夫です」と言って、少しぎこちなく微笑んだ。

ナポリタンを食べ終えた千代は、満足そうに席を立ち、レジに向かった。翔斗に会計を済ませてもらい、「ご馳走様でした」と言ったそのときだった。

隣でコーヒーを飲んでいた常連客らしき男性が声を上げた。

「嬢ちゃん、ここではそうじゃないぜ」

「えっ?」

千代が戸惑うと、男性はニヤリと笑い、「ここでは『ちょんまげ!』って言うんだよ」と教えてくれた。

「ちょんまげ……?」

千代は思わず笑いをこらえながら、「そんなことあるんですか?」と聞いた。

翔斗は「そうなんですよ、うちの名物ルールなんです」と誇らしげに答えた。

「じゃあ……ちょんまげ!」

千代は少し照れくさそうに言ったが、その場の雰囲気が一気に和み、店内に笑い声が広がった。

店を出た千代は、爽やかな気持ちで歩き出した。

「いい店だったなあ……ナポリタンも美味しかったし……また行きたいな」

蒼の真剣な表情と、照れくさそうな笑顔が頭をよぎる。

「また会いたいかも……いや、そんなわけないか」

千代は少し恥ずかしくなり、足早に帰路に就いた。

一方、店内では、蒼がまだカウンターで片付けをしていた。

「……また来るかな」

蒼はポツリとつぶやき、千代の姿を思い浮かべた。

これが、純喫茶「ちょんまげ」で始まる二人の物語の第一歩だった。

(第1話 完)
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