京に忍んで

犬野花子

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第二章

すり抜けてゆく

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 忠明という男は、どこまでも効率性を望む人間であった。

 なぜならば彼の置かれている環境が、そうせざるを得ないからだ。
 左近衛府中将というだけでも降り積もってくる仕事量なのだが、それだけでなく東宮の随身に近い仕事も請け合い、それに関連する内偵業務もやり、また公には出来ない事も担っている。
 半分は自分が好んでやっている部分もあるが、それでも休む間がないほどだった。
 滝丸と寝食を共にしていた時期だけ、ゆっくりする事が初めて出来たぐらいだ。いや、あれは無理矢理時間を作ったようなものだ。

 ところがその時に事態は急変した。
 過去に失われた淡い恋君が生きていた。しかもそれが目の前にいるほだされかけていた女だった。

 自身の置かれている身の為か、はたまた仕事内容の為か、人よりも多くの女性を目にしてきた。幼き頃の思いが消え失せないせいか、心が踊ることも欲しいと思うこともなかった。女の醜いところばかりを知っていき、最近では拒絶反応が出ることもあった。
 そんな折に、内大臣邸で内偵の最中に出会った女に、目を奪われた。そんなことは初めてで、でも自分の想い人を越えることはないと消去しようとしていた。

 それなのに、どんなに忙しくても諦めずあんなにも探し続けて手掛かりのなかった姫が、いつの間にか目の前にいたのだ、その人だったのだ。
 滝丸が寝た後も、何度も何度もその腕に巻き付いた紐を確認した。元は萌黄と薄色(薄紫)だったものを。

 そして忠明は確実な証拠を得ようと躍起になる。

 それまでは『小滝』という女の素性を辿っていた。しかし、それは難しく掴めないでいた。
 立場柄、間者や暗殺を手掛ける曲者が里を作って山に隠れているというのは知っていた。だがそれは無数にあり、どこの出なのか特定ができない。里同士は仕事を奪い合う敵でありながら横の団結を強くしてお互いの里を守る暗黙の掟があるようだった。

 その方面を一旦諦め、今度は小滝が仁子姫である証明を得ようと動く。
 その為には自分がさらに様々な身を使って自由に動く必要もある。やむなく小滝を典薬殿に潜入捜査させることにしたのだ。自分でもここまで効率化を計るかと溜息も出たものだが、東宮暗殺未遂は最重要課題であったし、それがまず解決しないことには自分の欲しいモノが得られない。
 だから彼女の経験を生かして手放したのだが、それがハッキリと裏目に出てしまったのだ。

 自分の舎人を使って、半分は彼女との情報媒体として、もう半分は彼女の偵察を兼ねさせていた。

「男と密通しております」
 その言葉を聞いた時、自分が思っていた以上に打撃を受けたことに恐れた。

 典薬殿にこの春から薬生として働く風太郎という男。
 権中納言より参内している有能な若い男。見目も良く、とても親しげだという。

 腸が煮え繰り返るとはこのことなのだろう。
 勘ではあるが多分以前からの見知った仲なのだろう。同じ里の者か。
 だとしたら今の忠明にはどうすることも出来ない。

 東宮妃になるには未通でなければならない。
 しかし耐えられず小滝の身体を貪ってしまった。

 こんなものがこの世にあっていいのかと思った。
 雪のように白く柔らかな肌、豊かな乳房に桜の花びらのように色づいた突起はとても敏感で、肌がしっとり吸い付くように赤く染まる頃には密穴はしどどに濡れ、容易に誘い込むのにその中はきつく塊を縛り付けるようにくわえこみ、何度も何度も淫らに蠢き離さない。
 小さな唇からはその度にかわいらしい吐息と押しとどめようとするのに漏れる嬉声。震える手で腕や肩や背にすがり付くように掴まるその無意識の仕草。
 自分はもう元に戻れないかもと覚悟を決め溺れ。

 しかし同時に、彼女がすでに誰かと身体を通わせていたことを知る地獄。

 奪われた過去は取り戻せない。そう冷静であろうとしても、この沸き上がるものはどうすればよいのだろうか。

 そして今もなお、彼女の身体は男によって淫らに潤ませているのだ。

 焦らない。じっくり足固めをしなければ。いずれこの手に入れると決めたのだ。

 それでも無我夢中だった。
 少しでも早く、この胸にと。

 左大臣の元へ何度も文と人をやり、当時の詳しい状況と、小滝の詳細を知らせ、死亡扱いとなっていた仁子姫の戸籍を取り戻し、すでに行われていなかった犯人の再捜査への人員確保と。あらゆる手段を使って急いだ。

 そしてようやく手筈が整い、仁子姫を迎え入れる環境が出来たという時に、彼女はまた、姿を消してしまったのだ。
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