恋するキャンバス

犬野花子

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峯森誠司

1話 青天の霹靂(1)

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 俺という生き物は、コンプレックスの塊みたいなもんだ。
 上に姉がふたりもいると、誰でもそうなると思うけど、お下がりが全部女の子仕様。外を歩けば「三姉妹」と言われて、”男らしく”ありたいと強く願うようになるのは自然なことだった。
 おままごとが妙に板についていることとか、女の子向けアニメに妙に詳しいとか、そんなのを悟られたくなくてひたすら外遊びに明け暮れた。絶対女子なんかと遊ぶもんか。もっと言うと、絡みたくもないと異様に決意していた時期だってある。

 だからそんな俺が、恋愛なんてふわふわした異物に対応できるわけがなかったんだ。
 付き合うってなんだ? 一緒に帰りたいんなら、「一緒に帰ろう」でいいし、遊びたいなら「遊ぼう」でいいし、それくらいなら俺だってもう変なこだわりなく「いいぜ」と言ってのけるぐらいには成長したんだ。

 成長していたつもりだった。
 結局、恋愛という謎のワードに振り回されて、気がつけば大事な何かを見落として、知らないうちに在り処がわからなくなって、今さらどうしようもなくなっている。それが、今の俺だ。

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