四天王最弱と勇者に蔑まれ、あげく殺された呪術師、現代日本に転生する

Sion ショタもの書きさん

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1.四天王最弱、春祭りの夜に誘拐される

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 太陽が落ちて、辺りは徐々に暗くなる。
 藍色の空に大きな月と星々が瞬く。
 住宅の間にひやりと冷たい夜風が吹き抜けた。

 気温は十度を下回っている。この時期はいつも人足が遠のき、辺りは閑静な住宅街の様相をみせるが。

 今日は春祭りが開催されていた。

 二車線道路の両端に屋台が軒を連ねている。
 その中央に人の川が流れており、紺色の制服を着た警備員が、左側通行にご協力くださいと叫んでいた。

 道端で等間隔に並んだ提灯の明かりが、屋台に集まる人波をほのかに照らしだす。

 綿菓子を手に笑顔を浮かべる子ども。
 射的で景品を倒してガッツポーズする少年。
 金魚すくいに夢中になる少女。

 それらを温かい眼差しで見守る大人たち。

 夜の暗闇に負けないほどの歓声が響いている。
 しかし笑顔の絶えた家族がひとつ。

「ほら、美味しいリンゴ飴よ」
「よ、よかったなあ、虹晴(こはる)。美味しいリンゴ飴だぞ」

 息子の唇にリンゴ飴を近づける母親、御影叡香(みかげえいか)。腕のなかの息子へ、途切れ途切れに声をかける父親の御影一月(みかげいつき)。

 彼らの家族の中心は五歳の少年だ。

 名前は御影虹晴(みかげこはる)。
 恐ろしいほどの美貌をもつ虹晴だが、西洋人形のような無表情でたたずんでいる。

 虹晴は喜怒哀楽の感情に乏しい。

 産まれてから一度も、自力で笑ったことがない。かかりつけの医者によれば統合失調症ではないか、とのこと。

「父上、食べたければ食べればいいよ。美味しいリンゴ飴だよ」
「そっ、そうか……」

 そんな息子との接し方がわからないと顔に書いてある一月を見かねた叡香が、人差し指を動かしながら、言霊をつむいだ。

「地に隠れし小さな感情の種は、数多の栄養をその身に蓄え、芽吹き、やがて表出する。我が力を糧にして生まれよ。飢餓の種。【呪術:飢餓(スタベーション)】」 

 一般人に秘匿された、神秘というにはすこし悍ましすぎるチカラだ。

 叡香の人差し指から生まれた黒色の光が、虹晴の身にすこしずつ吸いこまれていく。

「……やっぱり食べる」

 一月の腕から抜け出して、道路脇のベンチでリンゴ飴をすこしずつ食べる。

 虹晴は、両親の呪術の助けがなければ、自身の空腹にさえ気がつかない。
 もし両親の目がなければ、一日三食を忘れるのも常態化していただろう。

 そんな状態であるから、さぞかし痩せ細っているように思えるが、そうでもない。

 あまりにも餓死を心配した両親が、呪術を用いてまで虹晴に食事を取らせるのだ。よく見れば虹晴の身体はぽっちゃりしている。

「……美味しい」

 もちろんリンゴ飴にも、錯覚を引き起こす類いの呪術がかけられていた。

 その幸福感により虹晴は小さく笑んだ。

 この子には、美味しいという感覚さえ、普段は感じられないのか。

 とてて、と四~五メートルほど離れたゴミ箱へ駆け寄る虹晴を、ため息とともに見送る両親だったが、次の瞬間には大きく目を見開いた。

「虹晴!?」 

 全身黒ずくめの大男が、無警戒にゴミ箱に近づいた虹晴を俵のように担いで、巧みに走り去っていく。追いかけようにも周囲の人混みが邪魔で動けない。

「呪術、っダメ! どいてください、お願いっ!! 待って!!」

 弱々しく叫ぶ叡香の声。
 それを虹晴は静かに聞いていた。
 そして大男に担がれながらも、無意識に手を伸ばす。

 届かない。

 すでに五十メートルほど距離が離れていた。

 
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