四天王最弱と勇者に蔑まれ、あげく殺された呪術師、現代日本に転生する

Sion ショタもの書きさん

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3.四天王最弱、取り調べを受ける

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 呪術師たちに薄暗い路地裏から、明るく整頓された部屋へと保護された。彼らの社会的役割は妖怪、幽霊、呪詛、祟り、呪いといった、いわゆる霊的災害、または自然災害に対して呪術を行使して、人々の身を守ることにある。

 今回、警察ではなく呪術師が担当することになったのも、呪殺された死体の存在あってこそだ。

 部屋の中央には重々しくもデスクが鎮座している。その両端には椅子があり、虹晴は奥の席へ着くように促された。対面には呪術師。虹晴の肩に叡香の手が置かれる。我が子へ安心するように願う母の手だ。

「さて、取り調べとは言いましたが、気楽に行きましょう。私は宮道喜助(くどうきすけ)です。君の名前は?」
「こはる」
「どこか温かな感じのする、良い名前だね」
「ありがと。くどうさんの名前は……」

 ニコニコと笑みながら、宮道は虹晴の言葉を待つ。
 一分、二分、三分。
 待ちつづけた。

「無理して褒めようとしなくて良いからね」
「わかった」

 無表情で即答されたことに内心で落ち込む宮道。ハラハラと虹晴の背後で様子を見守る一月。気を利かせなくても良いという言葉により、気の利く奴だなと虹晴のなかで宮道の株が上がった。

「じゃあ質問するけど、心の準備は良いかな?」
「いいよ。ばっちこい。心ならいっぱいある」

 四天王時代に殺した人間の心が。

「あはは、たくさん準備してきたんだね」

 お前も準備してやろうか、という内心は最後まで隠し通す所存の虹晴だ。人間社会に溶け込めれば、人間は研究の邪魔をしに押しかけてこなくなる。
 つまり面倒を嫌うなら、業腹ではあるが、人間に媚びを売らねばならない。

「ゴミ箱の近くで、こはる君をつかまえて、路地裏まで連れていった男の人を覚えているかな?」
「今までわすれてた」

 宮道の質問に、虹晴的に愛嬌たっぷりに答える。いちいち実験台にした人間など覚えないが、隠蔽魔術までつかって呪術師の目を誤魔化した、屈辱的な今日のことは覚えている。

「覚えていたのなら、もうひとつ聞いても良いかな?」
「いいよ」

 宮道はこれまでの笑顔を消してデスクに肘をつくと、指を組む。その朱色の瞳に見つめられて、宮道が取り調べを担当していることに納得した。

「こはる君は、私たち呪術師や君の両親が来るすこし前のことを覚えているかな?」
「たぶん」
「じゃあ、こはる君を誘拐した男の人を、こはる君が殺めてしまったことも、覚えているかい?」

 その朱い瞳は嘘を許さない。
 宮道の瞳に浮かぶ呪力痕を、虹晴はじっと見つめる。
 やはり解析結果は看破の邪眼。あらゆる嘘を見破る妖術だった。

 妖術とは呪術の一種で、身体の一部に先天的に宿るものだ。ローリスク・ハイリターンな呪術を行使できる特徴がある。

 こと妖術に限って、一般的な呪術で対抗するのは、激流に逆らって泳ぐにも等しい行為だ。つまり筋力と体力、この場合、呪力が続かなければ藻屑となって消える運命にある。

「覚えてる。逃げたくて、でもできなくて、涙が出てきて……」

 呪術師から逃げたかったが、できないことを悟り、涙を出した。人間の感性には疎いが、彼らの感情は理解している。これまで散々と利用してきたのだから。そして、だからこそ、虹晴は四天王時代に自身の身体を見目が良くなるように、丁寧に作った。

 宮道喜助よ、儂に同情せよ、儂は被害者じゃ、ただの五歳児じゃ。

【無声隠蔽呪術:嘘泣き】
 詠唱時よりも呪力を浪費するが仕方がない。

「ぐすんっ、うう……」

 虹晴の涙に劇的に反応したのは、やはり一月と叡香だ。感情表現に乏しかった息子がポロポロと泣いている。並大抵の恐怖ではなかっただろうと簡単に想像ができる。
 叡香は宮道に怒りの声を上げる。
 デスクを強く叩く音、言い争う声。
 実に都合が良いことに、そこで取り調べは終了した。
 残りは両親と呪術師の間で事件のことについて対話するらしかった。

 
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