青い石との奇妙な生活

結城時朗

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第一幕

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あの嵐の夜に拾った青い石は、世にも奇妙な石であった。
「あなたの目的は何?」
そう尋ねる史緒里に、返事は無かった。
ふと姿見を見たが、そこには全裸の史緒里がいた。
「夢?」

次の日、鏡を見る史緒里。
いつも通り何もない。
会社に出勤しようと身支度を整える。
「行ってきます」
と同時に振り返るが、昨日の夜見た白い服の女はいなかった。
家を出て、エレベーターを待っていると。
誰かに話しかけられる。
いつもより空気が澄んだ日だった。
《空気が澄んでて気持ち良いな》
「そうですね」と振り返るが誰もいない。
焦る史緒里。
《あっ、ごめんごめん》
「誰?」
《昨日の、アンタの中から話しかけてるけど》
「わー、そうなんだってならないんだけど」
《心配しないで、特に危害はないし》
「いや、危害はないとかそういう問題じゃないんだけど」
ふと目の前を見るとエレベーターの中でボタンを押して待っているサラリーマンがいた。
「乗ります?」
「すみません・・・」
「独り言、凄いですね・・・」
「そうではなくて、会社で出し物があって、その練習してたというか・・・」
「あぁーそうなんですね」
《上手いこと言う》
「(小声で)うるさい!」
「なんか言いました?」
「いえ、別に・・・」
1階に着くエレベーター。
「どうぞ」
「ありがとうございます・・・」
そそくさと出る史緒里。
「あっ、出し物頑張ってください」
「・・・ありがとうございます」
《話しかけないでよって心で思ったよね?》
「思ってないし」
《バレパレ。  アンタと一体化してるんだから》
「ホント最悪。  あんな石拾うんじゃなかった・・・」
出社すると例の嫌味な里中が開口一番に話しかける。
「おはよう。  出勤時刻5分前に着席って、ありえないわね。  私の若い頃は15分前が当たり前よ」
《何この厚化粧ババア》
「(小声で)笑かさないで」
「笑ってる?」
「いや、そんな事はないです。  でも今の時代、働き方改革ですよ」
「まぁ、口答え?」
「口答えではなく、現実です。  お言葉ですが里中さんの古い価値観押し付けるのやめてもらっていいですか?」
《やるぅ!》
「もういい、あなた覚えておきなさいよ」
「大丈夫です。  里中さんの言われたこと半年前からメモしてますので、いくらでも言えますよ!」
ドカスカと足音立てて、自席に戻る里中。
同僚の岡田が笑いながら来る。
「派手に言ったね・・・」
「我慢の限界だったの」
「まぁ私もだけど、あんな勇気ないわ」
《アンタ最高!》
「ありがとう」
「なんか言った?」
「なんでもない」
昼休み、会社の屋上に行く史緒里。
《ご飯?》
「そうだけど?」
《私の分は?》
「無いけど」
《なんで?》
「なんでって、あんたのことよく知らないし、そもそも何食べるの?」
《生気》
「無理無理」
《嘘よ。  アンタが食べるものならなんでも。  ただあまり辛いものとかやめてね》
「えっ?無理。  私の大好物だから!」
《えっ?》
持ってきた弁当の蓋を開けると真っ赤なものが沢山入っていた。
《それ、トマトとか、イチゴとかだよね》
「んなわけ。  これがハバネロの炒め物、これがブート・ジョロキアの佃煮、これが青唐辛子の炊き込みご飯」
《頭イカれてるじゃん!》
「なんで?  美味しいじゃん!」
食べていく史緒里。
「うーん!辛い!  けど美味しい!」
バクバク食べていく史緒里と、中で苦しむ声がする。
《無理、無理、痛いよー!  痛い!》
「うるさいなー」
《やばい!  無理!》
史緒里から離脱する。
見た目そのもの史緒里だが、顔が真っ赤な人が走り回っている。
「大袈裟」
《アンタ、頭絶対にイカれてる!》
「そういえばさ、アンタ名前は?」
《えっ?  名前?  史緒里だけど》
「いやいや、史緒里は私だから」
《って言われても、アンタの分身として生まれたから》
「じゃあ、史緒でいい?」
《別に悪くないし》
「んで、どうすんの?私から出てきたけど」
《それ、食べ終わってからにして。  ていうかマジで全身痛いんだけど》
「こんなに美味しいのに、人生損してるわ!  あっ、人じゃないから石生損してるわ!」
《いや、そもそも食べないし!》
「ご馳走様でした」
《やっと食べ終わった》
「で、どうすんの?」
《今、まだ戻りたく無いけど・・・》
史緒里の前に立つ史緒。
《私の目を見て》
目を見ると、人間の目ではなく蛇のような目になっている。
一瞬固まる史緒里。
気がつくと、史緒の姿はなかった。
「あれ?  どこ行ったの?」
《アンタの中。  ていうかまだヒリヒリするんだけど》
「離脱可能じゃん!」
《まぁね》
「今は良いけど、しばらくしたら消えてよ」
《えー》
「えーじゃない!」
《考えとく》
「とりあえず、仕事戻る!」
昨日起こったことなのに、何故か状況を受け入れている史緒里。

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