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第二章 vs厄災アイン
#17 即興劇「異世界居酒屋」~悠貴side~
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「はい。注文承りました。バッカスの酒一つですね」
「お姉さん、こちらも注文いいかな?」
「ハイ! 少々お待ちください! 只今お伺いします! サラさん、バッカス一つ」
エレインさんがサラさんに泣きついたことで、くろねこで開催されることになった騎士団の新人歓迎会。
その場に居合わせたばかりに、私はくろねこの店員として店内をバタバタと動き回っていた。
もちろん素の自分のままでは接客なんて無理なので、居酒屋の店員の役作りをした状態でだ。
「そこのキミ、こっちにもバッカス一つ!」
「かしこまりました。サラさん、バッカス一つ追加で」
「はいよー!」
あたしの声に反応して、厨房からのサラさんの返事が店内に響く。
「エレインさん、鹿肉の串焼きあがったよ! これ、お願い!」
「はいぃ」
そこへアレッタやエレインさんの声も続く。
それにしても、すごい忙しさだ。前の世界で、居酒屋の看板娘の役を演じたことはあるから、なんとなくそういうイメージは出来ていたけれど、想像の三割増しだ。
「やみつきポテトフライと陸鮫のから揚げ。それからバッカスの酒も」
「あ、それにサハギンのもつ煮もお願い」
「こっちにも鹿肉の串焼きとバッカスの酒追加。あ、串焼きは二つで」
「バッカスの酒とお冷」
「かしこまりましたぁ。えっと、ポテトフライが一つ、陸鮫のから揚げが一つ、バッカスの酒が……ああ、すいません。みなさん、もう一度、お願いしますぅ」
「……やみつきポテトフライが一つ、陸鮫のから揚げが一つ、バッカスの酒が全部で三つ、サハギンのもつ煮が一つに、鹿肉の串焼きが二つ、お冷が一つですね」
「あー、酒もう一つ追加で」
「かしこまりました。サラさん、アレッタ、ポテトフライ一、陸鮫から揚げ一、バッカス四、サハギンもつ煮一、鹿肉串一、お冷一」
目をぐるぐると回しているエレインさんに代わり、厨房へと注文を伝える。
「ありがとうございますぅ、ユウキさん……」
「ううん。気にしないで。一緒に頑張ろう」
「はいぃ」
酔った客が尻に伸ばしてくる手を回避しながら、厨房まで用意が済んだ酒と料理を取りに戻る。まったく、店員の尻を触ろうとするなんて、元の世界では一発アウトで警察沙汰だというのに……。変なところで異世界を感じた。
「ごめんね。無理させてない?」
厨房に戻ると、白いブラウスに黒のフレアスカート、その上からエプロンを身に着けたアレッタが鍋をかき混ぜながら、申し訳なさそうな声をあげる。
「いや、これくらい平気だよ。あたしも少しはアレッタにいいところを見せないと」
「ユッキー……」
あたしが微笑みかけると、アレッタの顔が赤くなっていた。
きっと、鍋から湧き上がる湯気のせいだろう。あたしは料理が出来ないから、アレッタに厨房の手伝いをやってもらっているけど、もしかしたら、大変な方を押し付けてしまったのかもしれない。
だとしたら、申し訳ないことをしてしまった。
「いやー、それにしても、ユウキちゃん、手慣れてんな。まるで人が変わったみたいだ。こういう仕事の経験あんの?」
近くで揚げ物をしているサラさんが尋ねてきた。
「いえ、実際にやるのは初めてですよ。昔、お芝居で居酒屋の店員を演じたことがあって、その時のことを思い出しながら動いているだけです。だから、もし違和感があったら教えてください」
「それでちゃんとやれるのは大したもんだね。名演技だよ。引き続き、そんな感じでよろしく……あ、ポテトとから揚げも出来たから、それも持って行ってくれる?」
「わかりました」
と、そんな感じでしばらく店内を忙しく動き回っては、厨房に戻るというのを繰り返しているうちに、やがて、騎士団の宴会は幕を閉じた。
「みなさん、本当にありがとうございましたぁ。この御恩は必ずお返ししますぅ」
深々と頭を下げた後に去っていくエレインさんを見送ったところで、私の集中が切れ、演技モードが解けた。
長時間、キャラを演じながらハードな仕事をしていた疲れがどっと出て、へなへなと腰が抜けてしまう。
「ユッキー、大丈夫⁉」
アレッタが慌てて、肩を貸してくれた。触れた途端、全身が心地よい安心感に包まれた。
前の世界でも、役者の仕事中に同性と身体が触れ合うことは、それなりにあったけれど、こんな気持ちになったことはこれまで一度もない。
それはきっと、アレッタが私の本物の友達だからなんだと思う。
「お姉さん、こちらも注文いいかな?」
「ハイ! 少々お待ちください! 只今お伺いします! サラさん、バッカス一つ」
エレインさんがサラさんに泣きついたことで、くろねこで開催されることになった騎士団の新人歓迎会。
その場に居合わせたばかりに、私はくろねこの店員として店内をバタバタと動き回っていた。
もちろん素の自分のままでは接客なんて無理なので、居酒屋の店員の役作りをした状態でだ。
「そこのキミ、こっちにもバッカス一つ!」
「かしこまりました。サラさん、バッカス一つ追加で」
「はいよー!」
あたしの声に反応して、厨房からのサラさんの返事が店内に響く。
「エレインさん、鹿肉の串焼きあがったよ! これ、お願い!」
「はいぃ」
そこへアレッタやエレインさんの声も続く。
それにしても、すごい忙しさだ。前の世界で、居酒屋の看板娘の役を演じたことはあるから、なんとなくそういうイメージは出来ていたけれど、想像の三割増しだ。
「やみつきポテトフライと陸鮫のから揚げ。それからバッカスの酒も」
「あ、それにサハギンのもつ煮もお願い」
「こっちにも鹿肉の串焼きとバッカスの酒追加。あ、串焼きは二つで」
「バッカスの酒とお冷」
「かしこまりましたぁ。えっと、ポテトフライが一つ、陸鮫のから揚げが一つ、バッカスの酒が……ああ、すいません。みなさん、もう一度、お願いしますぅ」
「……やみつきポテトフライが一つ、陸鮫のから揚げが一つ、バッカスの酒が全部で三つ、サハギンのもつ煮が一つに、鹿肉の串焼きが二つ、お冷が一つですね」
「あー、酒もう一つ追加で」
「かしこまりました。サラさん、アレッタ、ポテトフライ一、陸鮫から揚げ一、バッカス四、サハギンもつ煮一、鹿肉串一、お冷一」
目をぐるぐると回しているエレインさんに代わり、厨房へと注文を伝える。
「ありがとうございますぅ、ユウキさん……」
「ううん。気にしないで。一緒に頑張ろう」
「はいぃ」
酔った客が尻に伸ばしてくる手を回避しながら、厨房まで用意が済んだ酒と料理を取りに戻る。まったく、店員の尻を触ろうとするなんて、元の世界では一発アウトで警察沙汰だというのに……。変なところで異世界を感じた。
「ごめんね。無理させてない?」
厨房に戻ると、白いブラウスに黒のフレアスカート、その上からエプロンを身に着けたアレッタが鍋をかき混ぜながら、申し訳なさそうな声をあげる。
「いや、これくらい平気だよ。あたしも少しはアレッタにいいところを見せないと」
「ユッキー……」
あたしが微笑みかけると、アレッタの顔が赤くなっていた。
きっと、鍋から湧き上がる湯気のせいだろう。あたしは料理が出来ないから、アレッタに厨房の手伝いをやってもらっているけど、もしかしたら、大変な方を押し付けてしまったのかもしれない。
だとしたら、申し訳ないことをしてしまった。
「いやー、それにしても、ユウキちゃん、手慣れてんな。まるで人が変わったみたいだ。こういう仕事の経験あんの?」
近くで揚げ物をしているサラさんが尋ねてきた。
「いえ、実際にやるのは初めてですよ。昔、お芝居で居酒屋の店員を演じたことがあって、その時のことを思い出しながら動いているだけです。だから、もし違和感があったら教えてください」
「それでちゃんとやれるのは大したもんだね。名演技だよ。引き続き、そんな感じでよろしく……あ、ポテトとから揚げも出来たから、それも持って行ってくれる?」
「わかりました」
と、そんな感じでしばらく店内を忙しく動き回っては、厨房に戻るというのを繰り返しているうちに、やがて、騎士団の宴会は幕を閉じた。
「みなさん、本当にありがとうございましたぁ。この御恩は必ずお返ししますぅ」
深々と頭を下げた後に去っていくエレインさんを見送ったところで、私の集中が切れ、演技モードが解けた。
長時間、キャラを演じながらハードな仕事をしていた疲れがどっと出て、へなへなと腰が抜けてしまう。
「ユッキー、大丈夫⁉」
アレッタが慌てて、肩を貸してくれた。触れた途端、全身が心地よい安心感に包まれた。
前の世界でも、役者の仕事中に同性と身体が触れ合うことは、それなりにあったけれど、こんな気持ちになったことはこれまで一度もない。
それはきっと、アレッタが私の本物の友達だからなんだと思う。
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