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壊れる日常
どっちが気持ちいい?
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娘だった女にキスされた。それが俺をひどく混乱させている。こんなときどうすればいいのか全く見当もつかなかった。
「おかえりなさいパパ」
「ああ、うん。ただいま」
娘だったはずの女が玄関まで俺を迎えに来てくれた。にっこりとした笑顔で俺の通勤カバンを預かってくれた。まるで世間が想像する新妻みたいだ。最近の欹愛はずっとご機嫌が続いていた。だけどそれは必ずしも家庭の平穏には繋がらないものであった。
「それでね。お隣さんのわんちゃんがお手の代わりにお辞儀をしちゃってね。変でしょ。うふふ」
夕飯中のことだった。妻が他愛もない世間話をしている時、俺はふくらはぎに妙な柔らかさを感じた。そしてその柔らかな感触はつーっとふくらはぎから太ももにを撫でるように這っていった。目の前に座っている欹愛のつま先の感触だとすぐにわかった。そしてその行く先は見当がつく。流石にまずいと思って、俺はテーブルの下に手を入れて欹愛の足を払った。欹愛を見ると一瞬だけ舌をペロッと出して笑った。ひどく扇情的に見える。そして彼女は微かに唇を動かす。
『きもちいい?』
そういう風に言っているのが読み取れた。俺は目を反らす。だってその感触は確かに気持ちのいいものだったから。
家庭の平穏はまだ帰らない。俺と妻は一緒のベットで寝ている。欹愛の秘密を知ってもまだ、俺は同じベットで寝ている。
「ねぇ…今日…いい?」
隣にいる妻がそう言いながらパジャマを脱ぐ。ベットライトの明かりだけだが、下着姿の妻が見えた。妻はまだまだ若い。張りのある肌に豊満な肉体で華奢な体。この美しい妻はまだまだ世間じゃきっとモテるだろう。その体をいつでも好きにできる自分は幸せ者だ。そうだったはずだ。だけど欹愛のことがあってからは俺は妻を抱くことがなくなった。
「疲れてるから」
月並みの断りを入れる。妻は一瞬だけムッとした顔を見せたがすぐに笑みを浮かべて俺の腰の上にまたがった。
「こんなに大きくなってるのに?」
妻は妖艶で挑発的な笑みを浮かべている。俺のアレは十分硬くなっていた。ネットで妻に浮気された後勃なくなったみたいな話を見た。それで妻が泣いてざまぁらしい。だけど残念ながら俺の体は妻の魅力に反応している。何も言わない俺の反応を同意と取ったのか、妻は俺にまたがったままキスをしてきた。久しぶりに触れ合う柔らかい唇の感触、そして絡み合う舌。とても気持ちがいい。だけど欹愛の言葉が俺の脳裏をよぎった。
『どっちがきもちいい?』
俺は欹愛とのキスを思い出す。どっちが気持ちいいだろうか?触れる唇の柔らかさはどちらも変わらないと思う。じゃあそれ以外は?愛があるからキスをする。ならばどっちの愛が気持ちいいのかって話になる。そう考えると途端に今妻としているキスがなにか鈍いものに感じられてくる。だって妻の愛は俺以外の誰かに向けられたことがあったのだ。それは過去の話なのに、その証は欹愛という形でくっきりと世界に残っている。じゃあ紛い物かと言われれば違うだろうけど、きっと妻が俺に向ける愛は純粋なものじゃない。そう思った瞬間。
「きもちわるい」
「…ぇ…あなた…?いまなんて?」
ふっと漏れてしまった言葉はもう取り消せない。だけど偽らざる本心だった。俺は妻を押しのけて、ベットから降りる。
「ねぇ…その…ごめんなさい…疲れてたのよね?無理させちゃったのよね。ごめんなさい。本当にごめんね…」
妻はおろおろと不安げで怯え気味に俺に謝罪を繰り返していた。だけど俺はそれに返事をすることなく部屋を出た。ドアを閉じると中から妻のすすり泣く声が聞こえてきた。なんで泣いている?俺の方がずっと被害者なのに?
「鬱陶しい…」
俺はリビングに降りて、ソファで横になる。酒を飲みながら、テレビを流し見していた。
「パパ。眠れないの?」
いつの間にか欹愛がソファの傍に立って俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、お前のせいで眠れない」
そう言うと欹愛は嬉しそうな笑みを浮かべた。そして俺の上に覆いかぶさって来て抱き着いてくる。
「わたし、あの女の泣き声で起きちゃったの。煩いよね。普段は大人ぶってるくせにぴーぴー女の子みたいに泣いてちゃってみっともない」
「母親の悪口はいうもんじゃない」
「ふふふ。そうだね。でもそんなことお父さんでもない人に言われたくないかな?」
俺はその一言でかっとなったと思う。すぐに欹愛の上になりその体を上からソファに押し付ける。血の繋がらない男に押し倒されているのに欹愛は怯えることもなく、妖艶に笑っている。
「ねぇ。パパ。どっちがきもちよかった?」
「うるさい」
「ねぇ。わたしとママはどっちがきもちいい?」
「お前さえいなければ…!」
「ねぇパパ。わたしに娘のままでいてほしい?それとも…」
「もう黙ってろ」
俺はペラペラしゃべる欹愛の唇をキスして塞いだ。俺は何の答えも出せない情けない男だ。だけど今はっきりとわかったことが一つだけある。目の前の女の方が妻よりもずっとずっと気持ちいいってこと。それが一番悔しかった。
「おかえりなさいパパ」
「ああ、うん。ただいま」
娘だったはずの女が玄関まで俺を迎えに来てくれた。にっこりとした笑顔で俺の通勤カバンを預かってくれた。まるで世間が想像する新妻みたいだ。最近の欹愛はずっとご機嫌が続いていた。だけどそれは必ずしも家庭の平穏には繋がらないものであった。
「それでね。お隣さんのわんちゃんがお手の代わりにお辞儀をしちゃってね。変でしょ。うふふ」
夕飯中のことだった。妻が他愛もない世間話をしている時、俺はふくらはぎに妙な柔らかさを感じた。そしてその柔らかな感触はつーっとふくらはぎから太ももにを撫でるように這っていった。目の前に座っている欹愛のつま先の感触だとすぐにわかった。そしてその行く先は見当がつく。流石にまずいと思って、俺はテーブルの下に手を入れて欹愛の足を払った。欹愛を見ると一瞬だけ舌をペロッと出して笑った。ひどく扇情的に見える。そして彼女は微かに唇を動かす。
『きもちいい?』
そういう風に言っているのが読み取れた。俺は目を反らす。だってその感触は確かに気持ちのいいものだったから。
家庭の平穏はまだ帰らない。俺と妻は一緒のベットで寝ている。欹愛の秘密を知ってもまだ、俺は同じベットで寝ている。
「ねぇ…今日…いい?」
隣にいる妻がそう言いながらパジャマを脱ぐ。ベットライトの明かりだけだが、下着姿の妻が見えた。妻はまだまだ若い。張りのある肌に豊満な肉体で華奢な体。この美しい妻はまだまだ世間じゃきっとモテるだろう。その体をいつでも好きにできる自分は幸せ者だ。そうだったはずだ。だけど欹愛のことがあってからは俺は妻を抱くことがなくなった。
「疲れてるから」
月並みの断りを入れる。妻は一瞬だけムッとした顔を見せたがすぐに笑みを浮かべて俺の腰の上にまたがった。
「こんなに大きくなってるのに?」
妻は妖艶で挑発的な笑みを浮かべている。俺のアレは十分硬くなっていた。ネットで妻に浮気された後勃なくなったみたいな話を見た。それで妻が泣いてざまぁらしい。だけど残念ながら俺の体は妻の魅力に反応している。何も言わない俺の反応を同意と取ったのか、妻は俺にまたがったままキスをしてきた。久しぶりに触れ合う柔らかい唇の感触、そして絡み合う舌。とても気持ちがいい。だけど欹愛の言葉が俺の脳裏をよぎった。
『どっちがきもちいい?』
俺は欹愛とのキスを思い出す。どっちが気持ちいいだろうか?触れる唇の柔らかさはどちらも変わらないと思う。じゃあそれ以外は?愛があるからキスをする。ならばどっちの愛が気持ちいいのかって話になる。そう考えると途端に今妻としているキスがなにか鈍いものに感じられてくる。だって妻の愛は俺以外の誰かに向けられたことがあったのだ。それは過去の話なのに、その証は欹愛という形でくっきりと世界に残っている。じゃあ紛い物かと言われれば違うだろうけど、きっと妻が俺に向ける愛は純粋なものじゃない。そう思った瞬間。
「きもちわるい」
「…ぇ…あなた…?いまなんて?」
ふっと漏れてしまった言葉はもう取り消せない。だけど偽らざる本心だった。俺は妻を押しのけて、ベットから降りる。
「ねぇ…その…ごめんなさい…疲れてたのよね?無理させちゃったのよね。ごめんなさい。本当にごめんね…」
妻はおろおろと不安げで怯え気味に俺に謝罪を繰り返していた。だけど俺はそれに返事をすることなく部屋を出た。ドアを閉じると中から妻のすすり泣く声が聞こえてきた。なんで泣いている?俺の方がずっと被害者なのに?
「鬱陶しい…」
俺はリビングに降りて、ソファで横になる。酒を飲みながら、テレビを流し見していた。
「パパ。眠れないの?」
いつの間にか欹愛がソファの傍に立って俺の顔を覗き込んでいた。
「ああ、お前のせいで眠れない」
そう言うと欹愛は嬉しそうな笑みを浮かべた。そして俺の上に覆いかぶさって来て抱き着いてくる。
「わたし、あの女の泣き声で起きちゃったの。煩いよね。普段は大人ぶってるくせにぴーぴー女の子みたいに泣いてちゃってみっともない」
「母親の悪口はいうもんじゃない」
「ふふふ。そうだね。でもそんなことお父さんでもない人に言われたくないかな?」
俺はその一言でかっとなったと思う。すぐに欹愛の上になりその体を上からソファに押し付ける。血の繋がらない男に押し倒されているのに欹愛は怯えることもなく、妖艶に笑っている。
「ねぇ。パパ。どっちがきもちよかった?」
「うるさい」
「ねぇ。わたしとママはどっちがきもちいい?」
「お前さえいなければ…!」
「ねぇパパ。わたしに娘のままでいてほしい?それとも…」
「もう黙ってろ」
俺はペラペラしゃべる欹愛の唇をキスして塞いだ。俺は何の答えも出せない情けない男だ。だけど今はっきりとわかったことが一つだけある。目の前の女の方が妻よりもずっとずっと気持ちいいってこと。それが一番悔しかった。
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