軍閥令嬢は純潔を捧げない

万和彁了

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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第44話 同伴出勤

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 初めてキャバクラへ行った次の日の朝。目覚めは最悪の一言だった。

「なんでわたくしはあんなことを…」

 ソファーの上に横たわり私は見悶えていた。
 借用書の上にワインぶちまけてみたり、ラファティの耳もとにささやいてみたり。
 痛くね?私すごく痛くね?
 キャバクラという異世界の空気にベロベロに酔っていたとしか言えないテンションだった。
 どう考えても私が目指すべき女子力とは対極のことをやっているように思える。
 もっとこう令嬢らしい優雅なやり方はなかったのだろうか…。
 そう思っていた矢先にドアをノックする音がした。
 はて?誰だろうか。
 メネラウスなら勝手に入ってくるはずだから多分お客様に違いない。
 私は一応軍服に着替えてから、ドアを開けた。

「おはようございますお嬢様。侍従武官の任を拝命したので、これからはわたしが朝のお迎えに上がることになりました。以後よろしくお願いします」

 そこにいたのは州軍の制服に身を包んだラファティだった。
 夜と違って抑え目な髪型と控えめな化粧。美人だけど親しみを持たせるようなメイク術の技量。
 これが女子力なのか。

「同伴出勤っていうのは指名した側が待ち合わせ場所に迎えに行くもんだと思ってました」

 高級車で待ち合わせ場に迎えに行くのがマナーだと思ってた。
 まさかラファティの方から来てくれるなんてこれは脈ありなんじゃね?

「本当ならわたしもそうして欲しいんですけどね。流石にアイガイオン家のご令嬢にそんなことさせるほどわたしは無謀でも恥知らずでもないので。お嬢様はもう準備できてるみたいですね。表に州軍の車が来てるので、行きましょうか」

 ラファティにエスコートされながら私は州軍の司令部に向かった。
 車中で演習の準備についてきいたところ、明日には出発できるとのことだった。仕事早いね。

「お嬢様のオーダーした通り最精鋭の部隊で州境に向かうことになります。たかが盗賊相手には勿体ないくらいの練度を誇る部隊です。州内、いいえ王国でも最強の部隊です。過剰戦力なんじゃないですかね」

 ラファティは興味なさげにそう私に説明した。
 過剰なくらいでいいと思うけどね。
 州境の向こう側はこちらのテリトリーではないから不測の事態に対応可能な練度を持つ部隊の方が私的には安心だ。
 司令部に着いてから参謀たちと演習について最後の打ち合わせを行う。
 もっとも彼らと策定した計画は何ら意味がない。
 参謀たちも私がまさか州境を超えるだなんて思ってはいないだろう。
 そして参謀との会議が終わって、一緒に昼食を食べていたラファティがふと言った。

「さっきの会議の時、小さいころイタズラの計画を練って孤児院の先生たちに黙っていた時の気持ちを思い出しました」

「そういうのって、ワクワクしますよね?」

「いいえ、あとでイタズラがバレて先生にいっぱい怒られたんで。正直テンション下がります」

 ラファティはどうにも私に素っ気ない感じだ。
 とは言え無視されるとか露骨に退屈そうにしたりとかそういう女子特有の陰湿さは感じない。
 ただただ、私にどう振る舞っていいのかわかっていないような感じに思える。

「そう言えば、広報部が是非ともお嬢様に来てほしいとか言ってましたよ。なんか新聞対策の秘策があるとかなんとか」

「広報部が?まあ新聞対策は大事ですよね。顔を出しておきましょうか」

 一体どんな秘策があるというのか?
 一応話を聞いておくのはいいかもしれない。
 私とラファティは昼食後に広報部に顔を出した。

「お待ちしておりましたよ、お嬢様!」

 広報部のオフィスに行くと、そこの部長さんが出迎えてくれた。
 州軍の広報部の仕事は多岐にわたっているが、多くの場合それは新聞などのマスコミ対策となる。
 今回の演習は表向きにはエレイン州のギムレー家のへの挑発なので、それをマスコミに上手く宣伝してもらわないといけないわけだ。
 演習自体は私が軍隊の指揮権を奪うための言い訳に過ぎないけど、広報部にとっては大事な仕事だ。
 騙しているのに気が引けるので、私は彼らの話を大人しく聞くことにした。

「今回広報部内である議論が盛り上がりました。お嬢様の写真をどう演出するのかということです」

「確かに重要ですね。新聞の写真しか見ない人も多いですし」

 現代ですら新聞やネットニュースの写真しか見てない奴がいる。
 この世界はさらにひどい。
 識字率は現代とは比較にならないほど低いのだ。
 新聞に名文を載せるよりも、写真一枚の方がより世論を喚起しやすいといってもいい。

「というわけでですね。お嬢様には州軍の地味な制服よりも、より写真で映える制服をお召しになっていただきたいのです」

「理屈はわかりますけど、うちの軍にこれ以外の制服はなかったと記憶していますが。今から特注の制服を作ることには賛同しかねます。演習のスケジュールは崩せません」

 広報部の言いたいことはわかるが、今から新しいおしゃれ制服を作る時間は残念ながらないだろう。
 それに個人的には華美な軍服は着たくない。勘が鈍りそうだからだ。

「ご安心ください。制服なら既に用意してあります。こちらです!」

 部長さんがそう言うと、部下の人たちがなんか変なデザインの軍服を纏ったマネキンを持ってきた。
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