軍閥令嬢は純潔を捧げない

万和彁了

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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第62話 中ボスさん

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 見るからに悪そうな髭面で、ラファティの胸を見て舌なめずりしたり、私のスカートの裾とかをエロい目で見てる。
 だけどこいつにはなんか手練れ感のある雰囲気があるのだ。
 なんだろう?立ち絵が用意されているエロゲー特有のゲス中ボスの匂いがするぞ。
 …あっ確かにこいつ原作に出てた!
 カンナギがこの盗賊団を自分の軍隊にするために乗っ取りに来た時、盗賊のボスと一騎打ちし斬殺した後に、こいつが真の中ボスとして立ちはだかりバトルになるんだ。
 つまりこいつがこの盗賊団最強キャラクター。
 その実力故にあの爆発の中で上手く身を守れたようで、魔力酔いとかはおこしていないようだ。
 腕に自信があるからこそ、こうして馬鹿みたいに堂々と姿を現したのか。アホ臭い。

「正直退屈な仕事だと思ってたぜ。せっかくこいつらに雇われたのに、ギムレー家から討伐隊も来やしないし、ここらの豪族共は歯ごたえがないし、だけどやっと戦いがいのある敵がやってきた。田舎娘共を犯すのにも飽きていたところだ。俺の相手をしてくれよ、お嬢さん」

 野武士は太刀の刃を舐めながらラファティに熱い視線を送ってる。
 なんだろうね?この絵に書いたようなゲスキャラ。
 軽蔑の感情が段々と抑えられなくなってくる。
 あとまたも私が敵の眼中に入っていないことにすげー腹立つ。

「拉致って来た女たちはつまらなかったぞ。最初は悲鳴を上げるのに、そのうち声も出さないマグロになっちまってな!所詮女なんて突っ込んじまえばこっちのもんよ!ひゃははははは」

 野武士はラファティを挑発している。
 心底クズだな。救いようがない。

「…へぇ」

 ラファティは無表情だ。
 何の感情もその顔からは読み取れない。
 だけど声だけはとてもとても冷たい。

「俺はお前みたいな女のくせに剣を持って強がっているはねっかえりがだぁあいいい好きなんだよ!そういう奴を犯して身の程を教えてやって、女らしくして教育してやるのが最高に楽しいんだ!」

 何言ってんだこいつ?もう聞くに耐えないな。
 私は銃口を野武士に向けようとしたが、ラファティが私の手を抑えた。
 その時彼女の感情を感じたような気がした。
 ラファティはこの男を許す気はないと。
 彼女は艶やかな作り笑いを浮かべながら野武士に問いかける。

「ねぇ。あなたにとって『女らしさ』ってなんですか?女に何を求めるんですか?」

「決まってる。俺のような強い男に従い媚びへつらうことだ!」

 馬鹿馬鹿しい回答で耳が腐りそうになる。

「ふーん。そうですかーそうですかー……はっ…ははははは!」

 乾いた笑い声を上げるラファティだが、その目は険しく細められていた。
 彼女から殺意が痛いくらいに漏れてくる。

「じゃあ、わたしを女って奴に教育してみてくださいよ。まあ、あなたごときがわたしを感じさせるなんて無理ですけどね」

 その瞳にはさっきまでとは違って熱い闘志が宿っている。

「やっとやる気になったな!いいぞ!戦士として全力でお前を潰してやる!覚えて置け!お前を屈服させる男の名を!我が名は…」

「あっ、そう言うのいいです」

 野武士は馬鹿馬鹿しいことに名乗りを上げようとしたが、ラファティは一言で切り捨てる。

「なんだと?戦士の名乗りを邪魔するのか!?女の分際で!」

「そうですよ。わたしは女の子。かわいいかわいい女の子。だから女に殺されるような弱っちい男の名前を一々覚えておきたくないんですよ」

 そう言ってラファティは左手で鞘に収まっていた短剣の方を抜き構える。
 彼女は二刀流の剣士だ。
 だけど昨今流行りの長刀二本ではなく、長短二本の…二刀流の源流とも言える由緒正しい方法の使い手。

「ふははは!なんだその短い剣は!まるで櫛みたいじゃないか!所詮は女だな!剣と化粧道具を間違えるなんてな!」

 野武士はラファティが左手に持つ短剣を見て嘲笑う。
 たしかに珍しい形だ。
 鍔は十手の鉤のようになっていて、峰には櫛のような凸凹がある。

「たしかにそう。この剣は化粧道具。でもわたしを綺麗にするためじゃないの」

「なに?」

「この剣はあなたの死化粧のために振るわれる。あなたを綺麗に染めてあげるよ。紅をさしたわたしの唇よりも真っ赤にね」

 ラファティは二刀を構え、その剣先を野武士に向ける。
 その姿は戦乙女の様にとても美しく思えた。
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