軍閥令嬢は純潔を捧げない

万和彁了

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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第93話 ビーチでお昼寝 / 令嬢以前の物語 第11話 戦闘の集結

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 目的地のプライベートビーチに辿り着き、ラファティが叫びながら湖に向かって走る。

「わーーーーー!ビバ!ビーチ!ほおおおおおお!」

 すでに彼女は服の下に水着を着ている。
 だから走りながら器用に服を砂浜に脱ぎ捨てていき、とうとう湖に飛び込んだのだった。

「きゃー!まじ青い!キラキラしてる!すごくきれい!きれい!しょっぱくない!あははは!」

 一人波打ち際で水しぶきを立てながら彼女ははしゃいでいた。私もウズウズしてきたぞ。

「お嬢様。私がちゃんと服は預かるので、あのようにはしゃがないでくださいね」

 メネラウスが苦々し気に私にそう言った。
 一応こいつは貴族令嬢の付き人なのでそういう礼儀作法にはうるさいのだ。

「五月蠅いですねメネラウス!今日は無礼講です!あなたの指示は受け付けません!ひゃっはー!」

 私もラファティに倣って湖に向かって駆けだす。
 パーカーとパレオを脱ぎ捨てて、思い切り湖に向かって飛び込む!

「ああ、もう…。お館様に知られたらと思うと気が重いな…」

「いいじゃないっすかボルネーユ卿。楽しそうなんだからさ。それよりチェアの配置の手伝いしてください。バカンスの時は男が働くしかないんだからさ」

 後ろで男二人がなんか文句言ってそうだったけど、そんなの知らん。
 私は全力で遊び倒すと決めたのだ!

「お嬢様来ましたね!くらえ!日頃のお返しだぁ!」

 ラファティがこっちに泳いできて私に水をぶっかけてくる。
 だけどそんな攻撃にやられっぱなしの私ではない。

「やりましたね!くらいなさい!」

 私もラファティに向かって水をかける。
 お互いに全力でふざけ合う。
 顔にかかった湖の水は冷たくて爽やかで気持ちよかった。





 私たちはビーチでいろいろと遊びつくした。
 男女チームに分かれてビーチバレーしたり(ラファティがメネラウスに向かって思い切りスパイクをぶち込んでた)。
 男子二人がガチ相撲で白熱したりとか。
 メネラウスが私にサーフィンを教えてくれたりとか(ラファティは無駄に優れた魔法制御力でやたらとかっこいいトリックを決めてメネラウスにドヤ顔決めてた)。
 ヒンダルフィアルがラファティの水着写真をやたらと真剣な表情で撮りまくって若干キモかったりとか(ラファティもなんかガチでポーズをキめてた。写真集でも作る気なのかな?)。
 だからだろう。私は途中でウトウトと眠気を感じたのだ。
 ちょっと昼寝でもしようと思った。
 遠目にラファティたちが遊んでいるのを見ながら、私はチェアに横たわる。
 すぐに瞼が重くなってそこで意識は途切れた。







 【令嬢以前の物語】


 三佐たちの部隊はとうとう敵指導者の喉元へと迫りました。
 目の前にあるのは車を倒して壁とした臨時の砦もどき。

「なかなか立派な砦じゃないか」

「でも意味ないっすね。自衛隊に超えられない壁なんてないんですから!」

 一曹が援護射撃をし、三佐と随伴の部隊が敵陣に突撃をかけます。

「死守しろ!将軍を守れ!ここを抜かれた俺たちは終わりだ!死んでも守れ!」

 敵の抵抗は今までにまして激しくなっています。
 ですが今や勢いに乗っている三佐たちにはその抵抗も虚しいものに終わっていきます。

「その心意気やよし!敬意を払いながら殺してやろうとも!」

 三佐は両手にナイフを持って敵兵に白兵戦を仕掛けます。
 軽やかな身のこなしで敵兵を斬殺しながら駆けていく彼女はまさに戦場を支配する戦女神そのものと言えます。

「私に続け!ゴーゴーゴー!大将首は目の前だ!」

「「「うおおおおおお!」」」

 三佐は戦場を駆けていきます。部下もその後ろに続きます。
 目標はただ一つ。大将の首のみ。
 戦争が超高度になったこの現代において彼女たちだけは、まるで中世かあるいは原始時代のごとく野蛮な感性で戦っているように思えたのです。
 そしてとうとう彼女たちは辿り着いたのです。大将の目の前に。

「やっと来れたぞぉ!将軍!」

 敵将軍は突撃してくる三佐を見て目を見開きます。

「本当に女だと?!日本人は女に突撃させるのか?!なんて野蛮な連中なんだ!」

「うるさい!お前ら軍閥に言われたくない!くたばれおらぁ!」

 三佐は敵将軍に向かって飛び掛かります。

「させない!下がってください将軍!」

 若い兵士たちが将軍を庇おうと三佐の前に立ちはだかります。

「若い男は下がってろ!お前たちの未来を私に奪わせるな!」

 三佐は叫びながら若い兵士にナイフを振り下ろしました。
 首をバッサリと切り裂かれて蹲る兵士。
 その苦しむ姿に怯んだ周りの兵士たちの動揺を見逃さず、三佐は銃を抜いて彼らの額に向かって銃弾をぶち込みます。
 あっと言う間に護衛の兵士たちは絶命し、生きているのは三佐と敵将軍だけになりました。

「くそ!女に私の夢を邪魔されてたまるか!」

 将軍は懐から銃を取り出して三佐に向けて撃ちます。

「無駄だ。お前の作った悪夢はここで終わりだ」

 放たれた銃弾は三佐には届きませんでした。
 彼女の持ったナイフに切り裂かれて、地面にその破片が散らばります。

「化け物め…!」

 三佐はナイフを構えて将軍ににじり寄っていきます。その時です。

「もうやめて!」

 三佐以外の女の声が戦場に響きました。
 近くの車の中から小さな男の子を抱えた女が飛び出してきたのです。

「やめて!夫を殺さないで!降伏するから!殺さないで!子供がいるの!この子からお父さんを奪わないで!あなたも女なら私の気持ちがわかるでしょ!やめて!もうやめて!」

 女は三佐に向かって喚きます。
 そして子供また三佐を責めます。

「お父さんをいじめるな!」

 将軍の妻は体を震わせながらも、三佐から目を離さずに睨みつけています。
 男の子も泣きそうな顔で三佐を憎々し気に睨んでいました。

「まったく…どっちが悪党なんだか…。妻子を戦場に連れてくるなどまともじゃない…。夫の命を庇うような立派な妻を持ちながら軍閥ごときに成り下がるなんてな…まあいい。どちらにせよもう勝負はついている」  

 なんとも締まらない幕切れに三佐は深くため息をつきます。そして。

「全員聞け!お前らの大将は確保した!全員武器を捨てて跪け!今武器を捨てたなら人道的に扱うことを保証してやる!」

 三佐は銃を将軍に向けながら大声で戦場に向かって叫びました。
 その空気はすぐに戦場に伝わります。
 将軍が拘束されているのを見た敵兵士たちは皆武器を捨ててその場に跪きます。
 ここに勝負は決しました。
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