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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.
第95話 騎士気取りのガキどもをぶちのめせ!
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ディアスティマ・ギムレーはその挨拶をきょとんとちょっと間抜けな感じの目で見てる。
「え?あ、はい。よろしくお願いします」
なんかすごくあっさりとした返事を返してきた。
この女、まじで貴族令嬢っぽさがないよな。
「噂通り本当にお美しい方ですね。ところで、そちらの水着、州都の商店街の端っこのお店で買いました?かわいいですね。瞳の色に合わせた感じですか?」
「あっ!わかる?これいいよね!あなたのもあの店のでしょ?すごくかわいいよ!似合ってる!あそこあたしのお母さんのお友達がやっててねー」
「店長さんかわいいですよねー髪飾りとシャツの組み合わせがすごくかわいくてー」
「そーなのー!全部手作りで、里帰りするときはいつも寄って新作チェックするのー」
二人はなんかすごく打ち解けてキャピキャピとした会話をし始めた。
え?なにこれ?二人って対面するの初めてだよね?
…もしかして原作補正って奴ですか?
同じ男のハーレムヒロイン同士の友情ってやつ?
やめてよ!未来の竿姉妹の友情とか薄汚さすぎる!
ラファティ!お前には最近出会った原作主人公以外の運命の彼氏候補がいるだろ!
だめだ!その女と仲良くしちゃだめだ!てか本当にむかつくんですけど!
私がラファティと遊びに行けるようになるまでどれほど貢いだと思ってるの?!
王太子どころか戦友まで奪われるのか?!許すまじ!
だから少し気力が戻ってきた。私も声を出す。
「ラファティ。盛り上がってるところ悪いけど、代わってもらえますか?」
「はい。どうぞお嬢様」
私にだけ見えるようにラファティはウィンクした。
私が復活するまでの時間を稼いでくれていたようだ。
気を使える部下を持てて幸せですよまったくね。
「どうしてあなた方はこちらにいるのですか?王家の離宮にいると思ったのですが?」
普通この状況でこの街に出てくるか?
私の軍が占領してるんだぞ?
もちろん政治的理由により王太子とクラスメイト御一行に危害を加えることは絶対にないが、それでもビビらないはずがない。
なのにディアスティマ・ギムレーと取り巻きの男子たちはここにいる。
多分席の方とかに女子たちもいるんだろうけど。
とくにギムレー家は今や私の支配下だ。
怖くないのかよ?
「え?だってここにル…じゃない。離宮って静かすぎて、ちょっと退屈だって思って。だから皆さんをここにお誘いしたんです。それに殿下がいいって言ったからここに来たんですけど。駄目なんですか?」
若者らしく刺激に溢れた所に遊びに行きたかったと。
そんでもって男子共はこいつが行きたがったからついてきたわけだ。
さらに女子たちも男子の大部分が動けばついていかざるを得ない。
こいつ一人のわがままに皆が振り回されてる…。
まじでサークルクラッシャー女だ。
「この町含めてわたくしが占領してるんですけど。ギムレー家も実質的に今やわたくしの寄子で事実上の臣下ですよ?」
一応遠回しに『てめぇあたしにビビってねぇのかよ?あん?』みたいに尋ねてみるけど。
「んー?そうらしいですね。でもそれワタクシに関係あるんですか?お父さんは大変かもしれないですけど?別に街は平和だし安全なんでしょ?…遊びに来ちゃいけない理由にはならないですよね?」
この女が言ってることは事実だ。
事実なんだけど。
そうなんだけど、そうじゃないんだ…。
「え…ええ…うーん。そう…ですかね?…あれぇ…?」
やべぇ…常識が通用しない!
普通実家の領地が他の貴族に占領されたら、動揺しない?
私だったら、たとえ相手が占領時に暴虐を働かない保証があっても動揺しないはずがないんだけど!
なんだこの女。この騒ぎにまったく興味ないの?
ありえねー。つーかちょっと傷つくんだけど。
私かなり大それたことやったよね?自分の仕事に誇りをもっていいはずなのに、この女からすればそれはちっとも大したことないみたいで…。
すごく虚しい気持ちになってくるよ。
「騙されちゃだめだ!ディアスティマさん!この女は君のご実家の領土を不当に簒奪した侵略者なんだから!」
私がギムレーのボケボケした態度に頭を抱えていた時だ、取り巻きの男子たち(近衛軍総隊長の息子、宰相の息子、国内随一の大企業の息子。あとの連中はなんの息子だっけ?まあ色々偉い人の息子さんだよ!適当に察しろ!)がギムレーと私の間に割って入る。 騎士がお姫様を庇う様にギムレーの前に立ち、私にメンチ切ってきた。
いやーダセえ。
女相手にマジで睨みつけてくる男子マジでダサい!かっこ悪すぎ!
そんでもってよく見ると男子の後ろに隠れたギムレーがなんか私のことを鼻で笑うような感じ悪い笑みを浮かべてる。
(あたしーべつにたのんでないのにーだんしがーまもってくれちゃうの!でもでもほんとはけんかとかきらいなんだよ!あれ?ていうかじょぜーふぁさんのことまもってくれるだんしいないの?まじあわれ!いとかなしす!ぷげら)
みたいなこと考えてるのは想像に難くない。
この女マジムカつく!対抗してラファティも私を庇う様に彼らの前に立ってくれた。
やだラファティかっこいい!まじで騎士みたい!
「侵略者?そのご指摘は我が主人への不当なレッテル貼りです。カドメイア州辺境伯名代ジョゼーファ・ネモレンシス様はギムレー男爵を騙したりなどせず、きちんと契約を州民の皆様へご説明し、その締結をお勧めし、この地の統治の代行を請け負ったのです。すべて合法ですよ」
ラファティが男子たちに抗議の声を淡々と上げる。
その通り私は騙していない。
嘘です。めっちゃ暴力と詐術を駆使してこの州を分捕りました。
でも一応ちゃんと合法にしました。外野にとやかく言われる筋合いはない。
「それが騙しているというのだ!新聞で読んだぞ!なんだあの契約は!詐欺もいいところではないか!」
宰相だっけ?首相だっけ?その息子がなんか怒鳴ってくる。
こいつらは貴族の子弟で、この国の事実上の大学である王都の学園に通っている知識層だ。
あの契約書の内容と私の軍事作戦の質の悪さはよく理解してるだろう。
「ギムレー男爵は契約の内容について特に異議の申し立てを行っておりません。契約に違法性があるのであれば、国王陛下へ訴えればいいのです。ですがそれもありません。なのでジョゼーファ様に非は一切ありません。不当な叱責を受ける謂れはありません」
ラファティもシレッと彼らの訴えを退ける。
メネラウスのことはウザがっているが、今回の作戦について、彼から弁護プランをちゃんと教授してもらってるのだ。
「何を言うか!今好き勝手できるのは、ギムレー男爵を幽閉しているからだろう!実際カドメイア州軍があちらこちらに展開しているではないか!」
今州都近辺の警備からエレイン州軍の一部を引き抜いて、その分をカドメイア州軍の人員で埋めている。
エレイン州軍の人員はデメテル盆地に送って治安維持にあたらせることにした。
やっぱりそういうのは現地人の部隊にやらせたいのだ。
まだまだあの地域には治安の不安がある。
彼らの士気も高いから結果はすぐに出るだろう。
「そりゃ展開しますよ。いまエレイン州の警察活動は人手不足なんです。カドメイア州軍はそのお手伝いをしているだけです。まだまだ治安に不安はありますからね。あと男爵は特に拘束なんてしていません。自由に歩き回ってますよ」
実はもともとは幽閉しておくプランだった。だけど予測に反してギムレー男爵は大人しくしてるので、拘束はまったくしてない。
私が政庁を出る直前は観光部のオフィスで帝国のジャーナリストさんとなんか楽し気に広告会議してるのを見かけた。
なんというか世の中何が起きるかわからんものだ。
「拘束してない…?」
取り巻きの男子たちが驚愕してる。
私もその気持ちはわかるよ。
普通だったら拘束してる。
私だって拘束せずにすんで、不思議過ぎるんだから無理もない。
「はい。お会いしたかったらどうぞ。カドメイア州軍は特にその行動へ掣肘したりはいたしませんので」
でも逆に男爵がこのガキ共に会いたがる理由がないよな。
上手く行ってない娘のクラスメイトに会ったところでお父さん困っちゃうだけじゃない?
彼らは私を断罪したいんだろうけど、法的には無理筋です。
自己弁護できない状態でこの私が行動を起こすはずないんですよ。
「いくら王太子殿下がディアスティマさんに懸想しているからって、その実家を占領するなんて。そんなことをしたって王子の愛が帰ってくることなんてないし、ディアスティマさんに勝てるわけないのにな!」
攻めあぐねた彼らの中から、私が行動をおこしたであろう動機を責める声が聞こえた。
たしかに私とディアスティマ・ギムレーの確執を知っていれば、そう思っても仕方ないかもね。
実際は当然違う。私は呆れてしまった。
心底どうでもいいって思った。
だけど隣にいたラファティの様子があからさまに変わった。
目を鋭く細めて男子たちを睨む。
「ジョゼーファ様とディアスティマ様の間の個人的確執は本件とはまったく関係ありません。ジョゼーファ様はこの地の悲劇を止めるために出兵をご決断なされたのです。…女がいつも恋愛のことばっかり考えてるとか思ってんじゃねぇぞガキども…。わたしたち兵士はそんなくだらない理由のために戦ったりしない。わたしたちはお嬢様が掲げた大義に共感し、命を捧げた。この人の御心を疑うことは絶対に許さない」
ラファティが心底冷たい声を出して男子たちを威圧する。
わざと殺気を体から発して威嚇してる。
男子たちその殺気をもろに被ってガクブルしてる。
「平民の…それもハーフエルフ風情が貴族を脅すのか!いまここで制裁してやってもいいんだぞ!」
近衛軍総隊長の息子が剣を抜いて正面に構えた。
ところでどうでもいいけど、水着の男が剣のホルスターを腰に巻いてるのってすごくダサく見えるな。
「あなた、墓穴掘ったよ」
ラファティは左手首に引っ掛けてるホルスターから右手でソードブレイカーを逆手に素早く抜き取る。
一瞬で相手の懐に入り込み、ソードブレイカーの鉤で相手の剣を絡めとる。
「ばかめ!女の力で抑えられるかよ!」
ラファティの剣を力任せに引きはがそうと男は両手に力込めたのだが。
「別に抑える気なんて、最初っから無いんで」
男が力を込めた方へとラファティもソードブレイカーを押し込む。
すると男の体がその力の方向へとよろけてしまう。
そしてさらにラファティは男の足を引っかける。すると。
「あれ?なんで飛んで…うごぉ」
男はそのまま空中で一回転して砂浜に背中から落ちる。
落ちた時の衝撃で彼の両手から剣が離れてしまう。
痛みのせいだろう。
男は砂浜に伏せたまま、剣を拾おうとして手を伸ばしたが、もう遅かった。
その手をラファティが思い切り、上から踏んづける。
「いたっ!いたい!」
「だめだめ。鍔迫り合いになっちゃったら、持ってる剣とかに執着すると死んじゃうよ。ああいう風に関節技とか、投げ技とかにつなげられちゃうからね」
ラファティは男が落とした剣を拾って、それを彼の首筋に突き付ける。
「ひっ!やめろ!俺を誰だと思ってるんだ?!この国の近衛軍総隊長の息子で、将来は公爵を継ぐんだ!俺に傷一つでもつけたらお前の命なんて簡単に消し飛ぶんだぞ!」
「でもサインしたでしょ?」
皮肉気で冷たい笑顔を浮かべてラファティは死刑宣告を男に下す。
「サイン?何のことだ?」
「覚えてないの?この町は貴族の特権を一切認めない観光特区。揉め事の類は法の下、平等に処理される。ねえ、今の状況って客観的に見ると、あなたが先に剣を抜いて、わたしはそれに対して正当防衛してるだけだよね?どうかな?わたしの解釈、間違ってないよね?」
その通りだった。この町では喧嘩の類が発生しても、平等に裁かれる。
今のケースならラファティに非は一切ない。
先に剣を抜いた男を返り討ちにした。
ただそれだけのことである。
「だからさ。これ以上グダグダ言ってると、首刎ねちゃうからね。わかった?わかったんなら返事して。わたしは優しいから、ものわかりのいい人なら好きになってあげる。ほら返事しろ、いますぐに」
「はい!ごめんなさい!許してください!」
男は涙目になって、ラファティに許しを請うた。
「だっさ。これに懲りたら喧嘩を売る相手には気をつけた方がいいよ。この世界、わたしほど優しい子ばかりじゃないんだからね」
ラファティは首筋に当てていた剣を砂浜に捨てる。
ソードブレイカーを左手のホルスターに戻して、私の傍に戻ってくる。
「どうする?他にわたしとヤりたいって子いるぅ?いくらでも相手になってあげるよ。わたし情熱的な男の子大好きだからね!」
そう言ってすごく獰猛な笑顔を男子たちに向ける。
対して男子共の情けないこと情けないこと。
あんなに美人で可愛いラファティ相手にガクプルと膝を震わせてる。
ものすごくかっこいいよぅ、ラファティ。
申し訳ないけど、あなたが男の子だったらラファティルート突入を辞さない覚悟です!
「え?あ、はい。よろしくお願いします」
なんかすごくあっさりとした返事を返してきた。
この女、まじで貴族令嬢っぽさがないよな。
「噂通り本当にお美しい方ですね。ところで、そちらの水着、州都の商店街の端っこのお店で買いました?かわいいですね。瞳の色に合わせた感じですか?」
「あっ!わかる?これいいよね!あなたのもあの店のでしょ?すごくかわいいよ!似合ってる!あそこあたしのお母さんのお友達がやっててねー」
「店長さんかわいいですよねー髪飾りとシャツの組み合わせがすごくかわいくてー」
「そーなのー!全部手作りで、里帰りするときはいつも寄って新作チェックするのー」
二人はなんかすごく打ち解けてキャピキャピとした会話をし始めた。
え?なにこれ?二人って対面するの初めてだよね?
…もしかして原作補正って奴ですか?
同じ男のハーレムヒロイン同士の友情ってやつ?
やめてよ!未来の竿姉妹の友情とか薄汚さすぎる!
ラファティ!お前には最近出会った原作主人公以外の運命の彼氏候補がいるだろ!
だめだ!その女と仲良くしちゃだめだ!てか本当にむかつくんですけど!
私がラファティと遊びに行けるようになるまでどれほど貢いだと思ってるの?!
王太子どころか戦友まで奪われるのか?!許すまじ!
だから少し気力が戻ってきた。私も声を出す。
「ラファティ。盛り上がってるところ悪いけど、代わってもらえますか?」
「はい。どうぞお嬢様」
私にだけ見えるようにラファティはウィンクした。
私が復活するまでの時間を稼いでくれていたようだ。
気を使える部下を持てて幸せですよまったくね。
「どうしてあなた方はこちらにいるのですか?王家の離宮にいると思ったのですが?」
普通この状況でこの街に出てくるか?
私の軍が占領してるんだぞ?
もちろん政治的理由により王太子とクラスメイト御一行に危害を加えることは絶対にないが、それでもビビらないはずがない。
なのにディアスティマ・ギムレーと取り巻きの男子たちはここにいる。
多分席の方とかに女子たちもいるんだろうけど。
とくにギムレー家は今や私の支配下だ。
怖くないのかよ?
「え?だってここにル…じゃない。離宮って静かすぎて、ちょっと退屈だって思って。だから皆さんをここにお誘いしたんです。それに殿下がいいって言ったからここに来たんですけど。駄目なんですか?」
若者らしく刺激に溢れた所に遊びに行きたかったと。
そんでもって男子共はこいつが行きたがったからついてきたわけだ。
さらに女子たちも男子の大部分が動けばついていかざるを得ない。
こいつ一人のわがままに皆が振り回されてる…。
まじでサークルクラッシャー女だ。
「この町含めてわたくしが占領してるんですけど。ギムレー家も実質的に今やわたくしの寄子で事実上の臣下ですよ?」
一応遠回しに『てめぇあたしにビビってねぇのかよ?あん?』みたいに尋ねてみるけど。
「んー?そうらしいですね。でもそれワタクシに関係あるんですか?お父さんは大変かもしれないですけど?別に街は平和だし安全なんでしょ?…遊びに来ちゃいけない理由にはならないですよね?」
この女が言ってることは事実だ。
事実なんだけど。
そうなんだけど、そうじゃないんだ…。
「え…ええ…うーん。そう…ですかね?…あれぇ…?」
やべぇ…常識が通用しない!
普通実家の領地が他の貴族に占領されたら、動揺しない?
私だったら、たとえ相手が占領時に暴虐を働かない保証があっても動揺しないはずがないんだけど!
なんだこの女。この騒ぎにまったく興味ないの?
ありえねー。つーかちょっと傷つくんだけど。
私かなり大それたことやったよね?自分の仕事に誇りをもっていいはずなのに、この女からすればそれはちっとも大したことないみたいで…。
すごく虚しい気持ちになってくるよ。
「騙されちゃだめだ!ディアスティマさん!この女は君のご実家の領土を不当に簒奪した侵略者なんだから!」
私がギムレーのボケボケした態度に頭を抱えていた時だ、取り巻きの男子たち(近衛軍総隊長の息子、宰相の息子、国内随一の大企業の息子。あとの連中はなんの息子だっけ?まあ色々偉い人の息子さんだよ!適当に察しろ!)がギムレーと私の間に割って入る。 騎士がお姫様を庇う様にギムレーの前に立ち、私にメンチ切ってきた。
いやーダセえ。
女相手にマジで睨みつけてくる男子マジでダサい!かっこ悪すぎ!
そんでもってよく見ると男子の後ろに隠れたギムレーがなんか私のことを鼻で笑うような感じ悪い笑みを浮かべてる。
(あたしーべつにたのんでないのにーだんしがーまもってくれちゃうの!でもでもほんとはけんかとかきらいなんだよ!あれ?ていうかじょぜーふぁさんのことまもってくれるだんしいないの?まじあわれ!いとかなしす!ぷげら)
みたいなこと考えてるのは想像に難くない。
この女マジムカつく!対抗してラファティも私を庇う様に彼らの前に立ってくれた。
やだラファティかっこいい!まじで騎士みたい!
「侵略者?そのご指摘は我が主人への不当なレッテル貼りです。カドメイア州辺境伯名代ジョゼーファ・ネモレンシス様はギムレー男爵を騙したりなどせず、きちんと契約を州民の皆様へご説明し、その締結をお勧めし、この地の統治の代行を請け負ったのです。すべて合法ですよ」
ラファティが男子たちに抗議の声を淡々と上げる。
その通り私は騙していない。
嘘です。めっちゃ暴力と詐術を駆使してこの州を分捕りました。
でも一応ちゃんと合法にしました。外野にとやかく言われる筋合いはない。
「それが騙しているというのだ!新聞で読んだぞ!なんだあの契約は!詐欺もいいところではないか!」
宰相だっけ?首相だっけ?その息子がなんか怒鳴ってくる。
こいつらは貴族の子弟で、この国の事実上の大学である王都の学園に通っている知識層だ。
あの契約書の内容と私の軍事作戦の質の悪さはよく理解してるだろう。
「ギムレー男爵は契約の内容について特に異議の申し立てを行っておりません。契約に違法性があるのであれば、国王陛下へ訴えればいいのです。ですがそれもありません。なのでジョゼーファ様に非は一切ありません。不当な叱責を受ける謂れはありません」
ラファティもシレッと彼らの訴えを退ける。
メネラウスのことはウザがっているが、今回の作戦について、彼から弁護プランをちゃんと教授してもらってるのだ。
「何を言うか!今好き勝手できるのは、ギムレー男爵を幽閉しているからだろう!実際カドメイア州軍があちらこちらに展開しているではないか!」
今州都近辺の警備からエレイン州軍の一部を引き抜いて、その分をカドメイア州軍の人員で埋めている。
エレイン州軍の人員はデメテル盆地に送って治安維持にあたらせることにした。
やっぱりそういうのは現地人の部隊にやらせたいのだ。
まだまだあの地域には治安の不安がある。
彼らの士気も高いから結果はすぐに出るだろう。
「そりゃ展開しますよ。いまエレイン州の警察活動は人手不足なんです。カドメイア州軍はそのお手伝いをしているだけです。まだまだ治安に不安はありますからね。あと男爵は特に拘束なんてしていません。自由に歩き回ってますよ」
実はもともとは幽閉しておくプランだった。だけど予測に反してギムレー男爵は大人しくしてるので、拘束はまったくしてない。
私が政庁を出る直前は観光部のオフィスで帝国のジャーナリストさんとなんか楽し気に広告会議してるのを見かけた。
なんというか世の中何が起きるかわからんものだ。
「拘束してない…?」
取り巻きの男子たちが驚愕してる。
私もその気持ちはわかるよ。
普通だったら拘束してる。
私だって拘束せずにすんで、不思議過ぎるんだから無理もない。
「はい。お会いしたかったらどうぞ。カドメイア州軍は特にその行動へ掣肘したりはいたしませんので」
でも逆に男爵がこのガキ共に会いたがる理由がないよな。
上手く行ってない娘のクラスメイトに会ったところでお父さん困っちゃうだけじゃない?
彼らは私を断罪したいんだろうけど、法的には無理筋です。
自己弁護できない状態でこの私が行動を起こすはずないんですよ。
「いくら王太子殿下がディアスティマさんに懸想しているからって、その実家を占領するなんて。そんなことをしたって王子の愛が帰ってくることなんてないし、ディアスティマさんに勝てるわけないのにな!」
攻めあぐねた彼らの中から、私が行動をおこしたであろう動機を責める声が聞こえた。
たしかに私とディアスティマ・ギムレーの確執を知っていれば、そう思っても仕方ないかもね。
実際は当然違う。私は呆れてしまった。
心底どうでもいいって思った。
だけど隣にいたラファティの様子があからさまに変わった。
目を鋭く細めて男子たちを睨む。
「ジョゼーファ様とディアスティマ様の間の個人的確執は本件とはまったく関係ありません。ジョゼーファ様はこの地の悲劇を止めるために出兵をご決断なされたのです。…女がいつも恋愛のことばっかり考えてるとか思ってんじゃねぇぞガキども…。わたしたち兵士はそんなくだらない理由のために戦ったりしない。わたしたちはお嬢様が掲げた大義に共感し、命を捧げた。この人の御心を疑うことは絶対に許さない」
ラファティが心底冷たい声を出して男子たちを威圧する。
わざと殺気を体から発して威嚇してる。
男子たちその殺気をもろに被ってガクブルしてる。
「平民の…それもハーフエルフ風情が貴族を脅すのか!いまここで制裁してやってもいいんだぞ!」
近衛軍総隊長の息子が剣を抜いて正面に構えた。
ところでどうでもいいけど、水着の男が剣のホルスターを腰に巻いてるのってすごくダサく見えるな。
「あなた、墓穴掘ったよ」
ラファティは左手首に引っ掛けてるホルスターから右手でソードブレイカーを逆手に素早く抜き取る。
一瞬で相手の懐に入り込み、ソードブレイカーの鉤で相手の剣を絡めとる。
「ばかめ!女の力で抑えられるかよ!」
ラファティの剣を力任せに引きはがそうと男は両手に力込めたのだが。
「別に抑える気なんて、最初っから無いんで」
男が力を込めた方へとラファティもソードブレイカーを押し込む。
すると男の体がその力の方向へとよろけてしまう。
そしてさらにラファティは男の足を引っかける。すると。
「あれ?なんで飛んで…うごぉ」
男はそのまま空中で一回転して砂浜に背中から落ちる。
落ちた時の衝撃で彼の両手から剣が離れてしまう。
痛みのせいだろう。
男は砂浜に伏せたまま、剣を拾おうとして手を伸ばしたが、もう遅かった。
その手をラファティが思い切り、上から踏んづける。
「いたっ!いたい!」
「だめだめ。鍔迫り合いになっちゃったら、持ってる剣とかに執着すると死んじゃうよ。ああいう風に関節技とか、投げ技とかにつなげられちゃうからね」
ラファティは男が落とした剣を拾って、それを彼の首筋に突き付ける。
「ひっ!やめろ!俺を誰だと思ってるんだ?!この国の近衛軍総隊長の息子で、将来は公爵を継ぐんだ!俺に傷一つでもつけたらお前の命なんて簡単に消し飛ぶんだぞ!」
「でもサインしたでしょ?」
皮肉気で冷たい笑顔を浮かべてラファティは死刑宣告を男に下す。
「サイン?何のことだ?」
「覚えてないの?この町は貴族の特権を一切認めない観光特区。揉め事の類は法の下、平等に処理される。ねえ、今の状況って客観的に見ると、あなたが先に剣を抜いて、わたしはそれに対して正当防衛してるだけだよね?どうかな?わたしの解釈、間違ってないよね?」
その通りだった。この町では喧嘩の類が発生しても、平等に裁かれる。
今のケースならラファティに非は一切ない。
先に剣を抜いた男を返り討ちにした。
ただそれだけのことである。
「だからさ。これ以上グダグダ言ってると、首刎ねちゃうからね。わかった?わかったんなら返事して。わたしは優しいから、ものわかりのいい人なら好きになってあげる。ほら返事しろ、いますぐに」
「はい!ごめんなさい!許してください!」
男は涙目になって、ラファティに許しを請うた。
「だっさ。これに懲りたら喧嘩を売る相手には気をつけた方がいいよ。この世界、わたしほど優しい子ばかりじゃないんだからね」
ラファティは首筋に当てていた剣を砂浜に捨てる。
ソードブレイカーを左手のホルスターに戻して、私の傍に戻ってくる。
「どうする?他にわたしとヤりたいって子いるぅ?いくらでも相手になってあげるよ。わたし情熱的な男の子大好きだからね!」
そう言ってすごく獰猛な笑顔を男子たちに向ける。
対して男子共の情けないこと情けないこと。
あんなに美人で可愛いラファティ相手にガクプルと膝を震わせてる。
ものすごくかっこいいよぅ、ラファティ。
申し訳ないけど、あなたが男の子だったらラファティルート突入を辞さない覚悟です!
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