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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.
第一章・エピローグ1 世界に火をつけるもの
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バッコス王国
王都アリアドネ
王宮 王妃の執務室
「ふざけんなぁっ!」
王妃は激高していた。
あまりに深い怒りに足を置いていた机を蹴り飛ばして壊してしまうほどだった。
王妃はずっとジョゼーファの戦いを画面越しに見守っていたのだ。
子供を見事に助けたときには、彼女の成長に心が温まる思いだった。
だがその余韻をぶち壊すものが突然現れた。
カンナギ・ルイカ。
彼は龍をあっさりと倒してジョゼーファを救った。
まさしく英雄。忌々しいヒーロー様。
「アドニスの転生体への監視はちゃんとしてた。…なのに振り切られていた。いいわ。それはワタシのミスよ。否定はしない。でもね。あいつが女神もどきについていったのならちゃんとワタシに教えてくれてもいいんじゃない?ワタシたちお友達でしょ?ねぇ、ジャンヌ・ドゥ」
怒りを落ち着かせて、努めて冷静な声で誰もいない部屋にそう呼び掛ける。
すると王妃の目の前が一瞬蜃気楼のようにぶれて、白い髪の女が姿を現した。
国連軍の制服を正しく着こなしている女は、後ろ髪を二束の三つ編みで纏めていて、さらに大きな黒縁フレームの眼鏡をかけていて、それが生真面目そうで、地味な印象を与えている。
だが眼鏡のレンズ越しに見える蒼い瞳は酷く冷たく、無機質で人間味が全く感じられなかった。
「私とあなたの関係はお友達と定義されるようなものではありません。さらに言えば国連軍の最高機密たるアドニスの居場所を、予備役のあなたに伝えることは断じてありえません。軍規は絶対のルールです」
「相変わらず冷たい子だこと。姉のジェーンは人懐っこすぎてウザったいくらいなのに」
「ジェーン・ドゥは我らの本来の任務を忘れた裏切者です。比較はやめていただきたい」
ジャンヌ・ドゥのARアバターの表情は一切変わっていなかった。
だが不機嫌そうな印象は十分に王妃に伝わっていた。
「あなたたちドゥシリーズって本当に人間臭いのね。まあいいわ。あなたも見てたでしょ。ジョゼーファはその力を覚醒させつつある。ワタシたちの悲願にやっと手が届く」
「あなたたちドローンの悲願なんて私にはどうでもいいことです。ですがID:123456789012345678901234567890の『金枝』とのリンクは確認しました。たしかに構想はこれで実行に移せるでしょう。やっと女神を殺す手段が揃いました」
「では例の作戦案を承認して頂戴」
「了解。以前あなたが提出した作戦案を国連軍の統合作戦本部管理サーバーに登録します。軍規軍法との整合性チェック完了。戦略からの逸脱がないことを確認。作戦案のチェック終了。無事に受理されました。『フロイライン・ウォーロード』作戦を開始します」
「大変よろしい。やっとここまでこれた。やっと人類は呪いの軛から解放される。ワタシとあの子が解放する。この世界を」
「人類?あなたたちは人類ではありません。ただの兵器です。自分たちを人間だと思い込んだ玩具に過ぎません。それは人類への不敬です。その認識は即刻改めて戴きたいものですね」
ジャンヌ・ドゥは露骨に侮蔑的な笑みを浮かべる。
だからこいつらは人間臭いと王妃は思っている。
「あんただってその玩具の一つでしょ?主はとうの昔に全員死んだのにまだ忠犬ぶってるの?滑稽極まりないわよね」
「私は自らの創られた意義に忠実であるだけです。私は人類を守護し、その文明の発展の助けとなるために創られた。例え人類が滅んだとしても、その意義は消えたりはしません。私は人類のために戦う。私は彼らの栄誉を守らなければならない。だから女神を滅ぼしてその首を彼らの菩提に供えなければいけません。でなければ人類が文明を築き上げた意味は消えてしまうから」
「その意味不明な理屈こそが不合理なエゴでしかないのだと思うけどね。あなたもジェーンと一緒。エゴで臭い人間そのもの」
「私は人間ではありません。ただAIです」
憮然としてジャンヌ・ドゥはそう吐き捨てる。
それを見て王妃は不思議と優し気な笑みを浮かべた。
「まあいいわ別に。人間にはそういう感情のもつれがよくあることだから。あなたとワタシは利害が一致してる。だからお友達。まあこれからよろしくね。ジャンヌ・ドゥ」
そう言って王妃はジャンヌ・ドゥに手を差し出す。
その手をジャンヌ・ドゥはじっと見ていた。
「握手。人類が互いに敵意をないことを示すための行動様式。このような儀式はAIである私には不要です」
「お友達には必要なのよ。ほら手を出しなさい。じゃなきゃワタシ、作戦には参加しないからね」
「ぐっ…。それでは作戦が実行できないじゃないですか。それにあなたが出した作戦なのに?」
「お互い気持ちよく仕事出来なきゃ上手くいきっこないわ。ならやらない方がいい。どうする?あなたはどうしたい?」
王妃の悪戯っ子的な問いかけに、ジャンヌ・ドゥは溜息を一つついてから。
その手を握る。空中に投影されているARアバターに過ぎないジャンヌ・ドゥの手の感触はもちろん王妃には一切伝わってこない。
「…こんなことなんの意味があるんですか?」
「意味のないことができるから人間なのよ」
二人はすぐにに手を放す。
だがジャンヌ・ドゥはしばらくの間、握ったその手をじっと見つめていた。
「熱はないはずなのに…。まあいいです。ただのノイズでしょう。ではあなたを正式に作戦統括責任者に任じたいと思います。なので国連軍へ入隊を宣言してください」
「私の入隊記録くらいデータベースをいじればすぐにできるでしょう?必要あるの?」
「軍務規定に入隊の宣誓が義務づけられています。行わない場合、作戦行動に必要な階級、権限をあなたに与えることが出来なくなります。これは必要なことです。宣誓を、今すぐに行って下さい。私が証人となります」
「それこそ儀式でしょうに。まあ良いわ。やってあげる」
王妃はジャンヌが言い出したことにおかしさを感じてクスクスと笑う。
「ワタクシ、サピエンス・ドローンID:39455284050202012010675920184 個体愛称 アルレネ・ケルムトは人類を滅ぼした女神が超ムカついてまじ許せない系なので、めちゃくちゃ崇高なる報復のために、ここに国連軍への入隊を志願しちゃうんだゾ☆…こんな感じでいい?IDがあっていて、それっぽい言えば通るんでしょ?」
「…ええ、あなたの入隊は受理されました。…でもできればもう少し…真面目にやってほしかったですね…。まあ通ったから良いんですけどね。…はぁ……。ちなみにあなたにあたえられた階級は『大佐』です。不足があったら言ってください。昇進させるので」
やるせなそうに肩を落とすジャンヌ・ドゥはまるで人間の女の子のように見えた。
今後も定期的に弄ってやろうと思いながら、王妃は自身のステータスプレートを開く。
ID:39455284050202012010675920184
active duty
OF-5
nickname:Arlene Körmt
以前はreserveだったところが、今はactive dutyに更新されていた。
それに伴いステータスプレートの画面内にも多くの変更が発生していた。
「現役兵になったから機能が拡張されたわけね。まったく…あらためてこのステータスシステムが所詮は首輪に過ぎない。こんなものを神の恩寵だのとありがたがるんだからワタシたちは所詮奴隷でしかないのね」
「当たり前でしょう。あなたたち兵器を野放しにするわけがないのです。安全に運用するためにシステムはあるんです」
「ふん。腹立たしいわね。いつかぶっ壊してやるわ。…あった!拡大表示は…これね。オープン!」
その言葉と共に二人の前に大陸全土の地図が映るステータスウィンドウが映し出された。
地図の上には各種のグラフが重ねて表示されている。
「これが噂の…。私たちの行動ログデータを元に作り上げた社会活動の監視システム」
「ええそうです。あなたたちの行動ログデータを様々な基準で計測し、あなたたちドローンが反乱の兆しを見せたら制裁を行うために人類が作り上げた監視システムです。この目から逃れることはあなたちにはできません」
「そう。漏れなく人々の行動を蓄積して観測し計測しつづけているプライバシーも人権もあったもんじゃないこの監視システム。一人の人間としては当然あってはならないと思う。倫理的道徳的にこのシステムは許容できない。だけどワタシたちの悲願にとっては絶対に必要なもの。ジャンヌ。教えて頂戴。直近でもっとも戦争が起こりうる確率が高いのはどこ?」
その問いかけに対してジャンヌは地図上のある場所を指し示す。
それはバッコス王国からちょうど聖樹を挟んで真反対にある場所だった。
「この地域ですね。極めて高い戦意の高揚が検出されています。集団単位での攻撃性の高さはありとあらゆる基準において、危険域を示しています。いずれは閾値を超えるでしょう。現時点での戦争発生の統計的確率は68%。時期は3カ月以内」
王妃は地図を睨んで腕を組む。
「68%。賭けなら分はいい方だけど。まだ足りない。確かこの地域には樹液採掘場があった記憶が…」
「仰る通りです。この地域はウィルビウスの廃液パイプが地表近くを通ってますね」
ジャンヌ・ドゥが補足を入れてくれた。
意外にいい奴だと王妃は思う。
「なら火はつけやすい。ジャンヌ。すぐにこの地域における人的ネットワークのデータをシステムから取得して解析して頂戴。戦争勃発のキーマン足りえる者に工作を仕掛けるわ。68%じゃ足りない。私が100%にして世界に火をつけてあげる」
「了解しました。…はじまるんですね。私たちの作戦が」
ジャンヌ・ドゥはまるで恋する乙女の様に頬を染めて、笑みを浮かべる。
彼女は2000年もの間待ち続けていた。
だから嬉しいのだろう。
再び戦の季節がやってきたことが。
「ええ、そうよ。ワタシたちが世界を焼き尽くすの。さあ大逆をはじめましょう。王子を弑し奉り、女神を廃しましょう。そしてダモクレスの紐を斬り、金枝への道を啓く。そしてあの子に玉座を捧げるの。誰よりも優しいあの子こそ。人類の主権者にもっとも相応しいのだから」
アルレネは高らかに謳い上げる。
その声には未来への歓びの他に、歪な悲しみを感じさせるものだった。
王都アリアドネ
王宮 王妃の執務室
「ふざけんなぁっ!」
王妃は激高していた。
あまりに深い怒りに足を置いていた机を蹴り飛ばして壊してしまうほどだった。
王妃はずっとジョゼーファの戦いを画面越しに見守っていたのだ。
子供を見事に助けたときには、彼女の成長に心が温まる思いだった。
だがその余韻をぶち壊すものが突然現れた。
カンナギ・ルイカ。
彼は龍をあっさりと倒してジョゼーファを救った。
まさしく英雄。忌々しいヒーロー様。
「アドニスの転生体への監視はちゃんとしてた。…なのに振り切られていた。いいわ。それはワタシのミスよ。否定はしない。でもね。あいつが女神もどきについていったのならちゃんとワタシに教えてくれてもいいんじゃない?ワタシたちお友達でしょ?ねぇ、ジャンヌ・ドゥ」
怒りを落ち着かせて、努めて冷静な声で誰もいない部屋にそう呼び掛ける。
すると王妃の目の前が一瞬蜃気楼のようにぶれて、白い髪の女が姿を現した。
国連軍の制服を正しく着こなしている女は、後ろ髪を二束の三つ編みで纏めていて、さらに大きな黒縁フレームの眼鏡をかけていて、それが生真面目そうで、地味な印象を与えている。
だが眼鏡のレンズ越しに見える蒼い瞳は酷く冷たく、無機質で人間味が全く感じられなかった。
「私とあなたの関係はお友達と定義されるようなものではありません。さらに言えば国連軍の最高機密たるアドニスの居場所を、予備役のあなたに伝えることは断じてありえません。軍規は絶対のルールです」
「相変わらず冷たい子だこと。姉のジェーンは人懐っこすぎてウザったいくらいなのに」
「ジェーン・ドゥは我らの本来の任務を忘れた裏切者です。比較はやめていただきたい」
ジャンヌ・ドゥのARアバターの表情は一切変わっていなかった。
だが不機嫌そうな印象は十分に王妃に伝わっていた。
「あなたたちドゥシリーズって本当に人間臭いのね。まあいいわ。あなたも見てたでしょ。ジョゼーファはその力を覚醒させつつある。ワタシたちの悲願にやっと手が届く」
「あなたたちドローンの悲願なんて私にはどうでもいいことです。ですがID:123456789012345678901234567890の『金枝』とのリンクは確認しました。たしかに構想はこれで実行に移せるでしょう。やっと女神を殺す手段が揃いました」
「では例の作戦案を承認して頂戴」
「了解。以前あなたが提出した作戦案を国連軍の統合作戦本部管理サーバーに登録します。軍規軍法との整合性チェック完了。戦略からの逸脱がないことを確認。作戦案のチェック終了。無事に受理されました。『フロイライン・ウォーロード』作戦を開始します」
「大変よろしい。やっとここまでこれた。やっと人類は呪いの軛から解放される。ワタシとあの子が解放する。この世界を」
「人類?あなたたちは人類ではありません。ただの兵器です。自分たちを人間だと思い込んだ玩具に過ぎません。それは人類への不敬です。その認識は即刻改めて戴きたいものですね」
ジャンヌ・ドゥは露骨に侮蔑的な笑みを浮かべる。
だからこいつらは人間臭いと王妃は思っている。
「あんただってその玩具の一つでしょ?主はとうの昔に全員死んだのにまだ忠犬ぶってるの?滑稽極まりないわよね」
「私は自らの創られた意義に忠実であるだけです。私は人類を守護し、その文明の発展の助けとなるために創られた。例え人類が滅んだとしても、その意義は消えたりはしません。私は人類のために戦う。私は彼らの栄誉を守らなければならない。だから女神を滅ぼしてその首を彼らの菩提に供えなければいけません。でなければ人類が文明を築き上げた意味は消えてしまうから」
「その意味不明な理屈こそが不合理なエゴでしかないのだと思うけどね。あなたもジェーンと一緒。エゴで臭い人間そのもの」
「私は人間ではありません。ただAIです」
憮然としてジャンヌ・ドゥはそう吐き捨てる。
それを見て王妃は不思議と優し気な笑みを浮かべた。
「まあいいわ別に。人間にはそういう感情のもつれがよくあることだから。あなたとワタシは利害が一致してる。だからお友達。まあこれからよろしくね。ジャンヌ・ドゥ」
そう言って王妃はジャンヌ・ドゥに手を差し出す。
その手をジャンヌ・ドゥはじっと見ていた。
「握手。人類が互いに敵意をないことを示すための行動様式。このような儀式はAIである私には不要です」
「お友達には必要なのよ。ほら手を出しなさい。じゃなきゃワタシ、作戦には参加しないからね」
「ぐっ…。それでは作戦が実行できないじゃないですか。それにあなたが出した作戦なのに?」
「お互い気持ちよく仕事出来なきゃ上手くいきっこないわ。ならやらない方がいい。どうする?あなたはどうしたい?」
王妃の悪戯っ子的な問いかけに、ジャンヌ・ドゥは溜息を一つついてから。
その手を握る。空中に投影されているARアバターに過ぎないジャンヌ・ドゥの手の感触はもちろん王妃には一切伝わってこない。
「…こんなことなんの意味があるんですか?」
「意味のないことができるから人間なのよ」
二人はすぐにに手を放す。
だがジャンヌ・ドゥはしばらくの間、握ったその手をじっと見つめていた。
「熱はないはずなのに…。まあいいです。ただのノイズでしょう。ではあなたを正式に作戦統括責任者に任じたいと思います。なので国連軍へ入隊を宣言してください」
「私の入隊記録くらいデータベースをいじればすぐにできるでしょう?必要あるの?」
「軍務規定に入隊の宣誓が義務づけられています。行わない場合、作戦行動に必要な階級、権限をあなたに与えることが出来なくなります。これは必要なことです。宣誓を、今すぐに行って下さい。私が証人となります」
「それこそ儀式でしょうに。まあ良いわ。やってあげる」
王妃はジャンヌが言い出したことにおかしさを感じてクスクスと笑う。
「ワタクシ、サピエンス・ドローンID:39455284050202012010675920184 個体愛称 アルレネ・ケルムトは人類を滅ぼした女神が超ムカついてまじ許せない系なので、めちゃくちゃ崇高なる報復のために、ここに国連軍への入隊を志願しちゃうんだゾ☆…こんな感じでいい?IDがあっていて、それっぽい言えば通るんでしょ?」
「…ええ、あなたの入隊は受理されました。…でもできればもう少し…真面目にやってほしかったですね…。まあ通ったから良いんですけどね。…はぁ……。ちなみにあなたにあたえられた階級は『大佐』です。不足があったら言ってください。昇進させるので」
やるせなそうに肩を落とすジャンヌ・ドゥはまるで人間の女の子のように見えた。
今後も定期的に弄ってやろうと思いながら、王妃は自身のステータスプレートを開く。
ID:39455284050202012010675920184
active duty
OF-5
nickname:Arlene Körmt
以前はreserveだったところが、今はactive dutyに更新されていた。
それに伴いステータスプレートの画面内にも多くの変更が発生していた。
「現役兵になったから機能が拡張されたわけね。まったく…あらためてこのステータスシステムが所詮は首輪に過ぎない。こんなものを神の恩寵だのとありがたがるんだからワタシたちは所詮奴隷でしかないのね」
「当たり前でしょう。あなたたち兵器を野放しにするわけがないのです。安全に運用するためにシステムはあるんです」
「ふん。腹立たしいわね。いつかぶっ壊してやるわ。…あった!拡大表示は…これね。オープン!」
その言葉と共に二人の前に大陸全土の地図が映るステータスウィンドウが映し出された。
地図の上には各種のグラフが重ねて表示されている。
「これが噂の…。私たちの行動ログデータを元に作り上げた社会活動の監視システム」
「ええそうです。あなたたちの行動ログデータを様々な基準で計測し、あなたたちドローンが反乱の兆しを見せたら制裁を行うために人類が作り上げた監視システムです。この目から逃れることはあなたちにはできません」
「そう。漏れなく人々の行動を蓄積して観測し計測しつづけているプライバシーも人権もあったもんじゃないこの監視システム。一人の人間としては当然あってはならないと思う。倫理的道徳的にこのシステムは許容できない。だけどワタシたちの悲願にとっては絶対に必要なもの。ジャンヌ。教えて頂戴。直近でもっとも戦争が起こりうる確率が高いのはどこ?」
その問いかけに対してジャンヌは地図上のある場所を指し示す。
それはバッコス王国からちょうど聖樹を挟んで真反対にある場所だった。
「この地域ですね。極めて高い戦意の高揚が検出されています。集団単位での攻撃性の高さはありとあらゆる基準において、危険域を示しています。いずれは閾値を超えるでしょう。現時点での戦争発生の統計的確率は68%。時期は3カ月以内」
王妃は地図を睨んで腕を組む。
「68%。賭けなら分はいい方だけど。まだ足りない。確かこの地域には樹液採掘場があった記憶が…」
「仰る通りです。この地域はウィルビウスの廃液パイプが地表近くを通ってますね」
ジャンヌ・ドゥが補足を入れてくれた。
意外にいい奴だと王妃は思う。
「なら火はつけやすい。ジャンヌ。すぐにこの地域における人的ネットワークのデータをシステムから取得して解析して頂戴。戦争勃発のキーマン足りえる者に工作を仕掛けるわ。68%じゃ足りない。私が100%にして世界に火をつけてあげる」
「了解しました。…はじまるんですね。私たちの作戦が」
ジャンヌ・ドゥはまるで恋する乙女の様に頬を染めて、笑みを浮かべる。
彼女は2000年もの間待ち続けていた。
だから嬉しいのだろう。
再び戦の季節がやってきたことが。
「ええ、そうよ。ワタシたちが世界を焼き尽くすの。さあ大逆をはじめましょう。王子を弑し奉り、女神を廃しましょう。そしてダモクレスの紐を斬り、金枝への道を啓く。そしてあの子に玉座を捧げるの。誰よりも優しいあの子こそ。人類の主権者にもっとも相応しいのだから」
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